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彼女の帰還  作者: Tro
#4 青い山脈
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#4.3 トロッコ列車

坂が急にきつくなる。マリアの仕事に手抜きはない。エリカ達を乗せたソリがヒロのスノーモービルの横に並ぶ。追い抜かれまいとヒロがスピードを上げる。それを見てエリカはニヤリとしたようだ。


(どっちが速いか、教えてやろう)


ココナは必死に、ソリにしがみつく。エリカは体を目一杯左に傾ける。目前に小高い山が迫ってきた。ココナもエリカを真似て体を左に傾ける。ソリは左にグイグイと曲がって行き、スノーモービルと繋がるロープがプチンと切れた。ソリは小高い山に阻まれ、登りきる前に止まったが、ヒロはそのままジャンプ。帰らぬ人となった。


ソリを降りた二人は小高い山を越え、事故現場を発見。スノーモービルの近くに死体が転がっている。このまま春を迎えれば、草木のいい肥料になるだろう。


「くっそー。行けると思ったのになー。やっぱり初めてだと無理か」

死体がこの世を彷徨っているようだ。


立ち上がろうとした死体に、優しい手が差し伸べられた。


「ありがとう、ココナさん。大丈夫ですよ」


その手を握ったヒロの手に痛みが襲う。エリカが微笑みながら爪を立てていたようだ。


◇◇


雪はさっと消え、冒険団一行は歩きやすくなった。また森の中を進むと、少し開けた場所に行き着く。そこにはロッジ風の大きな建物がある。”寄って行けよ”と冒険団を誘っている。誘惑に弱いヒロがフラフラと中に入ると、そこはトロッコ列車の駅のようだ。トロッコと言ってもジェットコースターのアレである。


これに乗れば一気に下まで行けそうだ。だがこれはヒロの勘だ。もう歩き疲れた体が、そこに希望を見出した。それが真相だろう。他の二人も同様だ。


まだ準備中とあって、係員などはいない。ヒロはまた、良からぬことを考えた。座席は二人乗り。ココナと相席で、『きゃー』『大丈夫。俺が付いているよ』というドラマの脚本を作った。係員がいなくても、俺が動かしてから乗り込めばいい。そう考えている隙に、既に先頭車両にはエリカとココナが座っている。ヒロの脚本はボツになった。


トロッコ列車を始動してからヒロが飛び乗る。エリカ達の後ろだ。列車はゆっくりだが、どんどん上がって行く。せっかく山を降りてきたのに、何故か列車は山を登り始めた。


きっとジェットコースターのように登りきってから降りていくのだろう、とヒロは思いながら車両にしがみつく。本当は高いところが苦手なのだ。


ココナも怖くて目を手で隠している。車両が昇るのを止め、滑走しだした。


「ココナ、あれ!」


エリカの声でココナが目から手を離し、”あれ”を探した時だ。車両は一気に下り始めた。


「きゃあああああ」


ココナが悲鳴をあげ、エリカが両手をあげる。それを見ていたヒロが複雑な表情をしている。『大丈夫。俺が付いているよ』ヒロの心が、叫んでいた。


車両は下りながら右に曲がり、エリカの長い髪がヒロの顔を引っ叩く。

車両は下りながら左に曲がり、ココナの長い髪がヒロの顔を引っ叩く。

車両は下りながら左右に揺れ、エリカとココナの長い髪がヒロの顔を覆う。

ヒロが何か言いたげだ。代わりに言ってやろう。『息ができない』


車両は快調に駆けぬけていく。だがヒロの頭に、ある疑問が湧き上がる。もしかしたら、スタート時点に戻るんじゃないかと。そんなことは、乗る前に考えろ。


エリカは喜びに浸っているが、ココナも慣れてきたようだ。目を開き、エリカ共々スリルを楽しんでいる。そうなってくると、そろそろマリアの仕事の時間だ。


ヒロの心配も不安も吹っ飛ぶほど、車両は下がって、下がって、上がって、上がって、その先が、無い。これでスタート時点に戻ることはなくなった。


車両は上がったその先にも行きたかっていたが、無いものはしょうがない。ジタバタすることもなく、自由落下を始める。おまけに車両の安全バーまで解除された。マリアの仕事に隙は無い。念がいっている。


お空に放り出された冒険団はここで終わるのか。

眼下には深い谷が待っている。それは深い谷だ。その底から生きて帰った者はいない。当然だ。まだ誰も、その底に到達した者はいないのだから。


ヒロは、これで確実に死ぬと思った。走馬灯が発動。懐かしい思い出よりも、恥ずかしい思い出の方が多く再生される。”穴があったら入りたい”その思いは直ぐに叶う。少し待て。


エリカとココナは、ヒロとは違う。

こういう時は得てして女性の方がしっかりしているものだ。エリカも例外ではない。エリカは、まだお土産を貰っていないから何とかなる、と思っている。


そんなエリカと違い、ココナには秘策があった。

ココナの、あの白い猫。あれも大五郎S同様、光学迷彩状態でココナの肩に備わっている。その白い猫の足が伸び、ココナの脇を支え、背中からジェットパックが出現。ズヒューンと音を立て起動、シュパーンとジェットを噴射し、ココナを支える。


それを見た大五郎Sも、負けじとジェットを噴射し、エリカを支える。それを見たヒロが、ただ一人、落ちていく。


ヒロの走馬灯は、その上映時間を終え、アカシックレコードに新たなページが作られようとした時、それを破り捨てるようにエリカがヒロの右腕を掴んだ。ココナもヒロの左腕を掴み、囚人のごとく二人に支えられた。


こうして冒険団は、人類未踏の谷底に舞い降りた。

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