4: シミュレーション
患者をデバイスに接続する時が来た。すこしばかりの機器を病室に運び込み、設定をした。周辺の映像を使ったテスト環境での接続だということはわかっていても、患者も楽しみにしていたようだった。
「接続はいいな?」
「OK」
嬉しそうな声だった。
「いいか、一気にデータが流れ込むが、それを制御だとか制限しようとするな」
「考えるなってやつね」
「あぁ。行くぞ」
俺はスイッチを入れた。
「うぉ! なんだこれ?」
「どうした?」
「頭の…… 頭の後にあるのも見える」
「そういうデータを送っているからな。だが、それが見えるのは訓練したからだ」
「ちょ、ちょっと切って」
「まだ楽しめよ」
「いや、まじでちょっと切って」
俺はスイッチを切った。
「どうした?」
「スゲェ。あっちに行こうとか考える前に視点が動き出してて…… 酔いそうだ」
「酔いそうか。慣れるまではそうかもな。だけどな、考える前にってのは違うぞ」
「あぁ…… 考えてないけど、考えた結果としてそっちに行こうって決めたってことか」
「そのとおり」
俺はポケットからリモコンを取り出した。
「しばらく自分で慣れてみろ。それでオン/オフできるから」
患者は受け取りながら訊ねた。
「もっと高度なのは?」
「プログラムしてある。おまえの反応を見ながら、電脳の中に行けるくらいはな」
「そうか」
「あとは、ここで慣れるだけだ」
患者は俺の顔を見た。
「なぁ、あんた。誰なんだ? あんたもこれくらいのことができるのか?」
俺は首を振った。
「おまえにどれくらいのことができるのかは知らん。先生に呼ばれてたまたま来たテクニシャンだよ」
「そうとも思えないが…… あの先生、オムニスだとブルーなんとかって名乗ってただろ?」
「そうなのか?」
「あぁ。それで代替わりして、先生の弟子の筆頭がブルー・スカイって奴らしい」
弟子に代替わりねぇ。尾びれってのはつくもんだ。そんな名前は、医者が訓練用に適当につけたコードでしかない。それとも、いきがってたころにそんな名前を残した俺がまずかったのか。
「俺もさ、なんかわかるような名前使うから。あっちで見掛けたら声かけてくれよ」
「見掛けるもなにもなぁ……」
「あんたの弟子ってことでいいんだよな? あんたの名前はわかんねーから、ブルーかスカイか関係の名前にしとくからさ」
「好きにすればいいさ。だけど俺はあんたみたいにやんちゃじゃないからな。あっちってのに行きゃしないさ」
そう言って、俺は病室を出た。