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サクシード  作者: 川北
第一章 夢の始まり
4/11

剣士と美女と変態魔術師と


 材料を仕入れる。商品を作る。商品を売りさばく。


 言葉にするのは簡単だが、実際にそれをこなすには骨身を削る苦労が伴う。


 店を開いてから約二時間。


 さてその間にニーチェが盾を何枚売り上げたのかといえば――答えはゼロである。どんなに良質な品を作ろうとも、売れなければそれに費やした時間と労力はすべて無駄となる。


 ずっと張り上げっぱなしの声がかすれて、ニーチェは小さくむせ込んだ。


 「大丈夫かい?」マーガスがぽんぽんとニーチェの背中を叩く。


 「ちょっと喉が痛くなっちゃいました。少し休憩しますね」


 照れ笑いで誤魔化したものの、肉体的にも精神的にも、ニーチェはひどく疲れていた。


 「いやぁ……売れませんねぇ」独り言のように呟く。「参っちゃいますね」


おどけたように言ってはみたが、実際のところ、盾が売れるかどうかということは、ニーチェにとって生きるか死ぬかという問題に直結していた。売れませんね、では済まされない。売れなければ、生活することができなくなるのだ。


 「最近は盾の需要も減っちゃったからね」


 マーガスが、自前のビスケットを食べながら言った。ニーチェはそれを横目で見つつ、そうですねと返した。


 「盾を求めるのは冒険者かハンターだけどね、ここいらじゃ、連中の標的である魔物がめっきり減っちゃったからなぁ」


 マーガスがサクサク音を立てながら本当にうまそうにビスケットを食べるのを見て、ニーチェは少しうらめしく思った。


 「昔はねぇ、二十年か三十年くらい前は、エグザ地方にも魔物がわんさかいて、ハンターたちと熾烈な戦いを繰り広げたものだけど。ほら炎狼ギルバードが倒されて以来、激減しちゃったでしょ。トロールウルフなんか絶滅しちゃったし」


