#0 甘〜い恋の物語
俺のところに異世界から孫娘が転がり込んできた。いや、遊びに来ただけだが。
孫が来たと言っても、俺はまだ60歳。ナイスミドル、または大きなお兄さんと呼んでもらおうか。
娘夫婦がちょっと出かけるからと、孫の保護を依頼してきた。俺は忙しい。忙しくて暇を持て余している。一体、どっちなんだ。
孫娘は俺の話を聞くのが大好きだ。
俺の話を、ウンウンと聞いては感心する。だから話し甲斐があるというものだ。俺の人生の、哀しく、辛い話にも同情してくれる。”同情するなら金をくれー”と世間では言うようだが、俺は愛が欲しい。ああ、言ってしまった。
孫娘には孫娘なりの世界を持っている。その世界を、ほんの少しだけ広げてやるのが俺の務めだと思っている。
「さあ、話を聞かせてもらおうか」
早速、孫娘からの挑戦状が叩きつけられた。幼いとはいえ、れっきとしたレディーだ。丁重に扱おう。
「今日は、大人の階段を一歩、上がってみるか?」
「エレベーターで頼む。私は忙しいのだ」
大したものだ。親の顔が見て見たい。いや、さっき見たばかりだ。良くぞここまで育てたものだ。その親の顔が見て見たい。俺か。
「では、始めるとしよう。これは甘〜い恋の話だ。お前には、ちと早いかもしれんが、覚悟して聞くんだ。この話の主人公は、お前も知っている者が登場する。もし途中でわかっても、ニヤニヤするなよ。ああ、それとだな…」
「はよ、始めぬか!」
「はは〜、お嬢様」