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第百二話 寝所事情

 早朝、俺は何かに乗られている重さで目が覚めた。

 昨日は子ども達がベットを占領したので、俺は一人で寝袋で寝ていた。

 床にはシルとベリルが寝ていて、リーフとタラちゃんとスラタロウとホワイトは、最近お気に入りの大きめのバスケットの中で寝ていたはず。

 これが昨晩俺が寝る前の形だ。


 よし、今の状況を確認しよう。

 俺が寝ていた寝袋の中に、いつの間にかララとリリとレイアが入って寝ている。

 この子らは夜中に目が覚めて、俺の所に潜り込んだのだろう。

 俺の寝袋は大きめなので、子ども達が入っても何とか大丈夫。

 ララとリリの手の中には、スラタロウとホワイトが抱かれていた。これもきっと人形の代わりだろう。

 ホワイトは過去にも違法奴隷の子どもに抱かれていた事があるので、別におかしい訳ではない。

 そして床の上には、ベットで寝ていたはずのミケとドラコが転がっていた。ドラコは寝相が悪いので、ミケも巻き添えになったのだろう。

 ベットの上には、床で寝ていたはずのシルとベリルが寝ている。しかも器用に布団の中に潜り込み、枕を使って寝ている。

 元の場所で寝ているのはリーフとタラちゃんのみ。

 俺はこっそりと寝袋を抜け出し、ミケとドラコに毛布をかぶせた。

 子ども達が起きないように、足音をたてずに部屋を出た。


 まだ早朝なので、お屋敷はメイドさん以外は寝ているだろう。

 まだ眠気があるから、どこかで横になりたいなと思ったら、確か昨日の庭の子ども達がいたところにベンチがあったはず。

 庭に行ってみるとちょうど陽当りの良い所にベンチがあったので、横になって寝ることにする。

 庭の片隅でアルス王子の飛龍がぐーすか寝ているけど、それは気にしないことにしよう。

 横になったら直ぐに眠くなってきた。


 ぐぅ。


「「お兄ちゃん見つけた」」

「パパ、いた」


 ぐほ、暫く寝ていたら突然腹にすごい衝撃が。

 腹の衝撃にもだえながら目を開けたら、ララとリリとレイアが俺の腹の上に乗っていた。

 おおう、若干涙目で俺の事を睨んでいるぞ。


「この子達は、廊下でサトー様を探しながら泣いていたんですよ」


 苦笑した様子で言ってきたのはルキアさん。

 眠たそうに目を擦っているミケもドラコもいると言うことは、子ども達に起こされたのだろう。


「何かと思ってサトー様の部屋を見たら、ベットでシルとベリルが寝ていたんですよ。ものすごいビックリしました」

「それはビックリしますよね。俺も、シルとベリルがベットで寝ているのにはびっくりしましたから」

「ミケちゃんから聞けば、部屋では寝袋で寝ていたと。倉庫から予備のベッドを出しますので、こんな所で寝るのはなしですよ」

「面目ないです」


 経緯が経緯だが、何とかベットをを確保できた。また庭のベンチで寝ないようにしないと。

 ふと庭の片隅を見ると、飛龍が起きていた。お前も大変なんだなって、慈しみの目で見られていた。


 朝食後は再び書類確認をしていたが、だいぶ各村の請願が溜まっていた。領主夫人が全く内政をしていなかった証拠だ。

 各村の請願を分析していると、水路整備の請願が多いな。

 もうすぐ収穫だから至急性はないけど、来年の種まきまでには整備したほうがいいだろう。

 後はやはり土砂崩れ対策だ。無理な農地拡張の歪が、あちらこちらで出ているみたいだ。

 この辺は獣人の力も使って公共事業にすると、ルキアさんが言っていたな。

 