 「ギルバード……ってエグザ地方の魔物を支配していた魔王の名前ですよね。たしか」


 「あれ、そうか、ニーチェちゃんはギルバード知らないのか。いやはや、やっぱり若いねぇ。二十歳くらいだっけ?」


 十八です、とニーチェが答えると、マーガスは両手を振り上げて大げさに驚きを表現した。


 「それじゃ僕のちょうど半分じゃないの。うーん、若いはずだな、なるほどね」


 一人で納得しながら、マーガスは残ったビスケットをごくんと飲み込んだ。そしてまた、体の後ろから菓子が入った袋を取り出した。


 ニーチェはそれを捉える鋭い眼光を放ち、柔らかく微笑んだ。「マーガスさんは、今でも若く見えますよ」


 マーガスはペチンと自分の額を打って、袋をニーチェに差し出した。


「っかー、ニーチェちゃんってば、中年男性の心を掴むテクニックを身につけちゃってるねぇ。ま、ま、ビスケットでも食べてちょうだいな」


 どうも、と言ってニーチェは自然な動作でビスケットを受け取る。


 客商売を続けていれば、処世術の一つも身につくのは当然のことだ。


 一口食べて。「あっ、このビスケットとってもおいしいです」


 「そぉ? んじゃ残り全部あげるよ」


 このように、気配りを忘れなければ、ときに多大な富を得ることもできるのである。


 「うわぁ、ありがとうございます」


 「ニーチェちゃんは素直だなぁ。可愛いし、仕事熱心だし。言い寄ってくる男も多いんじゃないの?」


 「そんなことないですよ」


 「んんー、僕も言い寄っちゃおうかなぁ」


 下心がもたらす下卑た笑みを浮かべながら、マーガスが顔を近づけてきた。


 さて、このような場合の返し方は――


 「えぇー、私なんか相手にしてたら、恋人さんに怒られちゃいますよ?」


 マーガスがプッと吹き出した。


 「嫌だなぁ、ニーチェちゃん。僕ぁ恋人なんかいないよ」


 ここですかさず。「えっ、嘘! 絶対いると思ってましたよ! マーガスさん、モテそうな雰囲気ですもん!」


 マーガスは、顔面がとろけて見えるほど、上機嫌になったようだった。


 この様子だと、今日も何か商品を分けてもらえるかもしれない。


 膨大な資料を読んで得る知識よりも、即座にしたたかな策略を練る知恵のほうが価値あるものだということを、ニーチェはこの年齢にして悟っていた。


 「くあー、本当に上手いんだからもう。ニーチェちゃんこそ、本当に彼氏いないの?」


 「……いないっす」


 俯いて答えた言葉に偽りはなかった。


 そんなもの、生れ落ちて十八年、一匹も捕まえたためしがない。


 彼氏?

 恋人?


 残念ながら、自分はそれらの言葉の意味を知らないようだった。


 「んまー、きみならきっといい男ゲットできるさ。ひょっとしたらどっかのビジネスギルドを経営している大富豪にでも気に入られて、玉の輿に乗れるかもよ」


 「そうですかねぇ」


 そのとき。


 店先に人影が立ち、ニーチェはぱっと振り向いた。


 即座に商売用の表情に切り替える。


 「いらっしゃいませ!」


 客は二人だった。


