プロローグ
『七大罪』
それは人間という種における業。
例えば『嫉妬』
人ならば誰もが思うであろう。
やれ、あの人は容姿が私より優れていて妬ましいだとか、頭が良い、金持ちだ、etc…
全くもって醜いものだ。度し難い。
…そう思う方もいらっしゃるかもしれないが。
少々考えて見てほしい。
本当にただ醜いだけで有るだろうかと。
見方を変えればそれは成長の糧にもなるのではないかと。
努力をするには切っ掛けが必要だ。切っ掛けの次は努力を続けるためのモチベーション。
『嫉妬』は、切っ掛けとモチベーション、そのどちらにもなれる可能性がある感情である。
羨ましい、妬ましい、「私もなりたい」、そう思うだけではただの醜い感情で終わるかもしれない。ただ、そこから行動を起こせばそれはきっと、努力と呼ばれるものになる。
そしてそれを続ければ、目標だと思っていた、羨ましい存在は遥か後方になっているかもしれない。
それは、他の『七大罪』にも言える事だ。
例えば『暴食』
一見して、ただ貪り喰らうこの大罪。
これが、プロのアスリートや、美食家、大食い選手だったらどうだろうか?
アスリートであれば、肉体を効率的に成長させるのに必要な栄養素を、大量に摂取でき、他の選手とは一線を画す身体能力を得ることができるだろう。
美食家であれば、一日に食べられる制限はなく。
満腹感によって生じる評価のブレもない。
夢のような話だ。
大食い選手ならば、それがそのまま選手としてのスペックの高さになる。
それは大罪等と言うものではなく。
『才能』
そう呼ばれるものでは無いのか。
少し、非現実的な話にまで、話を拡げてみよう。
無限に増えるケーキがあったとする、そのケーキは何もせずとも虚空から現れ、時間とともに増えてゆく。そういうものだったとしよう。
そんなものがあれば良いと、考えた人も居るのでは無いだろうか?
だが、よくよく考えてみると、一つ一つのケーキは小さいが、虚空から現れ、無限に増える。この迄で勘のいい方は気づいたであろう。
なるほど、これは
『地球が滅ぶ』と
たとえ、それがコップ一杯だったとしても、それが無数に集まれば、海となり、津波となり、沢山の人を殺す水の様に。
1、2、4、8、16と知らない所で数を増やし、ケーキの海となっていたら…
すると最早、「暴食は罪だ」なんて人は糾弾され。「暴食は人類を救う」と言う人が現れても可笑しくは無いのではないか?
もちろん、他の感情も然り。
ここまで『七大罪』の良い部分について話してきたが、そんな『七大罪』が度を越すとどうなるのか、二つ
『怠惰』
恐らくこの感情が最も「周りの被害が少ない」、言い換えれば「安全」な感情だ。
何故ならこの感情は自己で完結している。
『怠惰』すなわち、怠け、惰弱、自ら干渉しようと言う欲では無い。
布団に籠り、娯楽を楽しみ、惰眠を貪る。これが最高だ、と思うなら君は『怠惰』の才能がある。
だが、極限まで『怠惰』であり続けるというのは、人間なら不可能に近い。
生きるというプロセスの中にはどうしても食事や運動といった『怠惰』では無い、『勤勉』な行為が必要になってくる。
それ故に『怠惰』になった普通の人間は簡単に死んでしまうのだ。
逆に最も危険な感情。
七大罪の名にふさわしい感情はなんだろうか。
『傲慢』?『強欲』?確かにどちらとも危険な大罪だ。
『傲慢』であれば他者を見下し、嘲笑うことに愉悦を感じ、その手段は問わないだろう。
『強欲』であれば他者のものまで奪い尽くし、その欲の果ては「物」だけでは収まらないだろう。
だが、私が一番危険だと思うのは『色欲』だ。
何故なら、それは人間の三大欲求というものに数えられる欲だからだ。尚且つ一人では満たせない欲、その欲望に際限が無いという事は、極論を言ってしまえば全人類を破滅させるまで止まらないのでは無いか、そんな気がしてならない。
勿論、前述の『嫉妬』や『暴食』であっても行き過ぎれば危険な感情である事に変わりはない。
さて、ここまで長々と話をして私が伝えたかった事の要点はつまり、『七大罪』にはメリットと取れる面と、デメリットと取れる面があるということだ。
私は、そのメリットを最大限に引き出す装置を今回七人に与えてみた。
その人物にあった『七大罪』が引き出され、当然デメリットも生じる。
突然湧いた力をどう扱うのか、私は楽しみでならない。
あぁ願わくばこの哀れな人間たちに慈悲を。
ジリリリ!!!!
「もう朝かぁ〜、まだ眠いな…」
目覚ましの音で夢から覚めると、いつも通りスマホの画面には僕を起こそうとする通知が沢山だ。
そんな通知を無視して、今日もモーニングルーティンを初めていく。
「んぅぅ、とりあえず…ご飯食べますかぁ」
布団の上で軽く伸びて、のっそりと効果音が付きそうな音で布団から這い出る。
幾つかある冷蔵庫の中から適当な食べ物をそのまま口に放りこんでいく。
「モグモグ…」
ハム、生卵、果物、etc…
そんないつもどうりの食事をとりつつ学校の準備をしていると、大きな破裂音の様な物と共に、甲高い叫び声が聞こえてくる。
「ん?なんだろう、事故でも起きたのかな?」
そう思って窓を開けて外を見てみると、何やら僕の家の前に隕石でも落ちたらしい。
人間が一人収まる程度で卵形、その表面は俗に言う玉虫色で未だにその不可思議な物体からは蒸気の様なものが立ち上っている。
そして、それに気づいた周辺の住民たちは窓から様子を伺い、偶然近くにいた通行人なんかは腰を抜かしてへたりこんでしまっている。
「ほー、世の中不思議な事もある物だね〜、まさか家の前に隕石が降ってくるとは…周りもすごい騒ぎだ」
まぁでも僕には関係の無い事だ、例えそれが僕の家の前で起こった事とはいえ、更にそれが現在進行形でコンクリの地面に僕の名前を象っていたとしても、関係ないったら関係ないのだ。
身だしなみを整える兼ちょっとした現実逃避の為、部屋に置いてある全身が見れるほどの大きい鏡の前に立つ。
見慣れた目の下の酷い隈と、痩せ細り肋骨が浮き出ている身体、そして極めつけは不気味なくらいに『白い髪』。
アルビノでも無いのに、生まれつき白いこの髪を僕は密かに気に入っている。原因は医師に聞いても分からなかったが、別に治して欲しいわけでもなかったし気にしていなかった。
さて、ちゃっちゃとお気に入りの髪の手入れを済ませたら、学校へ行こう。
今日も世界は平和だなぁ。
失踪予定ですが、評価が高ければ続くかもしれない