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第0話



 そこは夢幻の世界だった、ボクとキミしかいない。

 ボクにはキミしかいないし、キミにはボクしかいない。そう、ボクらだけの、ボクらに

しか入ることが許されていない2人だけの秘密の場所。邪魔者なんて誰もいない、ボクら

以外の人間はそこに存在することすらないから。

 そこにある全ては、三次元をペイントした二次元のキャンバスを合わせて創られた三次

元空間だった。ボクの自由とキミの自由をペイントブラッシュで描き、ボクの希望とキミ

の希望をインタクトに詰め込んだ立体的空間。

 ペッタン、ペッタン、パズルのピースをはめるように埋めていく。

 うんとこしょ、よっこいしょ、1mあるかないかのボクらの小さな体で同じぐらいのサ

イズのキャンバスピースを一つ一つ心の赴くままに埋めていく。

 まだ幼いボクらの力では簡単じゃなく、キミは何度か顔をしかめてこっちを振り向き、

その度にボクはキミに手を貸した。ボクが手伝ってあげることを望むように、ちょっと大

げさに辛そうに見せていたのは分かってたから。狡賢いもんだとしておきながら、ボクは

ボクでキミに手を差し伸べてしまうんだ。

「ありがとっ、ハヤト」

 その緩んだ笑顔を見せられたら、何もかも浄化して良化される。ボクの疲労も、きっと

悩みを抱えた人たちも、世界中の紛争も・・・・・・なんて、さすがに言いすぎかな。

 でも、それぐらいキミの晴れた顔は魅力的だった。それがボクにだけ向けられてるんだ

と思うと、それを独り占めしたくてたまらなくなる。まぁ心配することないんだけどね、

ここにはボクとキミの2人しかいないわけだから。


 そうやって創りあげたユートピアは会心の力作になった。自分で創ったから愛情も人一

倍湧くし、2人で創ったから新鮮さも湧いた。

 理想郷にどこまでも続いていく青空は、終わりなんてないように果てしなく広がってい

る。その大空を翔けるユリカモメの群は綺麗な等間隔を為していて何だか面白かった、リ

モコンで動いてるみたいだねって美月も言った。

「おぉ〜い、おぉ〜い」

 ホバリングをしながら我物顔で翔けるユリカモメたちに向かって美月がジャンプをしな

がら両手をこれでもかと大きく振る。そんなことしたって気づきはしないよ、そう思った

けど口にはしなかった。何とかユリカモメたちに顧みてもらおうとする美月の小さな後ろ

姿はかわいらしいものだったから。

 やがて群が黄金色に輝きを放つ太陽にスッポリと吸い込まれていくように視界から消え

ていったのを確認して、キミはこっちを振り向いて「行っちゃったね」ってポツンと言っ

た。淋しそうな顔をするキミに、ボクは柔らかな笑みを見せて「そうだね、でもまた来る

よ」と返す。そうしたら、キミもシュンとしていたものを綻ばせて「うん、また来てくれ

るよね」と言った。

 キミがマイナスなときには、ボクがプラスになる。

 ボクがマイナスにいるキミをプラスに呼び戻してあげるから。

 その代わり、ボクがマイナスなときには、キミがプラスになってくれる。

 マイナスにいるボクをプラスに呼び戻してくれるために。

 そうやってボクらはバランスを保っていく、意識なんてしないで自然にそうなるんだ。


 ボクらは創造の世界で誰に何を縛られることなく、2人の時間を過ごしていく。ボクは

運動的だったから体を動かすのが好きだったけど、キミはおままごとやら女の子らしいも

のが好きだった。

 一緒におままごとをすると、キミと少し背伸びした恋人同士になれる。どこで憶えたか

も分からないような老成た会話をして、思わず笑ったりした。それは何だか照れくさいも

のだったけど、キミとならそれ以上の幸せを得られた。

 鬼ごっこをすると、ボクは適宜なタイミングで走るスピードを落としていく。キミが鬼

になると、いつまでもボクを捕まえられなくて泣き出してしまうから。だから、2〜3分

も経つとボクはボクの速度を緩める。そうなると、キミはここぞとばかりに張り切ってボ

クにタッチをしてみせる。

「ハヤトは最初は速いのに、急にスタミナが切れちゃうんだよ」

 本当はそうしてあげてるんだよ、って言葉は心の中に閉まっておく。キミの涙は見たく

ない、キミがボクに見せる顔はいつでも明るいものでいて欲しい。

 菜の花畑に生えているのを紡いで作った花冠を贈ると、キミは笑顔でありがとうと言っ

てくれた。素人まるだしの格好のつかない花冠なのに、キミは本当に嬉しそうに頭にチョ

コンと乗せてくれた。

 その言葉が聞きたくて、その笑顔を見たくて、ボクはありとあらゆることをキミにして

あげた。

「・・・・・・ハヤト・・・・・・」

「・・・・・・ミツキ・・・・・・」

 ボクらは花々に囲まれた緑々とした芝生に寝そべって抱き合った。菜の花やチューリッ

プやひまわりの明るい色に覆われながら、燦々と降り注ぐ太陽の温かい光に覆われながら。

そのまま眠ってしまいそうになるくらいに気持ちよく、それは包んでいた相手の体のぬく

もりも同じだった。

 キミの体を抱きしめてると、これ以上はないくらいに安心できた。愛だとか恋だとか、

そういう感情に行き着くにはボクらは幼すぎたけれど、今になって思えばあれはそういう

ことだったんだろう。

 そんな意味も分からずにボクはキミと抱き合っていた、そのときはただそれだけでよか

ったんだ。キミとの空間、キミとの時間はこのまま続いていくものだと信じていたから。

 ボクらは永遠だと思ってた、永遠は当たり前にあるものだと思ってた。



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