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TETSU: 2053  作者: 宮沢弘
第二章: アキラ; テック・シーフ
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1: テック・シーフ

 医者の設備の移動と変更を始めて一週間ほどたった。今後のプランの検討のため、制御室にこもっていた日のことだった。医者に客が来た。どちらかと言えば、珍しい部類の客だ。

「何ヶ月か入院してもらうことになるぞ」

「覚悟しています」

「君の年でこれだけの金を用意できたということは…… 何をやった?」

 医者と客の会話に注意が向いた。

「いや、君みたいな例がないわけじゃない。聞いてもしょうがないか」

 そう言い、医者は笑った。右の口角を上げ、顔を歪めた。は、どうせ俺のことでも考えているんだろう。先生よ、言っといたが俺が用意した金はまっさらな金だったぞ。信じているかどうかはしらないが、言ったとおりまっさらな遺産だった。つまらないことでダイバーとしての足がつくのも馬鹿げてるだろう?

「もう一度確認するが、手術はすぐに済む。だが、そのあとの炭素基体微細回路素子の回路の誘導に三ヶ月、誘導後の訓練に二ヶ月かかる。そして、その間、ちょっと知り合いをとおして、君には消えてもらう」

 施術場所の隠匿と、施術の素性の隠匿。俺のときは酷いもんだった。飲み屋で「ガキはミルクでも飲んでな」というありきたりな因縁から、意識が飛びそうになるまで殴られた。「ガキにゃ早ぇな」と笑いながら肩に担がれ、「うっちゃってくらぁ」とそいつは大声で言った。そして、「何ヶ月、姿を消してもらうぞ」という小声の言葉も。今、考えると大雑把にもほどがある。あれで二週間くらいは入院が伸びたんじゃないか?

 その後意識を失ない、気付いた時には医者の病院だった。今とは違う建物だったが。

「それとな、訓練については、優秀な助手にやってもらう」

 いつ雇ったんだか。おいおいおいおいおい、ちょっと待てよ。まさか俺のことを言ってるんじゃないだろうな。

「まぁ、その内にこっちの関係者が接触する。それまではこの街でできるだけ普段どおりに生活していてくれ」

「今、ここで入院じゃないんですか?」

「こっちの準備もあるんだ。来てもらったから、はいそうですかってわけにはいかない」

「そうなんですか」

 客にはすこしばかり落胆が見えた。

「それじゃぁ、帰った帰った」

 医者は客を追い出しにかかっていた。

 客が帰ったのを確認し、また客がおかしな玩具を残していないことも確認してから、俺は制御室から医者の診察室へと入った。

「先生よ、いつ訓練の助手を雇ったんだ?」

 医者は微笑んだ。

「正確には、そのための助手を雇ったわけじゃないな」

 俺は溜息をつき、首を横に振った。

「つまり、俺か?」

「他に誰がいる?」

「あんただってできるだろ? それにこういう客が押し寄せてるわけでもない」

 医者は右手を顎に当てた。

「実を言うとな、お前には偉そうなことを言って訓練をしたが、俺自身はその感覚なんかを詳しくわかっているわけじゃないんだ」

「だとしても、うまく動いてるぞ」

 俺は自分の頭を人差し指でつついた。

「それに、うまくいってるのは俺だけじゃないんだろ?」

「あぁ、」

 医者はうなずいた。

「それはそのとおりなんだが。もっとましな助言ができるんじゃないかと思ってね」

 医者による訓練の様子を思い出した。

「いや、それもどうかな。怪しいもんだと思うが」

 医者から受けた訓練を反芻し、俺だったらどうするかという点を洗い出してはみたが、結局はここをという点は見当らなかった。まぁ医者の説明よりはましにはできるだろうが、その程度だ。

「それでだ、先生。さっきの客は、ただの客だと思うか?」

 医者はまた顎に右手をあてた。

「いや、違うだろうな」

「この前の連中の指しがねか?」

「たぶんな」

「それでもやるのか?」

「聞いてただろう? 俺のやりかたに秘密なんてものはないんだ。隠すものもなにもない」

 医者は肩をすくめた。

「秘密があると思っているなら、落胆するだろうな」

「お人よしだな」

「わかってる」

 そう言って二人で笑った。


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