グール宅急便
「グール宅急便です。お荷物の配送は完了しました」
「え」
山深い山荘でその事件は始まった。
グール宅急便。
ただの迷信だと思っていたのに実在したとは……。
「この中にグールが……?」
グールとは人を食べると言われる怪物だ、しかも人の姿に化けるらしい。
その特性を利用して小さな集落や人の密集地にグールを送り付けるという趣味の悪い遊びをする連中が居るという噂があった。
それがグール宅急便、その日俺たちを襲った災難だ。
「わ、私じゃない。私はれっきとした人間だ!」
「お前、怪しいな。その口元、人を食っただろ」
「トマトよ、失礼しちゃうわ」
「こんな所に居られるか! ワシは国に帰るぞ!」
直ぐに俺たちは混乱に陥った。親しい者同士なら本人かの確認も取れたのだが、この山荘に集まったのは見ず知らずの人間ばかりだった。
「ダメです、橋が焼かれてます。直すのには時間が要ります」
「そんな……」
俺たちを更なる不幸が襲う、迷いの森と呼ばれる深い森に囲まれた山荘でたった一つの安全な通路である橋が落されたのだ。誰がそんな事を……?
ここに集まった人間はただの旅行者のはず、偶然居合わせただけで何か恨みを買っているとも思えない。
「キャー!?」
そして最初の惨劇が起こった。
男が崖から落下して死んでいるのだ。
「さっき国に帰るって言った人よね」
「足を滑らせただけじゃないか?」
「違う……。お前、グールだろ! 間違いない、皆でこいつを吊るし上げようぜ!」
「何の根拠があって──、おい、やめないか!」
混乱した男が裕福そうな初老の男に襲いかかる、だが誰もそれを止めようとしなかった。
既に全員が周囲の人間を信用していなかった。
恐怖に駆られたその男がグールかもしれないのに。
「どうやったらグールって分かるんだ? 殺すか?」
「さすがにそれは……」
「次に殺されるのはお前かもしれないんだぞ!」
話し合いの結果、初老の男は別の部屋に隔離された。
本当にこれで解決すれば良いのに……、
だがそう思っていた矢先だった。
「あなた、今私の事狙ったでしょ!?」
「は? 誰がそんな事」
「こいつがグールよ!」
「ふざけんなよ。……ってその前に、人減ってないか?」
激しい音と共に刃物を手にした初老の男が飛び込んで来る。
「お前ら全員ぶっ殺してやる!」
後は血みどろの争いだった、いつの間にか背後から刺された俺は今際の際に一つの声を聞く。
「グール宅急便です。手違いで人を届けてしまい申し訳ありま……あれ?」