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第百三十三話 女装サトーのお披露目

「このドレスだよ」

「あらまあ素敵ね。スパイダーシルクをふんだんに使っていて素晴らしいわ」

「タラちゃん達が一杯糸を出してくれたんだよ」

「そうなのね。こんな素晴らしい糸を使えるミケちゃんが羨ましいわ」

「ビアンカお姉ちゃんのフランソワなら、きっと一杯糸をくれるよ」

「あら、ビアンカちゃんもアルケニーを従えているのね。これは是非とも交渉をしないと」


 ただいま衣装を着替える部屋に、王妃様とフローラ様とライラック様が、ミケとドレスとスパイダーシルクについて話している。

 ミケもちゃっかりとしているのか、ビアンカ殿下のフランソワに丸投げしていた。

 俺はというと、着替えの担当の方に化粧をされている。

 ミケは何故かウイッグを沢山持っていたので、女装するには困らなかった。

 というか、何でそんなに沢山のウイッグを持っているんだ?


「はい、お兄ちゃんはこれに着替えて」

「はあー、何でまたこんな事に」


 ゴソゴソと着替えていく。

 男性がパンツいっちょで王妃の前で着替えていいものか、かなり不安になってくる。


「私達は子ども達の着替えをしていたから、全然大丈夫ですよ」

「そうですわね。これが太ったオヤジだったら叩き出しますが、サトーさんはオッケーですわよ」


 フローラ様とライラック様。その言い訳はどうかと思いますが。


「はい、指輪つけたらお姉ちゃんの完成だよ」

「へーい」


 ジョークグッズのボイスチェンジャーの指輪をつけて、女装完了。

 しかしこの指輪、全くジョークグッズの役割を果たしていないなあ。


「おお、とても美しいですわね」

「男性とはとても思えないです」

「聖女と呼ばれるのも、とても納得です」


 王妃様とフローラ様とライラック様は、俺の女装姿を絶賛していた。

 くそう、男性として格好良く見られたいのに、全く逆の評価になっているよ。


「ミケちゃんは、お兄ちゃんがきれいだと嬉しい?」

「きれいなお姉ちゃんだと嬉しいよ。でも、いつものお兄ちゃんもカッコよくて好きだよ」

「あら、ミケちゃんは男性でも女性でもサトーさんの事が好きなのね」

「まあ、この姿を見れば納得だね」

「他の方々がビックリするのが目に浮かびますわ」


 あ、何となく王妃様と側室の方が仲良い理由が分かった。

 皆さん、たくましい上にいたずらっ子の気質があるんだ。

 この辺は、ビアンカ殿下にそっくりだな。


 更に王妃達にて改造させられた俺は、そのまま先程の控室に戻ることに。


「あなた、聖女サトー様ができましたよ」

「おお、そう……か?」

「「「「えっ?」」」」


 王妃様が扉を開けて女装した俺を紹介したら、中にいて俺の女装姿を知らない人は驚きの余り固まっていた。

 女装を知っている人は苦笑していて、エステル殿下は笑いを必死に堪えてピクピクしていた。


「あのサトーが、こうも変わってしまったのか?」

「そうですわよ。似合っていません?」

「いや、美人になっているからビックリした。これなら聖女と言われるのもよく分かるのじゃ」


 なおも思考が追いついていない陛下に、王妃様が説明をする。

 他の閣僚の方も未だにフリーズしている。


「枢機卿、聖女たる理由が分かりましたか?」

「はい、この姿で様々な行いをすれば、それは聖女と呼ばれても仕方ないものです」

「ですよね」


 あ、王妃様とフローラ様とライラック様が何かニヤニヤしている。

 良くない事を考えているな。


「アルス、出発まであと一時間位は時間が取れますか?」

「そのくらいなら全く問題ありませんが、一体何をされるつもりですか?」


 アルス王子は、母親が何か良からぬことを企んでいるのではと疑いの目で王妃様に答えていた。

 俺もアルス王子に全く同感です。


「そんなやましいことではないの。王都の教会でサトーさんに祈りを捧げてもらいたいの」

「そうすれば、更に聖女物語がひろまりますね」

「人神教国にダメージを与えるいいチャンスですわね」


 おお、言っている事はまともだけど、笑顔がとっても黒い。

 陛下や閣僚が王妃様の迫力に負けて、思わず後ずさりしているぞ。


「サトー、俺達は王都にきている子ども達と会う予定だが、サトーは無理だな」

「儂らもこのあと会議があるから、教会に行くのは参加できぬぞ」


 あ、アルス王子達に陛下と閣僚が逃げたぞ。

 しかも断りにくい言い訳まで用意している。


「大丈夫ですよ。私達で教会に向かいますから」


 そして王妃様はそんな事は既に折り込み済みでいたのか、侍従にあれこれ指示を出していた。


「さて、サトーさん行きますわよ」

「そんなに怖がらなくても大丈夫です」

「ただ教会に行くだけですからね」

「と言って、なんで引きずられているんですか!」


 俺は王妃様にずりずり引きずられて、控室を後にした。

 扉が閉まる瞬間、安堵の表情だった陛下が印象的だった。

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