第二話
長時間のフライト後、荷物を受け取って日本の大動脈ともいわれる巨大な空港を出ると、飯田は初夏の気配を感じながら、バスターミナルへ足を進めた。
横付けされていた駅前行きのバスに乗り込むと、唯一空いていた窓際の席を見つけ、腰を下ろす。窓の外では、ひび割れの無い、人工的に固められた美しい鈍色の地面を、沢山の車が滑るように走っている。
小刻みに上下する車体の下に視線を落とせば、エアコンによる水滴が地面の上で模様を描いていた。それは中々吸収されず、アスファルトの表面からにじみ出た油と混じって、怪しげな七色にきらめいている。
そのときふと、飯田は自分の傍に、重たそうな荷物を持った高齢の女性が立っていることに気がついた。あからさまではないが、確実にこちらの様子を窺っている。
窓ガラスには優先座席を示しているシールが貼られていたが、飯田の中に席を譲るなどという概念はなかった。
そうして眠ったふりでもして無視を決め込もうとしかけたとき――――自分の周囲に、ゾッとする光景が広がっていることに気がついた。
車内の乗客たちが、皆、白い目で飯田の事を見ていたのだ。金髪の若い女から、包帯で腕を固定しているサラリーマン風の男……。老若男女、誰もが、無言の圧力をかけてきていた。
――なんだこいつら? 優先席を譲らないことが、そこまで悪いことか?
そうは思ったものの、結局、飯田は、仕方なしに立ち上がるしかなかった。
すれ違いざまに「どうぞ」と声を掛けるも、老婆は当たり前だと言わんばかりに憮然としたままシートへ腰を下ろしてしまう。
バスは、それを見計らったかのようなタイミングで、ゆっくりと動き出した。




