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第四十三話 闇の魔道士

 ビアンカ殿下とスラタロウの頑張りによってキャンプ場が整備されたので、続々と出身地別に難民の移動が始まった。

 うん、やっぱり亜人が多くて痩せている人が多い。

 しかも荷物を持っている人も少なく、服装もボロボロで中には裸足の人もいる。

 食糧事情に加えて物資も不足しているようだ。

 バルガス領の難民キャンプと違って、深刻度が違うぞ。

 どれだけ元いた領地で食べる事が出来なかったのだろうか……

 そしてもう一つ気になることが。

 念の為にビアンカ殿下とテリー様に聞いてみよう。


「ビアンカ殿下、テリー様。確認したい事があります」

「何じゃ、サトーよ」

「いかがしたか、サトー殿よ」

「万が一闇のギルドがこの難民キャンプを襲うとなると、どのタイミングを狙ってくると思いますか?」

「うむ、こうして難民が移動している時。もしくは食事中じゃろうな」

「多くの人が移動している時はそれだけ混乱も起こりやすい。奇襲としては定石でしょう」

「ありがとうございます、やはりそうですよね」

「警戒しておく事は大事じゃ。いくらシルがならずものを捕まえたとはいえ、どんな場面でも襲撃はありえるのじゃ。現にバルガス領では安全と思われた街中で襲撃があった事じゃし」

「我らの騎士もその辺りは心得ておる。だが忠告は有難いことだ」


 うん、流石ビアンカ殿下だ。ちゃんと気がついている。

 そしてテリー様も、その筋肉に違わず武闘派らしい。軍事関係はかなり詳しそうだ。

 今は状況が状況だけに、いつもよりも警戒しておく事になるだろう。

 しかし、ここから俺の評価を巡っておかしな展開に発展していく。


「しかしその辺りへも気を配ることが出来るとは、流石は殿下が信頼する冒険者でありますな」

「いえいえ、俺なんかはまだまだ実力はありませんよ。戦力に至っては殿下やミケどころかシルクスパイダーにすら負けますから」

「ほほほ、謙遜するな。そなたの実力は戦う事にあらず、その統率力じゃ。いくら大きな力を持っていても発揮できなければそれで終いじゃ。そなたは周囲の力を上手く使うことが出来るのじゃ」

「初めて会ってまだ間もないが、リンもサトー殿を信頼しているのがわかる。仲間から信頼を得るのも指揮官の大事な仕事だ」

「正直良い仲間に恵まれているというのもあります。みなさん素直な方が多いですから」

「ははは、サトーらしいのう。此度の件もあるし、王族を助けた実績もある。アルスお兄様も信頼をしておる。将来的に爵位を叙されるのは確実じゃろう。のうバスク卿よ、リンの将来の相手候補にするのはどうじゃ?」

「ふむ、これはなかなか。いやかなり条件が良い。リンは妾腹とはいえ貴族令嬢だ。しかし身分の問題さえ解消されれば、王家や公爵家との繋がりも深まる。変な貴族に嫁に出すよりもよほど良い事だ」