 一人は頭にバンダナを巻き、腰には長剣を携えた男。もう一人は夜の舞台に立つ踊り子のような、極めて露出度の高い衣装を着た女。どちらも年齢はニーチェと同じくらいの若者だった。


 男のほうが、ニーチェの顔を覗き込むように身をかがめた。「あのー、ちょっと訊きたいんだけどさ」


 「ドラーム・プレートですねっ! 何枚お求めでしょうか?」盾を突き出して、元気いっぱいの声でニーチェが問う。


 だが男は苦笑混じりに首を振った。


 「いやー、ごめん。盾じゃなくてさ、そっちのおっさんに用があるんだけど」


 「……え?」


 男はマーガスを指差していた。


 ニーチェは落胆した。どうやらドラーム・プレートを所望されたわけではないらしい。彼女はしゅんと俯いて、静かに盾を元に戻した。


 「あんただろ、この市場でやばい商品を扱っている魔術師ってのは?」


 男は、周囲を気にするように視線を動かして、極めて小さな囁き声でそう言った。


 しかしマーガスは、その声がまったく届いていないかのように何らの反応も示しはせず、呆けた表情である一点だけを見つめていた。


 視線の照準は、エキゾチックな衣装を着た女の、ボリュームがありすぎる胸にがっちり固定されていた。


 「あ――」


 マーガスは唇を震わせた。


 砂漠で迷った旅人が泉を発見したときのように、限界まで焦点が絞られた瞳が希望の双丘を捉えて放さなかった。


 人は本当に美しいものを見たとき言葉を失う。それはこの世に存在する言葉が、世界のあらゆる美を形容できるに足るものではないからだ。我々の限られた表現の域をはるかに越えた神秘的な美しさを、どうして薄っぺらな言葉にすることができよう?


 しかしマーガスは諦めなかった。


 突如現れた天恵ともいうべきお宝(、、)を前に、無言を貫くことなどできなかったのである。


 打ち震える心が導くままに、彼は自分の体内でのた打つフラストレーションを一気に吐き出した。


「――最高おっぱい」


 この一言。


 この一言に尽きた。


 おっぱい最高ではなく、最高おっぱいと表現したところに彼の尋常ならざる興奮ぶりが読み取れる。


 つまり。


 それほどまでに、その女はいいおっぱいの持ち主だったのである。


 さて、このマーガスの言葉に深く共感したニーチェたちは、手と手を取り合って、最高おっぱい最高おっぱい、と声高らかに輪唱した――なんてことは当然あり得ない話で。


 三人とも汚物を見るような目を向けて、素早く変態魔術師から距離を置いた。


 「マーガスさん……今何て?」


 ニーチェが注意深く問いかけると、マーガスは夢から醒めたかのごとくパチパチと瞬きを繰り返した。


 「いやぁ? あれぇ? 僕、今何か言った?」


 「ええ、割と猥褻罪ぎりぎりな発言をなさってましたけど」


 マーガスは何やら合点がいかない様子で首を捻っていたが、やがてぽんと手を打ち、知識に満ちた聖人のような笑みを浮かべて、女に言った。


 「ああ、お客さんか。いらっしゃいませ、いいおっぱいですね」


 それは散歩中に交わす、いい天気ですね、という挨拶にも似たごくごく自然な口調で、その顔には一切の邪念など浮かんでいなかった。彼は純粋な気持ちで、心からおっぱいを褒めたのである。


