第八十七話 雪片くん、鈴蘭ちゃんと待ち合わせをする
そしてデート当日。俺は鈴蘭の家の前で待っていた。鈴蘭は駅前での待ち合わせを主張したが、俺が反対したためこのような形となった。反対した理由は単純に、駅前で鈴蘭を一人にしたらナンパされそうだから。
(過保護なのはわかってるが仕方ないだろう、頭いい癖に子供っぽくて危なっかしい鈴蘭が悪い)
心の中で、俺は過保護な理由を鈴蘭へと転嫁する。一応危機察知能力はそこそこあるのだが、フィジカル面が一歩足りないために逃げ遅れるパターンが多い。だからこそ、足りないあと一歩を雛菊や桐矢が補っていたわけだ。
(だとしたら、それを補える俺があの日通りがかったのは運命なのかもな)
もっとも、不運に見舞われた鈴蘭の助けに入って救ったのが、人生不幸続きでいいことなんか一つも無かった俺だったというところに、皮肉を感じざるを得ないが。それで二人ともいい方に進んでいくのだから、人生何が起きるかわからない。
(しかし、待ち合わせを家の前にするなら、約束の時間ギリギリに来るべきだったな)
デートの待ち合わせは早めに行った方がいいと、桐矢や柏井達に教わったので実践してみたが、時と場合によりけりだとしみじみ思った。何故なら、
「千島君、佐藤さんの家の前でどうしたのかね?」
「鈴蘭と待ち合わせっす。駅前とかだとアイツが危ないので」
「そうかい」
こんな感じでご近所さんにやたらと話しかけられる。多分これは顔見知りじゃなかったら不審者として通報されているパターンだろう。鈴蘭が玄関から出て来たのは三分後だった。
「ごめんなさい! 待ったよね?」
「今来たと言いたいが、十分くらいな。今度から敷地内で待たせて貰うが、それでいいか?」
「うん。それでその、右手に持ってる袋なんだけど、何かな?」
「ああ、これやる」
手に提げた袋を、鈴蘭へ押し付けるようにして渡す。プレゼント用の包装がされていて、見ただけでは何かわからないため、鈴蘭は困惑していた。
「あの、これは一体?」
「この間言ってた秘密の答えだ」
「えっと、開けてもいいかな?」
「ああ」
俺の返事を聞き、袋を開け中身を取り出す鈴蘭。真っ白い袋状の布が二枚一対で入っている。たまに鈴蘭が履いている靴下に似ているが少し違う。
「これ、レッグウォーマーだよね?」
「ああ。寒がりなお前には必須だろう?」
このレッグウォーマーは鈴蘭と前に行った靴下専門店で買ったものだ。最初は土橋さんからアドバイスされ、確実に鈴蘭が喜ぶであろう靴下をプレゼントしようと考え、店に足を運んだのだが入ってすぐに後悔した。
(一人で行こうとせずせめて誰か誘うべきだった)
基本的に女子しかいない店に男は入るだけでもダメージがあるが、それ以上に入った後の居心地の悪さが辛い。早く買い物を終わらせたかった俺は近くの店員に声をかけたのだが、それがまさかの店長だった。
(鈴蘭へのプレゼントを探していると伝えたら、靴下じゃなくレッグウォーマーを薦められたんだよは)
これからの季節必要になるからと言われ、確かに着脱も容易だから靴下よりも使いやすそうだったのでそれを選んだ。ちなみに発注するときに色を間違えたため売れ残っているという世知辛い話も聞こえてきたが、コイツに教える必要はない。
「雪片くん......ありがとう///」
「とりあえずそれはお試しだ。使ってみて気に入ったら、今度のデートで買ってやる」
「今から履いてみるのは駄目かな?」
「駄目じゃないが、白ニーソの上に履くのはおかしくないか?」
薄桃色のロング丈ダッフルコートに、アイボリーのセーターと上半身は暖かそうなのだが、下半身はミニスカートとニーソックス、それにスニーカーなのでレッグウォーマーを合わせること自体は変でもない。問題は靴下と色合いが完全に同じであるため、よほど近くで見ないと一体化してしまうことだ。
「そんなの気にしないよ。せっかく雪片くんからのプレゼントなんだから、デートで使わないのはもったいないよ。それに、どうせ買うなら今日買いたいし」
「やっぱりあそこにも行くのか」
一昨日一人で行ってものすごく後悔したので、正直しばらく行きたくなかった。言ったところで考え直さないと思うがな。
「当たり前だよ。雪片くん、たくさん買うから荷物持ち頼んでいいかな?」
「構わないが、嵩張るなら行くのは最後の方でだ」
荷物抱えたまま花屋に行って、鉢植えに袋を引っかけて落とすなんてことになったら店に迷惑がかかるし、土がついたら汚れてしまう。それを鈴蘭も理解したのか、
「わかったよ。じゃあこれ履いてくるから、ちょっと待っててね」
そう言いつつ一度家に戻った。それからすぐにレッグウォーマーを履いてから出て来た鈴蘭。可愛いには可愛いがやはりニーソと一体化しているようにしか見えず、かなり独特なファッションになっていた。ただ本人は満足そうだったので特に何も言わなかった。
「雪片くん、やっぱりこれ暖かいね。見た目も気に入ったし、このまま行こうよ」
「......ああ」
上機嫌な鈴蘭と手を繋ぎ、家を離れようやくデートが始まった。しばらく歩いて、俺達を見た通行人から兄妹扱いされて拗ねた鈴蘭の機嫌を直すため、お姫様抱っこでデートを続ける羽目になった。
お読みいただき、ありがとうございます。




