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彼女の帰還  作者: Tro
#9 真実の愛
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#9.3 愛の試練

水溜りの前でエリカが立ち止まると思っていたヒロだが、そのままジャブジャブと入って行くエリカを止めようと右肩を掴む。その掴んだものは軽く、エリカの肩から離れた。光学迷彩中の大五郎Sだ。


不審そうに振り返るエリカが前に向き直し、少し身を屈めると手をクネクネとしている。


「ほれ」

「なんだ? それは」

「担いでやろうというのだ。ほれ」

「無理だろう、それ」


エリカは団長として団員を守る義務があると思っている。無理でも、やる。


「ほれ」


一度言い出したら聞かないエリカだ。ここは素直に従っておこうと、ヒロはエリカの背中におぶさる。


そのエリカは一歩も動けない。体が小刻みに震えている。ヒロは降りようとしたが、両足をしっかりと掴まれている。既に運命共同体だ。


「無理だ。降ろしてくれ」

「ムムム」


エリカが一歩前進、また一歩前進し、一歩後退する。


「無理だって。もういいから」

「ヌヌヌ」


エリカが根性で一気に三歩前進。一歩後退するはずが足を滑らした。二人は真後ろに倒れ、大きな水しぶきが上がった。水没したヒロの顔の前にはエリカの背中がある。当然、息ができない。男冥利に尽きる最後だった。



二人は濡れたままバッティングセンターに到着。


元気なエリカが防具を付けようとしている。それを慌てて止めるヒロ。エリカの顔が不満で膨らんだ。


「バットの方がカッコイイ」

「良かろう」


ヒロの一言で納得したエリカが左側のバッターボックスに立った。ヒロは既に縛られている。


第1球、空振り。そのままエリカはクルッと回ってバットから手を離す。

ポーズを決めたようだ。バットはヒロに直撃。痛くて、泣く。


第2球、空振り。エリカのバットは空を切る。ヒロにドスン。痛くて、泣く。

第3球、空振り。エリカのバットは空を切る。ヒロにドスン。痛くて、泣く。

第4球、空振り。エリカのバットは空を切る。ヒロにドスン。痛くて、泣く。


「うるさいぞ」

エリカはバッターボックスを離れ、ヒロにバットを向け文句を言う。


「痛いんだよ〜」

「私を見習え」


エリカは右側のバッターボックスに立ってバットを構えた。その表情は真剣だ。


第5球、空振り。エリカのバットは空を切る。ヒロにドスン。痛くて、泣く。

第6球、かすった。ヒロにドコン。痛くて、泣く。

第7球、かすった。ヒロに当たらず。そのうち当たりそうな予感。

第8球、空振り。エリカのバットは空を切る。ヒロにドスン。痛くて、泣く。

第9球、ピコ。当たった。勝利宣言するエリカ。ヒロは生きているのか?


◇◇


『は〜い、良く出来ました。

次は後ろのドアを出て、通路を進んでくださいね』


元気なエリカとボロボロのヒロがドアを開けて通路に入る。通路は綺麗な壁で囲まれ、廊下といった雰囲気だ。だがその幅が狭い。二人が並んで歩くのは無理のようだ。


元気なエリカがヒロを引き連れるようにして歩く。ヒロはフラフラと揺れている。そこに大きな音が響いてきた。ボールをつくような音だ。それがドカ、ドカと衝撃音を伴って近づいてくる。その正体はエリカにぶつかって分かった。バレーのボールだ。


不意打ちを食らったエリカが悶える。フラフラのヒロが体をよじって、エリカの前に立ちはだかった。ボールは壁という壁に反射しながら、狭い通路を我が物顔で飛んでくる。その軌道は予測できない。


避けることもできず、その衝撃を一身で受けるヒロ。エリカはまだ、ヒロの後ろでうずくまっている。ボールが何度もヒロに当たるが、中には天井から跳ね返ってエリカに直撃するものもある。その度エリカは「うぎゃ」と声を発するが耐えているようだ。


「立ち止まったらダメだ。走るぞ」

「待て」


ヒロの提案に待てというエリカ。どうするつもりだー、と振り返るヒロの横をすっと通り抜けたエリカ。「付いて来い!」と勇ましく叫び、振り返ると頭、背中、腰にボールが当たりエリカは K.O。倒れたエリカをおんぶして突っ走るヒロ。さっきまでのフラフラが嘘のようだ。全てのボールを一人で受けきり、突き当たりに到着。その先はなく、そこが終点のようだ。


◇◇


狭い通路をタナベを先頭に歩く二人。そこにドカーンとボールがタナベの土手っ腹にぶち当たる。不意打ちに気を許したのか「うう」と痛みの声と共に体内に溜まっていたガスが一気に噴出した。後ろを歩いていたマリアは、たまったものではない。痛いのか恥ずかしいのか、タナベの顔は真っ赤だ。思わずマリアも「う」と声を漏らした。その意味するところは分からない。


ボールはどんどん飛んでくる。恥ずかしがっているとボールがマリアに当たる、と思ったタナベが弁慶のように立ちはだかった。もう声は出さない、と歯を食いしばり我慢をした。


「タナベさん!」

「大丈夫だ〜」


全然大丈夫じゃない声が返ってきた。さすがの弁慶も、その痛みと衝撃でしゃがみ込んでしまった。弁慶危し。


「私が前に出ます」


業を煮やしたマリアが前衛を志願した。勿論、弁慶は拒否。タナベの意地だ。そんなことにはお構いなくマリアがタナベの前に立った。


「ダメだ〜、マリア君」


その声も届かぬうちにボールがマリアを襲う。それを華麗に弾きかえすマリア。どうやらバレーの心得があるようだ。


「付いて来てください」


マリアの心強い声がタナベを立ち上がらせた。マリアの手が目にも留まらぬ速さで、我が物顔のボールを蹴散らしていく。その勢いでビンタを食らったら、ただではすまなそうだ。


二人はマリアの活躍により無事、終着地点にたどり着いた。


◇◇

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