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サクシード  作者: 川北
1/11

夢の果てに

「本日は、あなたを殺しに参りました」


 金鈴のごとき声で、女が言った。

 表情を変えず、老人は答える。


 「そうか」


 そのまましばらく、二人は無言で睨み合った。


 「嫌ですわ」不意に、女が言った。「冗談だと、わかってくださると思いましたのに」


 女は、顔に凛とした笑みを刻みながらも、瞳に宿した冷気を和らげることはなかった。


 「残念だな」答える老人の声も鉄のように冷たい。「誰かに脅されたことなど久しぶりだった」


 それはそうでしょう、と女があくまで優雅に応じる。

 少し間を置いて、彼女は続けた。


 「八ヶ月前の事件を、覚えていらっしゃいますか?」


 老人は頷いた。


 「私は、あの事件の真実を、存じております」


 「ほう」老人の顔がかすかに翳った。「それも、残念だな」


 「あら、今度の『残念』は、本当の『残念』のようですね」


 女の気品に満ちた笑みが、冷笑に変わった。


 「それと、あなた方がこれまでにしてきたこと、これからしようとしていることも、すべて調べました」


 調べた? と老人が意外そうな声で訊き返す。


 「どうやって?」


 この問いに答えたのは、女の右側に控えて立つ男だった。


 「僕の父をご存知でしょうか?」どこか、どもったような口調だった。「父のコネクションを利用して、かなり深くまで探ることができました」


 老人は首を振りながらも、納得した旨を伝えた。


 「そうか……。となると、今我々は大きな脅威を抱えていることになるな」


 女が頷く。「きっとそうでしょう」


 「ならば、ひょっとすると――この場で凍死体を三つ作ってしまうのが、賢明な判断かもしれん」


 「いやぁ、それはどうでしょう」


 今度は、女の左側に立つ男が言った。


 「そちらさんがその気なら、こちらさんもその気になっちゃいますよ」


 飄々とした口調である。だが老人の耳には、その言葉が真実味を帯びて聞こえた。


 「凍死体が三つできるのか、感電死体が一つできるのか、興味があるなら、試してみるのもいいかもしれませんね」


 老人は押し黙った。


 「おわかりになりましたか?」女が、相手に意思を押し込むように、小首を傾げてみせる。「権力と戦力を併せ持っているのは、あなただけじゃない」


 この言葉は、老人の自尊心を深く抉った。

 女は姿勢を正し、可憐な指先を老人に向けて伸ばした。


 「まあ、今日のところは、挨拶に伺っただけです。あなたに引導を渡すのは、今ではありません。とはいえ、そう遠くない未来の話ですわ」


 「引導だと?」


 老人の顔は、激しい怒りに歪んでいた。


 だが女は臆さず怯まず、自然な動作で、親指を床に突きつけた。


 「ぶっ潰す、ということよ。あなたが持つ財産も、名誉も、権利も、全部奪ってあげるから、覚悟してなさい」


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