第五十五話 鈴蘭ちゃん、友達とガールズトークする
鈴蘭視点です。
気が付けば、わたしは教室の自分の席に座っていた。あれっ、雪片くんと登校してたはずなのに、どうして教室にいるの?
(夢なのかな......痛い)
確かめるために頬をつねってみたけど、痛かったので現実のようだ。そしてその痛みで登校中の光景が思い起こされ、同時に何故教室に来るまでの記憶が無いのかを理解した。
(はぅぅ!!)
わたしは赤くなる顔を手で覆い隠しながら机に突っ伏した。胸がすごくドキドキしているのが自分でもわかる。無理もない、先ほどまでずっと雪片くんにお姫様抱っこされていたのだから。
(雪片くん、大胆だよ~~!!)
これまでも何度かされたことはあるけど今回のは特に長く、密着したものだったため別格だ。それも登校中という、多くの人が見ていたであろうときに行われたのだ。誰かに見られる前に気絶していたのは、運がよかったのかもしれない。
(それでもこれだけ恥ずかしいんだから、実際に見られてた雪片くんはもっと恥ずかしかったよね?)
雪片くんには申し訳ないけど、これで少しでもドキドキして、わたしを意識してくれたらと思う。それはそれとしてあとで謝りに行かないと。
(いくら恥ずかしかったとはいえ、遅刻を避けるためにわたしを運んでくれた雪片くんに、恥ずかしい思いをさせるなんて)
謝っても許してくれるだろうか。それ以前にそもそも顔を合わせてくれないかも。わたし自身今の状態で雪片くんの顔を見たら、走って逃げちゃいそうだし。
(携帯のメッセージで伝えようかな)
そう思いポケットから携帯を取りだそうとしたところ、教壇に立った担任の先生とふと目が合い今がSHR中であることに気付いた。
「どうしたの佐藤さん? さっきから様子がおかしいですよ?」
「な、なんでもありません」
「そうですか。さて、文化祭が終わりましたが、来月には期末テストが控えていますので、気を抜かないようにしてくださいね?」
携帯の所持は禁止されてないけど、さすがに堂々と出すと注意されるため、誤魔化しながらポケットに入れた手を出す。先生は訝しみながらも話を続けた。
(期末テストか......今度も雪片くんと数学の点数で勝負しようかな?)
前回の中間テストでも勝負して、勝って雪片くんの部屋の鍵を手に入れた。今回は勝ったときの特典を何にするか悩む。一応負けるつもりは無いけれど、わたしだけが得する条件にはしたくない。
(それも含めて、あとでメッセージ送っておこう)
そうして先生が去ったあと、わたしは携帯を取りだしたのだけど、茜さんと香澄さんが目の前に座りとてもいい笑顔で見て来たのだ。
「あの、二人ともどうしたの?」
「どうしたのはこっちの台詞だよ。朝から気絶したまま千島君に運ばれてくるなんて」
「聞けばお姫様抱っこしてしばらくしたらそうなったって、鈴蘭ちゃんどれだけ恥ずかしがり屋なのよ」
「はぅぅ」
返す言葉も無い。とと様曰く、かか様も同じように恥ずかしくなったら気絶する癖があるので、どうも遺伝らしい。ただとと様もちょっと勘違いしてるみたいだけど。
(恥ずかしくなったらじゃなくて、好きな人にときめいたから気絶するんだよね)
もし恥ずかしさで気絶してるなら、ミスコンに参加した時点でそうなってる。まあ好きな人本人であるとと様や雪片くんから見ると、恥ずかしくなったから気絶したという解釈は間違ってないんだけど。
「もう、鈴蘭ちゃんってば可愛い♪」
「きゃっ!」
「ねえ、昨日の今日でああなったってことは、告白したの? それともされたの?」
茜さんに抱き付かれ、香澄さんは周りに聞こえないように小声で質問してくる。うん、昨日告白まがいの宣言して、今日お姫様抱っこされてたら普通そう思うよね。
「その、実はまだなの」
「えっ? してもされてもないの?」
「あの勢いなら後夜祭のときにしてるかと思ったけど、鈴蘭ちゃんってもしかしなくてもヘタレ?」
グサリと来る一言を、茜さんが言い放つ。はぅぅ、自覚してたけど人に言われると傷付くよぅ。
「図星なのね。それだけじゃないっぽいけど。多分鈴蘭ちゃんは恋愛自体初心者なんじゃ無いかしら?」
「はぅぅ!!」
「うわ、ヘタレで初心者とか一番面倒くさいパターンだ。行事が無いと関係進められないやつじゃん!」
さらに二人からの追撃は続く。言いたい放題言われているけど、全部大当たりなので何も言えない。今になって思えば後夜祭は絶好の告白の機会だったけど、自覚したばかりの恋心に振り回されて見事に不意にしてしまった。
「まあ鈴蘭ちゃんの方はひとまず置いておいて、千島君も問題あるっぽいのよね」
「わかる。そもそも女の子をお姫様抱っこして、普通に登校してる時点でおかしいよね。やっぱり千島君も恋愛したことないのかな?」
「多分そうじゃない? 千島君は家庭の事情であまり人と関わらなかったって、鈴蘭ちゃんが言ってたんだし」
「うん。お友達すらわたしが初めてって言ってたから」
そんな状態で、恋愛の経験があるとは思えない。それどころか初恋すら怪しい。つい先日人生初めての恋をしたわたしが言えたことでは無いのだけど。
「それは難儀ね。ひとまず友達付き合いをしながら、どうにか自覚させてくしか無いわね」
「あれだけミスコンでアピールしたから、ライバルが出なさそうなのは助かるね」
「うん。雪片くんの周りで恋人がいないの、わたしと桔梗ちゃんくらいだから」
桔梗ちゃんも恋してないそうなので、雪片くんに新しい知り合いが増えさえしなければ、わたしが頑張ってアピールすればいいだけだ。そう決意して頑張ろうと思ったのだった。
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