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第三百七十話 卒園式の準備は大丈夫?

 なぜ人神教国の残党が動き出したかはさておき、目の前に迫ったイベントがある。

 そう、学園の卒園式があるのだ。

 今年はエステルとリンとフローレンスが卒業になるのだが、一応王族という事でエステルが総代だという。

 エステルが総代というのはとっても不安だと皆の共通理解で、本番が明後日に迫る中王城でフローラ様の監視の元徹底的に練習を行っていた。

 

「総代の文章もフローラ様が監修していますし、問題ないかと」

「といいますか、保護者として陛下とフローラ様が参加しますので下手なことは出来ないと思います」


 食堂で皆と話しているが、リンとフローレンスの見解も同じだ。

 エステルは、自分が大物という自覚をもう少し持って欲しい。

 そんな事を話していたら、ショコラがボロボロになっているエステルを連れて戻ってきた。

 うーん、今日もエステルはフローラ様に散々絞られた様だ。


「ぐへえ、疲れたよ。お母さんのしごきが半端ないよ」


 椅子に座ってテーブルにぐてーとしているエステルの事を、ショコラがやれやれって感じで見ていた。


「これで、当日サトーが来てくれないとやる気が出ないよ」

「え? 俺は卒園式に参加しないよ」

「何でよ!」


 エステルががばっと起き上がって俺に指をさして抗議をしてくるが、よくよく考えれば当然の事だ。

 

「エステル、お前の両親は陛下とフローラ様だろうが。そもそも王女様が結婚前に婚約者の家にいる事自体、普通はありえないでしょうが」

「そ、そうだった......」


 再びエステルはがくっと凹んでしまった。

 実の両親に卒業しましたとキチンと見せないと。


「そもそも、その日は俺は王城で待機だ。閣僚も出席するしな。フローレンスの保護者としてミケが参加するぞ」

「ミケがフローレンスお姉ちゃんの保護者だよ!」

「がーん、終わった......」


 エステルよ、何故にしてそこまで落ち込むのですか。

 国家行事だから、偉い人が優先でしょう。

 これでうちに爵位持ちがいなかったら業務を調整してでも俺がでてたけど、うちは名誉爵位も含めるといっぱいいるし、俺がいなくても問題ない。

 というか、さっきのエステルの発言を聞くに、俺がいる事を前提として何かをやらかす気でいるのではと思ってしまうぞ。


「エステル、疲れているのならさっさと風呂に入って寝ろ。あと、事前に制服に袖を通しておけ。スカートが入らないとか無いようにな」

「......は!」


 俺がぽつりと言った言葉にエステルが過剰反応している。

 そして急いで二階に駆け上がって行った。

 これは駄目な予感がする。


「ショコラ、すまないけどフローラ様をつれて来てくれないか? って、もういないぞ」

「ショコラは、エステル様が二階に駆け上がった瞬間にいなくなりました」

「きっと、サトー様と同じ考えなので大丈夫ですよ」


 流石だショコラ。エステルの従魔として、本当に苦労しているんだな。

 リンとフローレンスも思わず苦笑していた。

 そして、こめかみをぴくぴくしているフローラ様がショコラと一緒に現れた。 


「フローラ様、ショコラの言う事が分かったのですね」

「ショコラの言う事は何となく分かりますよ。筆談も出来ますし」


 流石はショコラだ、もう執事としても完璧だろう。

 そしてフローラ様はこっちを向いてニコリと微笑んだ。


「ちょっとエステルと馬を借りていきますわ。マリリ、いつものポーションを何本か。人間一日くらい寝なくても大丈夫ですわ。ええ、ふふふ」

「フローラ様、こちらを」

「フローラ様、せめて生かして下さいね」

「分かっておりますわ。さあ、ショコラ行きましょう」


 そしてフローラ様は笑顔のままで二階に上がっていった。

 うん、なんでお母さんがここにとか、ショコラ裏切ったとか言っているのが二階から聞こえているが、どう考えても無駄な抵抗だろう。

 直ぐに静かになった。


「リンとフローレンスは準備万端だよね?」

「はい、私はもう問題ありません。両親も既に王都の屋敷に入っております」

「私も問題ありません。当日を迎えるばかりです」

「こうあるのが普通だよな。まあ、卒園式の朝まで帰って来ないと思った方が良いだろう」

「そうですね」


 もう皆も別の事に意識を切り替えていた。

 そして、やっぱりというかエステルは卒園式の当日になってようやくフローラ様から解放された様だ。

 成果については、何も言わないでおこう。

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