#9.1 真実の愛を探そう
ポテート号は大きなお城がある港に入港。その使命を終えた。
乗員の退艦を見送る艦長のエリカ。その目には達成した者のみが見せるという輝きが宿っていた、とかなんとか。
港に隣接するお城の城門をくぐれば、この世界の終わり、出口である。二人の絆を確認し合ったリョウとココナ。大して役に立たなかったヒロ。それぞれが振り返り、満足げなエリカを見上げた。
そこに、1台の黒い車が城門から出てきた。
車はリョウとココナの側で止まると、運転していた男が降りてきて、何やらリョウ達と話をしている。それを見ていたヒロが、その男がタナベだと知る。高みの見物をしているエリカには誰だかはっきりとは見えない。ヒロとエリカが、ほほ〜と見ているうちにタナベはリョウとココナを後部座席に乗せ、そのまま車を走らせ、来た道を戻って行った。ヒロとエリカは、何で自分は乗せてくれないのだろう、と同じ思いを抱いたようだ。
「おーい、帰るぞー、降りてこいよー」
ヒロがエリカを呼ぶと、エリカは渋々船の階段を降りて、名残しそうに何度も振り返っていた。
さあ、俺達も一緒に手を繋いで帰ろうぜ、とそこまでは考えていないヒロだが、それも悪くはないな、と思ったりしたようだ。ヒロが城門に向かって歩き始めてもエリカは動かない。
「置いていくぞ」
エリカがやっと歩きだした。ただその顔はムスッとしている。ヒロはこいつを連れ帰るのが使命と思い、何でもいいからその使命だけは果たそうとう自分に言い聞かせた。
◇
車中のタナベ達。どこかに連行されのかとピクピクのリョウ、なるようにしかならないと割り切るココナ、どう切り出すか悩むタナベ。それぞれの思惑で車が動いているように思えた今日この頃の三人。タナベが何かのついでのように話し始める。
「ああ、君達の、いやいや、リョウ君の結婚は延期になった」
「本当ですか。何時になったんですか」
「いや、未定だ」
「えっ」
タナベの、どうとでも取れる言葉に揺れまくるリョウ。
「あ、いや、延期になったのは本当だ。その期日が未定ということ」
「そうですか。でも、なんでだろう」
「いや、その、まあ、君達の会話、ばら撒いちゃった」
「はあ?」
「ほら、その、みんな、これで、わかった、かな〜って」
「はあ。まあ、それはそれで」
「ところでさ、あれだよね。これって君一人で考えたことじゃないよね、
そうだよ、ね、ココナさん」
「えっ」
素っ頓狂な声をあげるココナであった。
「ああ、いいんだ。これから先は、君達次第ってこと、だよ」
「「はい」」
二人同時の返答に安堵するタナベであった。これでタナベも、役割は終わったと思っただろう。今後はなるようになる、上手く収まってくれと願うタナベだ。
◇
ヒロとエリカは城門から中に入り、さらに先を進む。城内に入ったと言っても地上階では小さな店がずらっと並んでいる。準備中で誰もいないため、廃墟のような怖いイメージがある。時々、ショウウィンドウに映る自分を見て、”誰かいる” と驚くヒロである。
ヒロはエリカが自分の後に付いて来ているものと思っていたが、その静けさに振り返ると、案の定、エリカはいない。真っ直ぐ歩くことも出来ないのかと辺りを探すと、いた。ピンク色の馬車の形をした入り口のある店の中、そこの椅子に座っていた。
『ようこそ。真実の愛を探すツアーへ』
ヒロが店内に入ると、いきなり挨拶された。
「いえ、客じゃないんで。それに俺は……」
ヒロは自動音声に返答していた。途中で気づき馬鹿らしくなったようだ。
『只今の待ち時間はありません。参加者募集中です。あと1人で始まります。それでま暫くお待ち下さい』
ヒロはエリカに声を掛けようとしたが、お休みのようだ。ずっとブリッジで立ちっぱなしだったのを思えば無理もないだろう。仕方なくヒロはエリカの隣の隣に座り、少し待つことにした。急いで戻る必要はないのだから、と理由を考えて。
◇
タナベ達はエレベータの前で車を降り、それに乗り換えようとしていた。そのエレベーターは透明なチューブが空まで伸びている。まるで軌道エレベーターのように見える。これに乗るのか、とリョウが見ただけでビビっている。経験者談。
中に乗り込んだタナベが首を傾げる。タナベは下に向かうつもりだっが、上にしか行けない。いやいや、外から見て分かるだろう。
それを見ていたリョウが更にビビるが、そのリョウを見ているココナは、リョウが何に恐怖しているのか分からない。大丈夫だよ、と背中を摩ってやる。タナベは取り敢えずエレベーターの扉を閉じ、上に向かう。勿論、通常の速度でだ。一旦上がって、◯◯してから下に降りようと考えた。◯◯は企業秘密となっている。
その◯◯が終わった時、エレベーターが停止した。これは故障ではなく、通常の停止だ。誰かが乗ろうと外からボタンを押したのだろう。エレベーターは20階で止まり、扉が開いた。ちなみにタナベ達が乗り込んだのは16000階。そこから上がって◯◯して現在位置になる。タナベは、もしかしたら彼女、マリアかと思って焦ったが、そうではなかった。もしそうなら、会わせる顔がなかったところだ。
ホッとしたタナベだったが、エレベーターに乗り込もうとして来たのは、カメラを担いだマスコミさんだ。どうやら全世界を駆け巡った結婚延期の情報でここまで来たのだろう。一体警備は何をやっているんだと思ったが、目の前にいては仕方がない。まだリョウ達をマスコミに晒すわけにはいかないのだ。それはあと少し先の話だ。
タナベは閉じるボタンを押し、リョウ達を中に残してそのマスコミと一緒にエレベーターから離れた。驚くリョウ達にタナベは”グットラック”の合図を忘れない。ここからタナベ達の鬼ごっこが始まった。
「関係者の方ですよねー」
「違いまーす。ただの掃除屋でーす」
「嘘だー」
「嘘だよー」
タナベは、この階をよく知っている訳ではない。今日が初めてだ。適当に走っては見つかり、見つかっては走るを繰り返していた。しかし、普段運動をしていないタナベに走り続けるのは不可能。もう、息が上がっている。そこで、適当な部屋の扉を開けて中に忍び込んだ。その部屋には先客がいたが、お互い顔を見るなり「「あ!」」と声を上げた。マリアだ。
閉じたドアからカチャリと音がしてロックが掛かり、タナベの退室を拒んだ。
『ようこそ。真実の愛を探すツアーへ。
参加者人数が揃いましたので、只今よりツアーを開始したします。みなさま、覚悟してくださいね。あなた達の”愛”が試されます。幾多の試練を乗り越え、真の”愛”をその手に掴んでください。でないと、”愛”が逃げてしまいますよ。
では、頑張って』
タナベは焦った。
よりによって”真実の愛を探すツアー”の術中に嵌ってしまった。カップル2組以上で参加する、ツアーという名の拷問。担当は花子Cだ。式場受付でエリカをどついた花子C。性格も……言えない。
密閉された部屋が動き、どこかに移動している。それがゆっくりなため、上下左右、どの方向に動いているのかは分からない。暫くして部屋は止まり、ツアーの開始位置に着いたようだ。タナベの気まずさは半端ない。だが、ツアーが終わるまで離れることは出来ない。そういう構造になっているからだ。それはマリアも十分承知している。花子Cもマリア同様、タナベの部下だ。同じ部署の仲間同士、運命は絡み合う。