 さて、言われた女は頬を赤らめ、もう何を言うんですかぁ、と上目遣いでまんざらでもない態度を見せた――なんて都合のいい展開が訪れるわけもなく。


 彼女は即座に踵を返し、早歩きでその場から去っていった。


 「おい待てって、リユース!」


 それを連れの男が呼び止めた。


 「だってそのおっさん変態なんだもん」


 「いいから待てって。せっかく規制品が手に入るって聞いて、わざわざ出向いてきたんじゃねーか」


 男はニーチェの店をまたいで、マーガスの前にしゃがんだ。


 「なあ、おっさん」


 「おっさんじゃない、お兄さんだ」


 三十六歳でお兄さんとは図々しい。そうニーチェは思ったが、とりあえず沈黙を守ることにした。


 「んじゃお兄さん。俺はタチノネ。あっちは相棒のリユース。モール地方じゃちょっと名が知れたハンターなんだ。聞いたことないか?」


 「いや」


 「あっそ。まあこれまでイーガスゴッド大陸各地を旅して、魔物どもを討伐してきたんだけどな。そろそろハンター家業も幕にして、王都で警聖になろうと思ったわけよ」


 「ふうん」


 「それで警聖への志願資格ってのがあってさ、元老院議会が定めたAランク以上の魔物を狩らなきゃならないんだよ」


 「へえ」


 「そこで俺たちがターゲットにしたのがトロールウルフなんだ。炎狼ギルバードが生み出した究極の狼。知ってるだろ?」


 「はふん」


 「俺たちもいろいろ情報を集めてさ、この辺の山に生息してるって聞いたんだけど、その情報収集の過程で、あんたの噂を耳にしたってわけ」


 「あ、ちょっといいかな」


 マーガスが手を差し出して、タチノネの言葉を遮った。


 「説明するならリユースちゃんにお願いしていいかな? さっきからきみの話、全然頭に入ってこなくて」


 場の空気が落ちた。


 タチノネは、石のような表情で口から空気を吐き出していた。


 「あっ、あんたな! 人にあれだけ喋らせといて……!」


 「つまりさぁ」戻ってきたリユースが、肩をすくめて言った。「トロールウルフを倒すのに役立ちそうな商品を売って欲しいの。それも、とびきりやばそうなのをね」


 彼女はひどく皮肉な笑みを浮かべて、指で髪の先をくるくるいじっていた。


 「私たち知ってるんだよ? あなた、共和国協定で規制されてる魔術用品を売ってるんでしょ? 一般人には扱えない強力な術符や薬品を。そういう商品が欲しいのよ」


 ニーチェは瞬きした。


 マーガスが、自分にとっては未知の魔術用品を扱っていることは知っていたが、それが規制品だなんて思いもしなかった。


 自分が貰ったことがあるのは、驚くほど汚れが落ちる石鹸や、眠気を覚ますハーブなどだが、まさかそれを使ったことで捕まったりはしないだろうか。


 「もし安く売ってくれるなら、そうね……。ちょっとくらい触らせてあげてもいいよ」


 リユースは身を乗り出して、自分の胸をつんつんと突いてみせた。

 これには同性であるニーチェさえも、顔が真っ赤になってしまった。


 「おいリユース!」


 しかし次の瞬間、タチノネがいきなり吠えた。


 彼は怒りをあらわにした表情で、リユースを睨みつけていた。


 「ったくお前は本当に軽い奴だな。おいおっさん、リユースには触れんなよ。こいつは俺の相棒兼恋人だから」


 そのとき。

 マーガスはすでに身を乗り出して、いっぱいに広げた手をリユースに伸ばそうとしていた。触るどころか、明らかに揉む体勢である。


 「え……?」マーガスは目を点にして、まさに鳩が豆鉄砲食ったような、と例えるにふさわしい顔でタチノネを見ていた。「こい……びと……?」


 肩を落とし、しょぼくれた目でタチノネとリユースを交互に見るマーガス。その体からは、まるで生気が抜けていくようだった。


 「本当なの?」涙声でマーガスが問う。


 「本当だよ」あっさりとリユースが答える。


 「やってるの?」


 「してるよ」


 ブッ、とニーチェが吹き出した。


 こんなやり取り、自分なら到底考えられない。どうしてそこまであっけらかんと答えられるのだろうか。それとも自分の理解力が、若者の貞操観念に及ばないだけなのか。もっともニーチェ自身も若者なのだが。


 「そっか……ごめん。僕は処女しか受け入れられないタイプなんだ」


 「そうなんだ。ちょうどよかった、私は変態親父が受け入れられないタイプなの」


 冷ややかな空気が流れる。


 そこへタチノネが割り込んできた。


 「おい、そんなどうでもいい話なんざ置いといて、さっさと商品売ってくれよ」


 「うーん? そうだねぇ……」


 大きな溜息をついて、マーガスは天を仰いだ。


 「しかしそもそもの話ね、きみらが期待している獲物は、もうエグザ地方にはいないよ」


 「え?」


 「だって、トロールウルフ、とっくの昔に絶滅してるもん」


 今度はタチノネの目が点になった。


 「そんな馬鹿な。王都文書館で調べたら、今でもトロールウルフはAランクビーストに指定されていたぜ。絶滅したなら指定が解かれるはずだ」


 「ああ、あの文書館ね。あそこ、最近たるんでるんだよねぇ。昔みたいに逐一魔物の生態系を調べたりしてないし、情報が古かったのさ。残念だったね」


 それにね、とマーガスは言ってタチノネを指差した。


 「どの道、きみらじゃトロールウルフを狩るのは無理だ。これまでAランクビーストを相手にしたことは?」


 「Bランクなら何匹か仕留めたことがある」


 ハハッ、とマーガスは一笑し、頭を振った。


 「その程度ではとてもとても。Aランクの魔物ってのは、準魔王級(、、、、)の力を持っているんだ。BランクやCランクの雑魚どもとは雲泥の差だよ。きみらみたいな素人に毛の生えた程度のハンターじゃ、傷一つだってつけられないよ」


