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第二話 雪片くん、鈴蘭ちゃんの家に行く

 佐藤に先導され俺は繁華街から住宅街へと移動したのだが、途中から見覚えがあるどころか、俺の住んでいるアパートのある町に入ったので、何となく予感がしたため目的地が近いのかを尋ねた。


「なあ、まだかかるのか?」

「もうすぐだよ。あっ、もしかしてお腹空いたの?」

「そんなんじゃない」


 確かにいつも空腹感はあるが、それをバカ正直に伝えてしまうと佐藤に余計な心配をかけるため、即座に否定しておいた。ここまででも佐藤がお節介だと理解したからな。


「ただ、この近くに家があるならご近所さんかもって思っただけだ」

「嘘っ!? 千島くんどこに住んでるの?」

「あっちにアパート見えるだろ? あそこの三階がそうだ」

「ええっ!? 本当にうちとご近所さんだよ! だってわたしの家、向こうにある一軒家だから」


 驚く佐藤に、俺は自分が今住んでいる場所を指を差し教えると、もう一度驚いていた。徒歩三分圏内に同級生が住んでいたのだから、当然と言えば当然か。


「マジか。半年くらい住んでるが、よくもまあ今まで気付かなかったな」

「それは君もだからね。もしかして登下校の時間がズレてるせいかな?」

「あー、俺いつも遅刻ギリギリで、放課後も真っ直ぐ帰って、バイトに行ってるからな」

「それじゃあわからなくても無理ないかな。というか君、アルバイトしてるんだね」


 とても、本当にとても意外だという顔で俺を凝視する佐藤。あのな、確かに俺は話し下手だが、学生がバイト出来る業種が客商売だけだと思うなよ。


「冷凍庫整理くらいならそれほど会話も無いから人付き合いが苦手な俺にも務まる。くそ寒いことを除けば体を動かすのはそこまで苦でも無いからな」

「わたし、別に何も言ってないよ。ただ苦学生なんだなって思っただけだからね?」

「......すまん」

「こっちこそごめんね。不躾な視線で見たのは事実だから。でもアルバイトしてるなら、ご飯作るのも大変だよね? よし、だったら、栄養のあるもの作らないとね。ほら、着いたよ」


 佐藤は自分の家の前で一度止まり、俺の方を向き直りながらニコリと妙に楽しそうに笑い、歓迎の言葉を口にした。


「ようこそ、わたしの家に♪」

「......」

「ねえ、何か返事してよ」

「何か」


 要望通りの返事を返すと、佐藤はとても複雑そうな表情をしていた。どうした、何か問題でもあるのか?


「あのさ、千島くんって素直なのか意地悪なのかよくわからないって言われたりしない?」

「ないな。そもそも話す友達もいないからな」

「せっかくいい人なのにもったいない」

「そうでもないぞ? で、いつまで家の前で突っ立っているんだ?」

「あっ、そういえばご飯用意しないとね。楽しくて話し込んじゃった」


 強引に会話を打ち切り、家に入るように促された佐藤。彼女はばつが悪そうな表情でドアを開け、挨拶をしながら家に入った。すると、中からおかえりなさいと返事があったため、俺はギョッとした。


(そういや妹がいるって噂があったな。まあ飯食って帰るだけだから話すことも無いだろう)


 俺はそう考えながら、邪魔するぞと小さく告げ家に上がったのだが、奥から現れた少女とバッタリ出くわしてしまった。その少女の背丈と顔立ちから年齢は小学校中学年あたりだと思われ、どこか日本人形か座敷童を連想させた。


「はぅぅ!? す、鈴蘭お姉ちゃんが知らない人連れてきたです!?」


 少女は知らない人、つまり俺の姿を見て激しく動揺していた。一方の俺も幼い少女という、ボッチにとって一番の難敵に遭遇したため、どうしていいのかわからず停止した。


「ねえ二人とも、何で固まってるの?」

「「......」」

「ねえってば!!」

「うあぁぁっ!」

「はぅぅぅ!」


 突如出された大声に、俺は驚き少女は飛び上がった。いきなり何なんだと思い声の主である佐藤を見やると、何故か少女の頬を引っ張っていた。


「はぅぅぅ」

「桔梗ちゃん、お客様に失礼だよ。確かにわたしが家に連れてくるのが知り合いしかいなかったから、びっくりしたのはわかるよ」

「しゅみましぇん」

「わたしに謝ってもしょうがないよね? すること、わかるよね?」


 佐藤のお仕置きから解放された少女は、未だ固まっている俺の前までとことこと歩いてきて、深々と頭を下げて謝罪した。


「失礼なことをしてしまいすみません! お姉ちゃんのお客様ですよね。お茶をお淹れしますから案内いたします」

「お、おう」

「よろしい。ごめんね千島くん、妹が失礼なことをしちゃって」

「別にいいが、お前意外としつけに厳しいんだな」


 謝る佐藤に、俺は率直な感想を述べた。すると彼女は苦笑して先を歩く妹――正確には妹の足元――を指差す。細くて折れそうな足をボリュームのあるダボッとした靴下が妹さんの足を包んでいる。


「ほら、ああいうの履いてるからその分礼儀正しくていい子に見せないと、誤解されるから」

「あのダボダボの靴下が、何か問題なのか?」


 佐藤は黒いニーソックスをキッチリ履いているので、色やシルエットが姉妹でいい対比になってると思うが。


「あれルーズソックスって言って、人によってはだらしなく見えるんだよ。わたしは好きだけどね」

「あのな、別に格好がどうであれ、中身は関係ないだろ?」

「みんながみんな、そう思ってくれたらいいんだけどね」


 そう言って肩をすくめながら、俺を和室に通した佐藤。妹を溺愛しているという噂はどうも本当だったようで、言葉の端々から愛情が感じられ、それが今の俺には眩しかった。

お読みいただきありがとうございます。


鈴蘭と桔梗は前作、メイプルシロップができるまで~彩芽くんと楓ちゃんのあまあまな日常~の主役、佐藤彩芽と桜井楓の娘になります。

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