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TETSU: 2053  作者: 宮沢弘
第二章: アキラ; テック・シーフ
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2: 回路誘導

 手術自体は、後頭部を一片1インチの四角に開頭し、そこに炭素基体微細回路素子を置き、閉じる。そういう簡単なものだった。

 一週間後から、回路誘導が始まった。

 回路誘導は単調な施術だ。視覚、聴覚、そしてその他に刺激を与えながら、経頭蓋磁気刺激法で炭素基体微細回路素子に刺激を与える。両方の刺激により、炭素基体微細回路素子は適切に端子を伸ばす。

 抜け道のない階段の壁の奥で、診察室の下で、医者はそういう施術を行なっていた。

 こちらも、予定よりは長くかかったものの、設備の確認と移設が終り、あとはのんびりとその施術を眺めていた。まぁ、一本だけ線を新設し、そこを通して外部との接続を確立し、自前の端末で遊んだりもしていたが。あぁ、この線はあとで切っておかないとな。

 刺激は、視覚に限れば白黒のランダムに見えるドットの並んだ平面から始まった。大きめのドットから小さいドットへ。また、白黒からカラーへと刺激は変っていった。そのあとは様々な抽象画、まぁ抽象画に見えるもの。そして仕上げは人物と、さまざななもの、そして風景写真だった。聴覚の刺激も、似たようなもののはずだった。体については、数本の針で体中をつつくことが重ねられた。

 そういう単調な回路誘導の施術が三ヶ月続いた。俺はといえば、ただそれを眺めているのにも飽き、配備した物品も、そしてソフトウェアも、追加の更新を始めていた。

 回路誘導の施術が終るころ、医者は思いもしなかった質問をしてきた。診察室で椅子に座り、テーブルを挟んで俺も座っていた。テーブルにはお茶と茶菓子があった。

「テツ、お前がダイブして周囲を見回したとしよう。おそらくだが、目で見ているというよりも、全周のすべてが同時に見えて、認識し、理解できているんじゃないか?」

「あぁ、まぁそうだな」

「言葉を使うにしても、実際にはいらない。それに自分の手を動かすように外部接続の機器を動かせるんじゃないか?」

「その答えも、まぁそうだな、だな」

 医者はうなずいた。

「いいか、テツ、よく聞いてくれ。それは炭素基体微細回路素子の動作の第一モードなんだ」

「第一モードね。第二モードってのも聞いたとことはあるな」

「そうだな。第二だと、目が向いている方向しか見えない。それから、操作はメニュー形式に近い。視野にキーボードが現われたり、マウスやジェスチャでの動作に近い場合もあるが」

 俺は思った。

「あぁ、そうとう昔のゲームみたいなもんだとは思ってたが」

「みたいじゃないな。そのまんまだ。そもそもが自発的に第二モードに移行するってのは、脳か炭素基体微細回路素子、それか周囲のデバイスに問題が起きた場合なんだ」

「その移行のことは聞いたことがないな」

「そうあるもんじゃない。それに、炭素基体微細回路素子の埋込みを希望する場合、あんがい第二モードでの動作を希望しているんだ。特別な指定がないかぎり、俺は第二モードで動作するように埋め込んでいる。施術を受ける側にすれば、第二モードっていう言葉は知らないけどな。お前みたいにダイバー志向の連中だけが埋め込んでいるわけじゃない。なら第二モードで充分なんだ」

「なるほどね」

 医者はそこでテーブルの上のお茶を取り飲んだ。

「仮に第一・五モードと呼ばれているのもあるにはあるが」

「それは?」

「オムニスでの操作感にかなり近いものだ。だがそれは炭素基体微細回路素子に本来定義されている動作モードじゃぁない。第一モードと第二モードは安定したモードだ。対して第一・五モードは不安定なモードだ。問題はここだな。第一・五モードで一見安定しているように動作させるには……」

「薬が必要か……」

「それも、正規の分量より多くな」

 今度は俺がお茶を飲んだ。

「そのモードのことは聞いたことがないな」

「そりゃそうだ。第一モードを知らなければ、それがあたりまえだ。第一モードを知ってる奴は、それがあたりまえだ。そして、お前らはそんな細かいところまでわざわざ話さないだろ? 言うなら、量産型はこの第一・五モードを使っていると思えばいい」

 俺はすこし考えた。

「なんでそんな危険なモードで使うんだ?」

「いい質問だな。一つには第一モードで動作させるには時間がかかる。まぁ、金もな。そしてこっちの方の理由が大きいんだが…… 実際の第一モードでの動作がどんなものなのかを知ってる奴は多くはない。だいたいオムニスの環境を想像しているし、それくらいに実現できれば、そこが到達点だと思っている」

 小さな疑問がわいた。

「なら、あんたはなぜ第一モードのことを知っているんだ?」

 医者は弱々しく笑みを浮かべた。

「もう機能していないが。私も体験者だからだ。お前が持っている炭素基体微細回路素子にくらべれば、最初からおそまつな機能のものだったが」

「それが、あんたがどうせなら第一モードにこだわる理由か?」

 医者は目を広げていた。

「施術は第二モードでの埋込みを基本としてるが。できれば第一モードでの機能を実現させたい。あぁ、そうかもしれない。あぁ、たぶんそうだ」

「それで、今の患者はどうするんだ? やりようによっては、まだ第一・五モードでの動作にも抑えられるんだろ?」

「それは考えたことはなかったが。第一モードで動作するように訓練してくれ」

「できればいいがな」

「なに、できるさ」

 そう言って二人ともまたお茶を飲んだ。


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