第十九話 鈴蘭ちゃん、お弁当を作る
鈴蘭視点です。
千島くんと別れ家に帰ったわたしは、玄関で待っていたかか様から事情を聞かれた。
「あの、さっきの男の子って鈴蘭ちゃんと同級生の子ですよね?」
「そうだよ? 千島雪片くん。かか様知ってたっけ?」
「その、何度か学校を訪れたときに見かけまして。ですけど、そのときよりも今の方がずっと顔色よくなってましたけど、もしかして鈴蘭ちゃんの人助けって」
「そうだよ。ナンパされたのを千島くんに助けて貰ってから、お礼として毎日ご飯作ってるの」
千島くんに対する行いを改めて言葉にしてみると、わたしってとんでもないことしているように思えてくる。付き合ってすらいないのにまるで通い妻だ。
(だって、あのまま放置してたら今年中に倒れそうだったし)
心の中で言い訳してみたが、推測はあながち間違ってないと思う。本当、どうしてあんな無茶するんだろうね。世話が焼けると思い嘆息すると、かか様が小さく笑っていた。
「かか様どうしたの?」
「いえ、鈴蘭ちゃんがそういう顔するの珍しいと思いまして」
「......わたし、どんな顔してたの?」
「世話が焼けるなって顔です。雛菊さん達はもちろん、桔梗ちゃんにもあまりそういう顔しないじゃないですか」
言われてみれば確かにそうかもしれない。桔梗ちゃんはわがまま言わないし、幼馴染二人に至ってはたまにご飯を作ってあげていたものの、基本的にはわたしが世話される側だったし。
「だって、千島くん変なところで常識無いから。わたしが気にしなかったら大変なことになってるんだよ?」
「ですけど鈴蘭ちゃん、楽しそうにも見えますよ? それに、少しだけお話ししましたけど、彼はいい人だと思いますよ? 真剣に鈴蘭ちゃんのこと探してたみたいですし」
「そうだったんだね」
千島くん、わたしのこと心配してくれてたんだ。走り去っていったわたしを探している光景を想像しわたしの胸はトクン、と高鳴った。
(はぅぅ、千島くん優しいよぅ......って、いくらなんでもチョロすぎだよわたし!!)
自分の思考にツッコミを入れるが、ときめいたのは事実なので否定はしなかった。目の前で百面相をしていたからか、かか様が心配そうにわたしを見つめている。
「鈴蘭ちゃん、どうされました?」
「ううん、何でも無いよ!」
「そうですか。そういえば彼、わたしのことを桔梗ちゃんと間違えてたので、桔梗ちゃんとも知り合いなんですよね?」
「うん。お礼した当日、桔梗ちゃんも家にいたから。そうだ、千島くんと桔梗ちゃんといえばなんだけど――」
お夕飯の準備までかか様と様々な話で盛り上がり、千島くんとのことでお友達にご飯を作るのはおかしくないと背中を押されたのだった。
お風呂上がり、千島くんのためにお弁当を準備していると、飲み物を取りに来たとと様と出くわした。とと様は並べられている食材を目にして、わたしが何をしているか見当がついた様子だった。
「鈴蘭ちゃん、明日のお弁当でも作ってるのかな?」
「そうだよ。とと様の分は無いけどね」
「わかってるよ。でもならどうして二人分作ってるのかな?」
「友達にちょっとね」
「そう。もし男子に渡すなら、手渡しするのが一番面白いよ?」
身も蓋もないアドバイスにわたしはこけそうになった。娘が男の子に初めてお弁当渡すのに、父親として言うことがそれ!?
「その反応、やっぱり男子に渡すんだね。よかったら今度連れて来てよ」
「とと様、何で嬉しそうなの?」
「いやほら、うちって僕以外女の子だけだからさ」
とと様もわたしとほとんど同じ顔だから、千島くんが来ても肩身狭いんじゃないかな。でも、悪くない案かもしれない。男同士だからこそ話せることもあるかもしれないし。
「機会があったら呼んでみるよ」
「頼むよ。それじゃ、僕はお風呂に行くよ」
「とと様、行ってらっしゃい」
お風呂に向かうとと様を見送りながら、わたしは千島くんの驚く顔を想像しながらお弁当の献立を考え、一品ずつ楽しんで作ったのだった。
翌日、千島くんの部屋を訪れ朝食を用意し、掃除と洗濯が終わりあとは出発するだけという段階になって、わたしは彼を呼び止めた。
「どうした?」
「あっ、えっと」
どうしよう。ただお弁当を渡すだけなのに緊張してきた。大丈夫、千島くんなら受け取ってくれる――そう考え、わたしは息を吸い込み一息で言い放った。
「お弁当作ったからよかったらお昼に食べて!!」
「弁当? 俺にか?」
「他に誰がいるんだよ。受け取ってくれるかな?」
「お、おう。サンキューな」
わたし自身、顔が熱くなるのを自覚しながらお弁当を渡したのだけど、受け取った千島くんも顔が赤く、しばらくお弁当箱を見つめて固まっていた。
「弁当か。誰かに弁当作って貰ったの、これが初めてだ」
「そうなんだ。なら、千島くんの一生の想い出になるね♪」
「何で嬉しそうなんだか。それよりも、早く出るぞ」
「あっ、待ってよ」
無事にお弁当を渡して、いつも通りに家を出た。ただ、登校中に渡した際の会話を思い出して急に恥ずかしくなってしまい、一言もお話しすることが出来なかった。
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