僕のはじまりは君と
僕の手のひらで、今日も一つの白が形を成す。あたたかくて、重たくて。
柔らかな光に包まれて生まれたそれはゆっくり顔を上げる。
「一人ぼっちじゃ、はじまらないよ?」
一人の天使は僕の方に手を伸ばした。
「私がそばにいて、あなたの物語を、はじめてあげる」
金の髪が広がって、白のワンピースが宙を舞う。
「あなた一人じゃ、はじまらないよ?」
歩いたあとは光の音となって僕の胸に響く。
「あなたは一人じゃないの」
不意に抱きしめられる。重みがあって、人を感じられた。
肌のぬくもりが僕を包む。
「冷えきった心に灯火を、冷えきった体にぬくもりを」
そしてあなたに優しさを、そんな言葉が甘くて僕は縋りたくなる。
「優しいあなたに優しさを、私は与える天使になりたい。誰よりも優れた、あなたの天使になりたい」
羽をふわりと羽ばたかせて、ミントの香りが漂って。
「輝くあなたに輝きを、私は与える天使になりたい。誰よりも眩しい、あなたの光になりたい」
美しすぎるその声に、そっと身をゆだねて。美しすぎるその声に、そっとまぶたを落として。
「あなたのために、消えゆく一つの灯火になりたい」
最後の一言が響くその時まで、最期まで意思が貫かれることを祈って、僕は今日も生きていく。
僕から放たれた無数の光が、ぬくもりが、いつか僕の元に帰ってきて、おばあちゃんみたいになって、それで僕をもう一度、あたためてくれればいいよ。
僕は一筋の光を見た。夢のような光。
「あれは、なんだったの……」
眠っていたからきっと夢。夢に違いないけれど、僕はまた会いたいからさ、手を小さく丸めて息を吹き込む。
こうすると、君がもう一度出来上がりそうだ。
「君が、出来ますように」
嗚呼、やっぱり。出来上がったよ。
ほら、顔を上げて。僕にもその顔を見せて。
「一人ぼっちじゃ、はじまらないよ?」
嗚呼、やっぱり。間違いない。
もう一度、いや何度でも僕たちは出会うんだ。
「私がそばにいて、あなたの物語を、はじめてあげる」
こうしている間にも、僕たちは運命の波に揺られてる。
「あなた一人じゃ、はじまらないよ?」
こうやって、また君に会うんだよ。
「あなたは一人じゃないの」
一連の流れが終わったら、また君が僕をはじめてくれる。
きっとそうに違いない。絶対に、そうなんだ。僕たちは、現れて、出会って、消えて、また現れて。
「冷えきった心に灯火を、冷えきった体にぬくもりを」
繰り返すことに意味は無いけど、繰り返したことには意味がある。
僕たちに意味は無いけど、僕達の世界には意味がある。
意味を成す。成すために僕たちは現れて、形を紡いで消えていく。
「もう一度、もう一度。君と僕が出会うために、もう一度」
「私はあなたの望みを、何度だって叶えたい」
ご愛読ありがとうございました。
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