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第百十話 ひまわりの苗

 俺と軍務卿の戦闘でぐちゃぐちゃになった庭を、俺とビアンカ殿下とヴィル様とで直していく。

 今まではここまで派手な訓練はなかったから、庭が荒れることはなかったけど、さっきの軍務卿との戦闘は俺もどうしようもなかった。

 次の訓練は別の場所でやらないと、同じ事の繰り返しになるぞ。

 被害の大半は芝生が剥げたところだったので、そこは地面を平らにならして芝生が伸びるのを待つしかない。

 そして一番の問題は、とある小さな花壇。

 思いっきり軍務卿の足跡がついていて、苗が既にクタっとなっていた。

 これは一度キレイにして、また苗を植え直さないといけない。

 それよりも、この花壇を作った人にこの惨状をどう説明するか。


「ビアンカ殿下、俺はこの惨状を説明できる自信がないです」

「妾も無理じゃ。泣かれるのが目に見えておる」

「ビアンカ様。ひょっとしてこの花壇を作ったのは、建物の影からこちらを見ている子ですか?」

「ああ、そうじゃ」


 ヴィル様も思わず頭を抱えたこの花壇の製作者は、違法奴隷として囚われていた子ども達。

 先程から、お屋敷からこちらをチラチラと見ている。

 違法奴隷の中でも、特に小さいうさぎ獣人の女の子が毎日水をやっていて、その女の子がこちらにトコトコとやってきた。

 既に、目には大粒の涙を浮かべている。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。苗がぺちゃんこになっちゃったよ」

「ごめんね、ごめんな」

「ワーン」


 改めてぺちゃんこになった苗を見て、女の子は俺に抱きついて泣き始めた。

 女の子が泣き始めたのを皮切りにして、次々に他の子ども達が集まってきた。

 

「ビアンカ殿下、俺は今日子ども達に付き合います。流石にこのままにしておくのはできないので」

「サトーが罪悪感を感じるのも仕方無いのじゃ。妾も書類整理が終わり次第手伝うのじゃ」

「僕も皆さんのお手伝いをします」


 もう少ししたら街のお店が開くから、子ども達を連れて苗を買いに行かないと。

 そう思っていた所で、馬車から軍務卿の奥様がおりてきた。

 そして、こちらに子ども達と俺等がいることに気がついたようだ。


「サトー様。先程は主人が大変失礼しました。ところでこの子ども達はどうしたのですか?」

「奥様、この子達は違法奴隷として囚われていました。今はこのお屋敷で療養していますが、実はここの花壇がその子ども達が世話していたものでして」

「それで、こんなに泣いているのですね。主人からこの子達の置かれていた境遇を聞いておりましたので、私も心が痛いです」


 奥様はしゃがんで俺に抱きついていた女の子の頭を撫でながら、花壇の惨状を見ていた。

 そして、おもむろに立ち上がって再び馬車の方へ向かっていった。

 再度馬車から聞こえる怒声に謝る声。

 奥様は子ども達が泣いているのを見て、再び怒りがこみ上げてきたらしい。

 君子危うきに近寄らずとは、このことだな。

 今のうちにビアンカ殿下とヴィル様はお屋敷の中に入っていき、俺はアイテムボックスからリアカーを出して、何人かの子ども達と共に花屋さんに向かった。


「わー、一杯お花があるよ」

「どれにしようかな」


 花屋に到着すると、リアカーに乗っていた子ども達が我先にとおりて様々な花を見ていた。


「いらっしゃいませ、どのようなお花をご所望ですか?」


 中から店員さんが出てきたので、聞いてみよう。


「庭に植える花を見に来たのですが、おすすめはありますか?」

「でしたら、こちらはいかがでしょうか。これから暑くなりますので、お庭にピッタリかと思いますよ」


 店員さんが勧めてきたのは、ひまわりの苗だった。

 他にもトマトとかナスの苗もあるな。

 ここは子ども達に決めてもらおう。


「こっちに苗があるから、みんなで選んでね」

「「「はーい」」」


 子ども達はどの苗にするか、一生懸命悩んでいる。


「お兄ちゃん、この苗はなあに?」

「これはひまわりの苗だよ。夏になったら大きな花を咲かせるよ」

「こっちはなあに?」

「これはナスの苗だよ。その隣がトマトの苗だね。大きくなったら、収穫して食べられるよ」

「うーん、どっちにしようかなー」


 大泣きしていた女の子もみんなと一緒になって苗を選んでいる。

 と思ったら、女の子から相談があった。


「お兄ちゃん、庭に植えるのとは別にもう一個ひまわりの苗を買っていい?」

「いいけど、どこに植えるの?」

「ひみつ」


 女の子には、何やら考えがあるらしい。

 

 結局、ひまわりの苗を十個と野菜の苗を十個購入。

 子ども達はどんな風に苗が成長するのか楽しみで仕方無いらしく、みんなであーだこーだ話をしていた。


 お屋敷に到着すると、ビアンカ殿下とヴィル様の他にも子ども達とララ達も待っていた。

 スコップが足りないなと思ったら、ビアンカ殿下が土魔法を使って簡易的な物を作った。

 このあたりの器用さは流石だ。

 一度花壇をキレイにして、土を掘って苗を植えていく。

 片方がひまわりで、もう片方が野菜の苗。

 植えた苗に水を上げたら完成。

 子ども達も花壇の様子に喜んでいて、俺も思わずホッと安心。


 と、ここで軍務卿夫妻がこちらにやってきた。

 おいおい、軍務卿の顔がアチラコチラあざだらけだよ。

 奥様に、物理的にもお説教をされたみたいだ。


「あー、子ども達よすまん。大事に育てていた花壇を踏んでしまい申し訳無い」

「何ですか、その言い分は。本当にこの人がごめんなさいね」


 子ども達が花壇を踏まれて泣いていた事に対して軍務卿が謝ってきたのだが、かなりバツが悪そうだ。

 そりゃ自分のやったことで小さい子どもを泣かせたんだから。

 ここで、あの女の子が軍務卿の前にトコトコとやってきた。


「はい、これをあげる。ふんじゃった苗の代わりに育ててみて」


 成程、あの踏まれた苗の代わりにひまわりを育ててということか。

 突然の女の子からのプレゼントに、軍務卿はポカーンとしてしまったようだ。


「あなた、何固まっているんですか? こちらが悪いことをしたのに、逆にプレゼントをもらうなんて。大事に育てますね」

「ああ、すまない。屋敷の庭で大事に育てさせてもらうよ」

「うん」


 女の子は満足したのか、他の子ども達の元へ走っていった。

 これは下手に謝るよりも大変な罰だな。

 軍務卿は、しっかりとひまわりの苗を育てないといけないぞ。


「あの子は中々やるのう」

「そうですね。こちらが一本取られました」


 ビアンカ殿下とヴィル様が感心していた。

 それは軍務卿夫妻にとっても同じだった。

 奥様はひまわりの苗を大事そうに持って、馬車の中に運んでいった。

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