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第八話

 深夜の街に放り出された飯田の行き先は、もはや一つしかない。それは――――『空港』だ。

 タクシーを呼ぶことも考えはしたが、途中で下ろされる可能性もないとは言えない。この時間ではバスも出ていないため、飯田は周囲を夜陰が包む閑散とした道を徒歩で進んでいった。

 トラブル続きでろくに休めていないため、かなりの疲れはあったが、憤りが足を動かすエネルギーとなってくれているようだった。キャリーケースのキャスターをがらがらと響かせながら、一時間ほど歩いて空港に戻ってきた飯田は、息を切らせながらもすぐさま飛行機の状況を確認した。

 空いていたのはエコノミー席だけであったが、贅沢は言うまい。

 一番早いフライトのチケットを購入した飯田は、空港の椅子に腰を下ろし、ただひたすらに時計の針だけを見つめた。



 やがて巨大なガラス窓から見える空がうっすらと明るくなり、滑走路の待機列に並ぶ飛行機のシルエットが認識できるようになったころ、搭乗を促すアナウンスが鳴った。

 弾かれたように立ち上がった飯田は、一通りのセキュリティチェックを済ませると、始発の搭乗機へ駆け込むように乗り込んだ。

 ――ここまで来れば、もう安心だろう。

 分厚い扉が閉められ、外の世界と隔絶されたとき、飯田はようやく一息つくことが出来た。


 それからまもなくして、飛行機はその巨体をゆっくりと旋回、停止させると、最終確認の後、薄闇の滑走路を走り出した。

 機体がふわりと浮き上がり、エコノミーの小さな窓から見える陸地が徐々に下方へ遠ざかっていくと、蓄積されていた苛立ちが、ふっと霧散していった気がした。それと同時に、もはや自分がこの地に戻ってくることは二度とないのだろうなと感じながら、飯田は穏やかに目を閉じた。

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