 あれれ? 指揮官能力があると褒められたら、爵位の話やリンさんのお婿さん候補に話が膨らんでいる。

 しかも結婚で一番の難関である父親の許可がもうOKの状態に……

 回避出来ない様に外堀を埋められてきている。


「敵襲!」

「ゴブリンの大群だ」

「早く難民をキャンプに入れろ!」


 おっと、守備兵が大声で叫んでいる。街道にゴブリンの大群だ。

 危険な話がそれてよかったぞ。


「上位種はいないぞ、慌てるな」

「陣形を崩すな」


 ざっと見た感じ五十匹くらいだが、上位種はいない。

 これなら守備兵でも対応出来る……何かおかしいぞ。

 ゴブリンが牽制をしてあまり攻めてこない。

 守備兵を引きつけている様にも見えるか。


「ビアンカ殿下、テリー様。ゴブリンの様子がおかしくありませんか?」

「何じゃ? 上位種もいないただのゴブリンの集団じゃ」

「あの位は我が守備兵で十分だろう」

「いや、ゴブリンが無理に攻めてきません。恐らくどこかに上位種がいる可能性が」

「まさか陽動じゃと? ふむ、そういえば奴らは以前にも仕掛けておったのう」

「うむ、流石はサトー殿じゃ。周囲の警戒を怠るな」


 ビアンカ殿下とテリー様も陽動とは思ってなかった様だ。

 不自然さを感じて警戒を高めた。


「シル、周囲を警戒してくれ」

「うむ、任せるのだぞ」

「ミケ、リンさん。敵襲に気をつけてください」

「お兄ちゃん、了解だよ」

「サトーさん、こちらは大丈夫です」

「ルキアさん、リーフも準備してくれ」

「はい、お任せください」

「こっちもOKだよー」


 うん、みんな直ぐに反応してくれた。

 スラタロウとかも問題なさそうだ。

 ヤキトリとサファイヤが上空に上がり、探索を開始した。

 こちらもいつでも動けるぞ。


「ふむ、やはりいい指揮能力だ」

「うむ、流石はサトーよのう」


 だからビアンカ殿下にテリー様、俺の評価を上げないでください。


 周囲を見渡し、周りに変化はないか。

 ほんの数秒が長く感じる。


「サトー、周囲に魔法の揺らめきがー」


 リーフがこっちにきてある一点を指差す。

 難民キャンプと炊き出しのちょうど中間点で少し距離がある所。

 そこに黒いフードを深く被って、身長の大きさ程の杖を持っている魔道士が一人不気味に立っていた。

 魔道士の表情は一切窺えないが、俺の頭の中で警戒が鳴り止まない。


「主人、気をつけるのだぞ。奴が現れた時に全く匂いがしなかったぞ」


 そう、全くシルが反応しなかったのだ。

 なのに、周囲への威圧感が半端ない。

 全員武器を持って要警戒しているが、自分から動けない。

 俺は思わずごくりと息をのむ。


「……」


 魔道士が杖を掲げ何か唱えている。

 すると複数の魔法陣が発動し、大量のゴブリンが現れた。

 今度はゴブリン? いやゴブリンキングもいるぞ。

 ゴブリンアーチャーにゴブリンメイジも居て、なかなかの戦力を出してきた。


「難民の安全を優先にして、先ずはゴブリンアーチャーとゴブリンメイジを潰す。馬はテリー様とラルフ様の護衛に。前衛がミケとリンさんしかいないから、あまり突っ込みすぎないように」

「妾とシルはどうするかのう」

「打ち漏らしを撃破しつつ死角がない様に警戒してください。どうも相手のペースになっているのが気がかりです」

「うむ、遠距離の魔法攻撃を中心に様子を見るかのう」

「主人よ、あの魔道士はまだ動かないぞ。何かを企んでいるぞ」

「ああ、嫌な予感がする。リーフはそのまま周囲の探索を続けてくれ」

「了解だよー」


 魔道士はゴブリンを出してきたが、未だに大きく動かない。

 こちらも周囲の様子を見つつ散発的に攻撃を出すのみだ。

 ここは一つデカいので様子を伺ってみるか。


「スラタロウ、タコヤキ。デカいのを時間差でやってみてくれ」


 スラタロウとタコヤキが了解した。

 さて、魔道士はどう動くか。

 スラタロウが大きな火球を放ち、続いて旋風がゴブリンを襲う。

 通常ならこれで一発でゴブリンを葬り去る事が出来るが……


「……」


 うん、やっぱり魔法は防がれた。

 魔道士が何か詠唱したのが見えた。

 でもよく見ると、足元の石つぶなどは透過している。


「サトーよ、全て弾かれたぞ」

「ビアンカ殿下、予想はしていました。あの魔道士がゴブリンの集団に魔法の壁を展開している様ですね。ただし防いでいるのは魔法のみの様です」

「魔法のみ? どういう事じゃ?」

「これを見て下さい」


 ビアンカ殿下の疑問に答える為、アイテムボックスからナイフを取り出しゴブリンに投げつけた。

 ナイフは何事もなかったかの様にゴブリンに刺さった。


「サトーよ、ナイフは普通に刺さったのじゃ。これはどういう事じゃ?」

「肉弾戦にしたいのでしょう。つまり魔道士はこちらに魔法の壁を破れないと思っているのでしょうし、実際に手立てがない。シル、魔法の壁を破る手段は持っているか?」

「残念ながら、今は持っていないぞ」

「そっか、魔法の壁を破る手段は後で聞こう。ビアンカ殿下、ここは魔道士の作戦に乗ってやりますか」

「うむ、このまま待っているのも焦れったいからのう」


 このままだと睨み合いで何も解決出来ない。

 ビアンカ殿下が突っ込み、それを合図に先頭が開始された。

 魔法使いが活躍できない分、ミケとリンさんとビアンカ殿下それに騎士や守備兵の人が頼りだ。

 タラちゃんなどは糸で攻撃の補助が出来るので、今日は前線で戦っている。

 魔法使いは難民の保護にあたっている。

 街道にいるゴブリンと同様に、ここのゴブリンも積極的に仕掛けてこない。

 あたりは土埃で見えにくくなっている。

 

 ……魔道士はどこだ?