 さて、午前中の仕事はこの辺りまでかな。

 あっ、エステル殿下がそーっと部屋の外に出ようとしている。こっそり脱走する気だが、この部屋にいる人全員にバレてるぞ。


「エステル」

「ひゃい」

「「「ぷっ」」」


 エステル殿下がびくっとなっり、思わずみんなから笑いが漏れた。


「そう構えるな、お前に仕事だ」

「お兄ちゃん、仕事ってまさか書類整理?」


 また書類整理されるのかと、ビクビクしながらエステル殿下が振り返ってきた。

 その様子にアルス王子も苦笑していた。


「そうか、そんなに書類整理がしたいのか?」

「いやいやいやいや、もう書類整理はコリゴリだよ」

「ははは。エステル、残念ながら別の仕事だ。明日、難民の件でリンとともにバスク領へ行ってもらう」

「何だ、前に分担した件だったよね。それならオッケーだよ」

「そうか、それは良かった。では暫くいない分も含めて、午後も書類整理を頑張ってもらおう」

「お兄ちゃんのおにー!」


 午後も書類整理になったエステル殿下の魂の叫びが、執務室に響き渡った。

 

「今日はここまでにするか」

「そうですね」

「お、終わった……」


 アルス王子が早めに終わりにしようと言ってきて、ルキアさんが同意していた。

 一名ほど燃え尽きている人が。途中から頭から煙出そうな位オーバーヒートしていたし。

 ちなみにバスク領へは、護衛と御者を兼ねてオリガさんも同行するという。

 リンさんとオリガさんが、明日の準備で色々話をしていた。


「お兄ちゃん、ただいま」

「サトー、ただいま」

「あれ? 今日は早いな」

「人が一杯きて、作ったのが無くなっちゃった」

「凄い行列だったよ。作っても作ってもなくなるんだもん」


 ミケとドラコが早めに帰ってきたから何かあったかと思ったけど、昨日スラムで炊き出しを食べた人が他の人を呼んだらしい。


「ルキアさん、想像以上に食事にありつけていない人がいるんですね。炊き出しの人手を増やしますか?」

「炊き出しのお手伝いなら、違法奴隷として囚われていた成人女性をあてます。仕事が何かないか相談があったので。自治組織から護衛も付くそうです」

「護衛がつくなら安心ですね。ミケとドラコも、明日は周りの人も多いから頑張ってね」

「ミケにお任せだよ!」

「僕も頑張る」


 スラムの対策もあるけど、まずは炊き出しの対応もしないとな。


「後、スラムに行くときに自治組織から文官も同行するそうです。仕事の希望とかをヒアリングしてきます」

「兵とかは急ぎ必要ですからね。文官も欲しいですし」


 炊き出し会場が、臨時の行政出張所と言うわけか。

 困った人も直ぐに相談できるのはありがたいな。


「「ただいま」」

「パパ、ただいま」

「お、おかえり」


 お屋敷前での仕事を終え、執務室に入ってきたララ達を出迎えてやる。

 子ども達も帰ってきたし、そろそろ夕食かな。


「わー、ベットが増えている」


 部屋に入った所で、ミケがビックリした声を上げた。

 俺達が食事を終えて部屋に入ると、部屋にはベットが増えていた。

 日中の内に、ルキアさんが手配してくれたみたいだ。

 部屋は狭くなったが、これは助かるな。


「よし、これで分けて寝られるな」

「誰が?」

「ミケとドラコ?」

「「やだー!」」


 ミケとドラコがベットを持ち上げて、今寝ているベットにくっつけた。

 そんなに俺と離れるのが嫌なんですか。

 そろそろ一人で寝れるようにならないと。


「これでオッケー」

「これならみんなで寝られるね」

「わー、パチパチ」


 ミケとドラコが一仕事終えた顔をしていた。そして、何故かレイアが拍手していた。


「「じゃあねよー、お兄ちゃん」」


 そしてララとリリに、手を引かれてベットに連れて行かれる。

 子ども達の自立には時間がかかりそうだと思いつつ、みんなでベットに入った。

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