第四十七話 雪片くん、鈴蘭ちゃんと文化祭を楽しむ。その一
悩みましたが、ここから友人編の終わりまで毎日更新します。
文化祭当日、俺は一人で鈴蘭の教室を訪れ、出し物である展示物を見ていた。学校教育が始まってから今に至るまで、俺達と同年代の学生が着ていた制服についての解説記事が、実際に着てみた写真と共にパネルに貼られ教室中に展示されている。
(結構読みやすいな。こういうの得意なやつでもいるんだろうか?)
写真に目を惹かれがちだが解説も中々面白い。ちゃんとその制服が流行った背景が書かれているため、その時代に生まれていなくても想像出来るほどだった。それらを全部見た上で俺が一度着てみたいと思ったのは昭和のバンカラスタイルだ。
(こういう古臭いのも悪くないのかもな。おっと、鈴蘭の担当は平成初期の女子だったな)
男子の方は見終わったので、今度は女子の制服の展示を見ることにした。だがどれもこれも鈴蘭が身に纏った姿を思い浮かべてしまい、何となく気恥ずかしくなったので無心で読み進めていく。
(これで最後だが、やっぱ鈴蘭は何着ても似合うな)
写真に写っていた超ミニスカート姿の鈴蘭は、普段の制服姿とはまた違った魅力があった。普通ここまでスカートが短いと下品に思えるが、幼い顔立ちと優等生然とした雰囲気でその印象を上書きしている。ただ本人曰く、校則違反を理由に靴下をもう少しあとに流行った紺のハイソックスにせざるを得ず不満があったそうだが、似合っているのだからこれでいいんじゃないかと思う。
(本人に言ったらふくれっ面して怒るだろうが。しかし、当の本人はどこ行ったんだか)
展示物を見ながら探してみたのだが、どうも教室内には姿が見えない。そこで俺はセーラー服に長いスカートという、所謂スケバンの格好で案内をしていた柏井に鈴蘭の所在を尋ねた。
「なあ柏井、鈴蘭どこ行ったか知らないか?」
「鈴蘭ちゃんなら香澄ちゃんと奥で私みたいに他の制服に着替えてるから、用があるなら待っててよ」
スケバンという近寄りがたい服装に似合わない、いつもの人懐っこい笑みで答える柏井。これはこれで味があると思うが、絶対他の制服の方が似合うだろうに。
「せっかくの文化祭だから、細かいことはどうでもいいんだよ」
「そうか。ところで柏井も椎原も、鈴蘭と一緒に回らなくてよかったのか?」
文化祭をゆっくり見て回れるのは一年生の間だけなのだから、仲のいい友達と楽しもうと思わないのだろうか。その疑問に柏井は頬に人差し指を当てながら、
「んー、お友達も大事だけど私も香澄ちゃんも彼氏と回るから。その辺は鈴蘭ちゃんも了承済みだよ」
「......付き合ってるやついたのか」
「じゃないとあんな風にからかわないよ。あのときはごめんね」
「気にしてないからいいぞ」
「そっか」
そもそも何が目的でからかったのかすらわからないしな。柏井と話していると、大正時代の女学生スタイルの椎原が奥から出て来た。眼鏡も合わさり、知的で落ち着いた椎原にマッチしている。
「あら、千島君。鈴蘭ちゃんを待ってるの?」
「そうだ。お前ら二人ともその格好で彼氏とデートするのか?」
「ええ。ただ、鈴蘭ちゃんからの借り物だからあまり汚したくないけど」
「鈴蘭の?」
アイツの家に住んでそれなりに経つが、そんなものを見た覚えがないのだが。靴下を異常な数所持していて、洗濯が非常に大変なのは毎日見て知ってるが。
「遠くにいる幼馴染から送って貰ったそうよ。展示されてる写真の制服の出所もそこだから。ついでに言うなら、写真の撮り方も教えて貰ったらしいけど」
「どんな幼馴染だよ」
「さあ? あの口振りでは二人はいるっぽいけど」
遠くにいると言っているので、雛菊や桐矢の他にも何人か幼馴染がいるのだろう。もしかしたらあの男が迷惑かけた病院のある県に住んでいるのかもしれない。
「どうしたの? 急に申し訳なさそうな顔して?」
「別に、そんなクラス展示の立役者である鈴蘭を、俺が連れ回していいのかって思っただけだ」
あの男のやらかしを思い出し忸怩たる思いにかられるが、目の前の椎原や柏井には関係ないことなので、別の理由を付けて誤魔化した。実際、少しはそういう気持ちもあるからな。
「そんなの本人の希望なんだから気にしなくていいのに」
「そうだよ。鈴蘭ちゃんだって楽しみにしてるんだから、これで一人で過ごすって言われたらきっと泣いちゃうよ?」
「それもそうだな。だったら、そろそろ寂しがり屋の鈴蘭を、迎えに行くとするか」
「ええ、頑張ってね」
「しっかりエスコートするんだよ?」
二人のエールに背を押されながら、教室の奥にいる鈴蘭の元へと連れて行かれる。
「あの、雪片くん、どうかな?」
待っていた鈴蘭が着ていたのは写真と同じ、極端に短いスカートの制服だった。靴下だけ何故か白いニーソックスだったが。実際にこの目で見た方が何倍も可愛いと感じたが、褒める言葉が思い付かず、
「制服、似合ってる」
これだけしか言えなかった。褒めるにしてももうちょっと他にあるだろうと我ながら思うが、見とれてしまい何も言えなかった。
「うん」
「......」
「......」
一方の鈴蘭も、人前で短すぎるスカートを穿くのが恥ずかしいのか、照れてしまい口数が少なくなってしまい、俺達は無言のまま鈴蘭の教室をあとにすることになったのだった。
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