 何を狙っている?


「サトー、あそこー!」


 不意にリーフの声が聞こえた。

 魔道士がこの乱戦を利用して仮設で作った収容所に近づいていた。

 魔道士の目的はならずものの口封じか!

 俺は急いでリーフと共に収容所に向けて走り出した。


「……」

「くそ、剣が弾かれる」

「魔法もダメだ」


 魔道士は自身を魔法の壁で守りながら、何か詠唱の準備を唱えている。

 魔道士を止めようと収容所を警護していた騎士が攻撃を繰り出すが、魔道士の魔法の壁に阻まれ全く通用しない。

 今度は魔法だけでなく物理攻撃もだ。

 

「……」

「なんだ?」

「これは?」

「「うわー!」」


 突然魔道士を中心に大きく衝撃波が発生し、魔道士を攻撃していた騎士がまとめて吹っ飛ばされた。

 俺もリーフも衝撃波の余波で咄嗟に構えてしまった。

 魔道士が杖を掲げた。

 マズい、俺とリーフの攻撃が届く前に魔法を発動させられる。


「「「ギャー!」」」


 収容所の中から断末魔の叫びが聞こえる。

 魔道士が収容所の中のならずものに向けて、容赦なく黒い稲妻を放っている。

 相当高威力なのか、しばらく続いた叫び声も直ぐに聞こえなくなった。


「この野郎!」


 俺は魔道士に向かって刀を振りかざすが、魔法の壁に阻まれ届かない。

 魔道士はこちらを一切振り向かず、魔法を放ち続ける。


「くそ、もう一回!」


 俺は魔道士に向かって再度刀を振りかざす。

 何か薄くヒビが入った感触があったが、一向に魔法の壁は破れない。

 魔道士はこちらに手を向けた。


 ドーン。


「ぐふ……」

「サトー、サトー!」


 衝撃波が俺を襲い、一気に十メートル以上吹っ飛ばされた。

 なんとか骨は折れていないが、全身打撲と擦り傷だらけだ。

 リーフが俺に声をかけながら、回復魔法をかけてくれる。


「……」


 魔道士は収容所にかけていた魔法を止め、魔法陣を展開した。

 この場から離脱するつもりだ。


「逃げるのかよ!」

「……」


 こちらの事を全く気にせずに、魔道士はこの場から離脱した。

 ゴブリンは残したままだ。

 急いで収容所に向かい中を確認するが……

 中は何もかもが真っ黒焦げだった。


「くそ! くそ!」

「サトー! 壁を殴っちゃだめー!」


 今回は敵のペースに巻き込まれ、何も出来なかった。

 自分の不甲斐なさに腹が立った。


「くそー……」

「サトー、サトーはよくやったよー。だから自分を傷つけないでー」


 リーフが壁を殴っていた俺の拳に止まり、回復魔法をかけてくれる。

 よく見ると、リーフはポロポロと涙をこぼしていた。

 回復魔法で手が治っても、リーフは俺の手をその小さな手で撫で続けていた。


「ありがとう、ごめんなリーフ」

「本当だよー。戦いとは別の所で回復魔法は使いたくないなー」


 リーフから苦笑されながら注意された。

 リーフの涙は止まっている。

 周りを見渡すと、殆どゴブリンは討伐された様だ。

 今回の戦いは完敗だ。完全に敵の思惑通りに進んでしまった。

 今後の事も考えて、色々対策を考え直さないと。

 終戦に向かう現場を眺めながら、俺は考えを巡らせていた。

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― 新着の感想 ―
全体的に薄っぺらい感じが凄い。 主人公は中途半端で優柔不断で流され体質。本人の意思なく勝手に話が進んでいく。第二の人生なのにね。 セリフのたびにいちいち名前入れると違和感しかない。
[良い点] 楽しく見させてもらっています [気になる点] 主人公が努力してる描写がないの悔しがりすぎな気がします
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