 「……何?」


 「戦いを挑んだところで、苦しんで死ぬのが関の山さ」


 刹那――タチノネの腕が、電光のように空を切った。


 ニーチェには、彼がどう動いたのかさえ捉えられなかった。


 見えたときには、タチノネが抜き放った剣の切っ先が、マーガスの鼻先にぴたりと突きつけられていた。


 「てめぇ、俺のこと舐めてんのか……?」


 タチノネの目は、獲物を前にした野獣のように血走っていた。


 しかしあと一押しで顔が貫かれるという状況にもかかわらず、マーガスは眉一つ動かさずに、穏やかな目でタチノネを見返していた。


 「やめなよ、タチノネ」


 後ろからリユースが声をかけたが、タチノネは動かなかった。


 「うるせぇ。さすがに殺されることはないと高を括ってんだろ。これだからお前ら魔術師はいけ好かねぇんだ」


 ニーチェは狼狽した。この剣呑な状況を前に、自警団を呼ぶべきかと、彼女はうろうろと周囲を見回していた。


 「いいんだぜ、てめぇのこと警聖本部に告発しても。最近じゃ密売組織に対する取り締まりも厳しくなってきてる。逮捕は確実。ひょっとしたら監獄送りになるかもな」


 「この状況を見るに、誰もがきみのほうを逮捕すべきだと考えるだろうけどね」


  減らず口を……、とタチノネが言いかけたとき、マーガスが顔の横で手を開いてみせた。


  瞬時に反応したタチノネは、ぱっと後ろに跳び下がった。


 「何だ、やる気か変態魔術師さんよ」


 「まあ待ちなさいって。別に攻撃しようとしたわけじゃないから。嫌だねぇ、頭に血が上った若者は」


 クスクス笑いながら、マーガスは丸い目をくるりと回した。


 「たしかに――僕の店には所有さえ禁じられた魔術用品が結構置いてある。けれど、それについて僕がお咎めを食らう可能性はまったくないんだよ」


 「なぜだ?」


 「だって僕、ちゃんと『売ってはいけない商品を売ってもいいですよ』って免許を持ってるもん」


 タチノネは歯を食い縛った。


 「てめぇ、この上まだ俺をからかう気か?」


 「どうして?」


 「ふざけんな! そんなでたらめな免許があるか! これ以上愚弄するつもりなら、本気で――」


 くるり。


 と、マーガスが手を裏返した。


 その人差し指に、美しい装飾が施された、金色の指輪が輝いていた。


 「本気で……何かな?」


 マーガスは悪戯っぽい笑みを送り、タチノネの反応を窺っていた。まるでその指輪が相手の大弱点だと知っているかのように。


 「それ……は」はたしてタチノネは、茫然自失といった様子で指輪を見据えていた。「その指輪……なぜ」


 その口元は小刻みに震え、必死に言葉を探しているかのようだった。


 マーガスはますます愉快そうに笑った。「おお、この指輪のこと知っててくれたんだ。よかったよ、もし知らなかったらいろいろと面倒なことになっただろうから」


 タチノネの体から、先程までの殺気は完全に消え失せていた。


 力が抜けた手で掴まれた剣はだらんと地につき、凶器としての鋭さは微塵も感じさせなかった。


 「あんた、何者だ……?」



 「さて、何者かな。当ててみなよ」


 そのまま二人は微動だにせず数秒睨み合っていたが、やがてタチノネが剣を鞘に収めて踵を返した。


 「行くぜ、リユース」


 突然呼ばれたリユースは、驚いてタチノネを見た。


 「いいの? だって……」


 「いいから行くぞ!」


 一喝してタチノネが歩き出す。リユースは渋々といった様子でそれを追った。


 そしてそのまま二人は、雑踏の中へと消えていった。


 「ふふり」


 余裕の表情で伸びをするマーガスだったが、ニーチェはそうもいかなかった。


 緊張の糸が切れ、体から力が抜けてしまった彼女は、その場にくたりと膝をついた。


 「はぁ……驚いちゃいました」


 「ん? いやぁ、ごめんごめん。そうだよね、びっくりしたよね。僕、恋人がいる男は全員死ねばいいと思ってるから、つい敵意バリバリの態度取っちゃってさ。うーん、やっぱり大人気なかったかな」


 黒衣の魔術師は鍔広の帽子を深くかぶって目を隠した。


 ニーチェの目には不思議と、それが昨日まで知っていたマーガスとはまるで別人に映って見えた。


 「ところで――さっきの指輪、何だったんですか?」


 「ああ、これ?」


 マーガスは手をかざし、その金色の指輪を見せた。


 よく見ると、その指輪には星型の紋章が刻まれていた。


 「この紋章は、イウォークの星っつってね、肉眼じゃ到底わからないけど、さらに小さな星がいくつも集まって描かれているんだ。で、その星もまたさらに小さな星で描かれていて、その星もまたさらに小さな星で――って具合に無限個の星が刻まれた紋章なんだよ」


 「はぁ。それで、その指輪にどんな意味が……?」


 先程この指輪を見せた瞬間、怒髪天を衝いていたはずのタチノネは、たちまち戦意を失ってしまったのだ。何か特別な意味でも秘められているのだろうか、とニーチェは勘繰った。


 マーガスは細まった目で指輪を見ながら、かすかに微笑んだ。


 「言ったでしょ。こいつはただの……免許だよ」


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