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3.未知との邂逅

「まさか…子守をする事になるとは思わなかったな…」


 物心ついた頃には、既に姉さんと二人きりだった。

 もちろん両親の顔も覚えてないし、他の親戚もいるのかどうかすら分からない。

 だから、生まれてこのかた子守なんてした事もない。

 果たして、僕に務まるのかどうか…

 一抹の不安が残るものの、僕はとにかくべルフィを待った。



 気が付くと、辺りはすっかり暗くなっていた。

 いつのまにか眠ってしまっていたようだ。

 べルフィ、来なかったのかな…それとも僕が寝てるのを見て帰ったか…?

 …本人に聞いた方が早いか。

 僕はとりあえずべルフィを探すことにした。

 僕が椅子から立ち上がった時、突然ドアが開いた。

 僕は思わず身構えた。


「…リ…ベル……」


 ドアの向こうの暗闇から、僕の名前を呼ぶ微かな声が聞こえた。

 この声には聞き覚えがある。


「…姉さん?」

「リ…べ……すけ…て…」

「えっ…?」


 この声は確かに姉さんの声だ。それに助けを求めている。

 でもおかしいな…何かがおかしい気が…

 何かが引っかかりながらも、僕は声のする方へ走り出そうとした。

 …いや、待てよ。

 部屋を出ようとしたところで、僕は違和感の正体に気づいた。

 姉さんは…もう死んだはずだ。なのに、何故姉さんの声がする?

 …理由は簡単だ。


「…これは夢だ」


 僕はまだ目覚めていない。

 こんな悪夢に悩まされる様じゃ、姉さんの仇討ちなんて出来るわけがない。


「リベル……私を助けて…?」


 ドアの前に姉さんが立っていた。勿論、いつもの様に自らの首を持って。

 今までの僕なら、そんな姿になった彼女は直視できなかった。

 でも、今までとはもう違う。


「助けるよ…この手で、必ず」


 僕は姉さんに微笑みかけた。


「そう……残念だわ」


 そう言い残して、姉さんは暗闇に吸い込まれていった。

 すると、窓から黄色く暖かい朝日が差し込んできて、部屋が明るくなった。


「さて…こうなった時はどうやったら夢から覚めるんだろう?」


 僕はベッドに寝転がってそう呟いた。

 悪夢の根源を追い払ったのはいいものの、どうすれば目覚めるのかが分からない。

 誰かに起こされるまでずっと眠ったままなのかな…

 そもそも、これは本当に夢なのか…


「もしこれが現実だったら…どうしよう?」

「現実な訳ねェだろ?バカなのかお前は?」

「!?」


 突然降ってきた声に、思わず飛び起きる。

 部屋の中には誰も居ない。つまり、この声はドアの向こうから聞こえているはずだ。

 僕はドアに向かって言った。


「…誰だ?」

「どこに向かって言ってんだよ!やっぱりバカなのかお前は?」

「…?」


 ここにはドア以外の出入口はない。「バカ」という単語を連発されてちょっと頭にきてはいるが、本当に声の主がどこにいるのかが分からない。


「こっちだこっち!わざわざ窓から覗いてやってんだ…ありがたく思えよ」

「窓から?」


 僕はベッドに座ったまま窓の方を見た。

 すると、黒い物体がいきなり上から現れた。


「うわっ!?」

「なァにが「うわっ!?」だ、このビビり野郎!オレの目にビビってどうすんだよ!」

「……め…?」


 …めって……目だよね?

 まさかこの黄色いのって…目?

 僕の知ってる目はこんなに大きいはずないんだけど…


「…なァリベルよォ…お前『召喚獣』って知らねェのか?」

「召喚獣…?」


 一体コイツは何者なんだろうとか、何で僕の名前を知ってるんだろうとか、色々疑問は浮かんだ。

 でも、『召喚獣』という聞き慣れない言葉によって他の疑問はかき消された。


「…まァいい、とりあえずそこのドアの前に来い。話はそれからだ」


 僕は言われた通りドアの前に立った。

 ドアの下は何故か城壁になっていて、ここから落ちればまず助からない高さだった。


「…よォリベル…ビビりなお前にゃオレ様の姿は刺激が強すぎるか?」


 声の主は姿を現した。

 それは簡単に言えば、10mは軽く超えるほどの巨大な白い狼だった。


「別に…ただのデカい狼じゃないか」

「ちげェよバァカ!オレは『フェンリル』だ!そこらの狼とは違うぜ」

「フェンリル?」


 フェンリルといえば、聖書にでてくるあのデカい狼だ。

 実在したんだな…

 それによく喋るし口も悪い。


「…じゃあ、そのフェンリルが何故僕の名前を?」

「オレはお前の召喚獣なんだぜ?ご主人様の名前を知らねェわけねェだろ」

「…僕に君みたいなデカい奴が召喚できるの?」

「オレが出来るって言ってんだから出来んだよ!」

「…」

「…そもそも、オレはお前が召喚獣を知らなかったのが信じられねェんだが…人間なら一人一体ぐれェ持ってんだろ?」

「一人一体…」


 確かに、姉さんはいつもセントラというケンタウロスを連れていた。でも、それは姉さんが魔術師だからだと思ってた。

 コイツの言ってる事が本当なら、レヴィアやべルフィ、それに女王までもが何かしらの召喚獣を持っているわけだ。


「いいかリベル。お前はオレを必要とした時、いつでもどこでもオレを呼んでいいんだからな」

「…でも、君は信じられない位の大きさだから…どこでもっていうわけにはいかないと思うよ」

「…その辺はその場に応じてだ!分かるだろ…」


 僕はフェンリルの「めんどくせェ野郎だな…」という呟きを聞き逃さなかった。


「…そうだ、君に名前を付けようと思うんだ」

「名前?」

「そう。「フェンリル」って呼ばれるのは嫌だろ?僕も「人間」って呼ばれるのは嫌だからね」

「確かにな…イカした奴を頼むぜ!」

「そうだな…「ループス」なんてどうだい?」

「ループス?…ン〜…まァ、いいや。気に入ったぜ!」

「そっか…それは良かった」

「…お前何ニヤけてんだ?気持ち悪ィな…」


 僕は笑いを堪えるので精一杯だった。

 そこらの狼とは違う、ね…フフッ。

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