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TETSU: 2053  作者: 宮沢弘
第一章: ビジネス
3/9

3 交渉

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 俺はリクライニング・チェアに身を預けたまま仮眠を取った。アラートで叩き起こされることもなかった。時刻表示は10:37。寝過ぎた感はあるが、客には間に合っているはずだ。

「カメラ映像をディスプレイに。一枚に四個ずつ。五秒で入れ替え。順序、配置はまかせる。マップ上の位置の表示も」

 そこで考えた。

「銃を所持している可能性、表示枠固定、アラート」

 引っかかりすぎるだろうとは思うが。

「医者の様子と音声もディスプレイ一枚に」

 ディスプレイにはそのように表示された

 冷蔵庫から炭酸飲料の缶を一本と、冷蔵食品を一皿取り出し、電子レンジにかけた。温められた食事を取り出し、リクライニング・チェアに戻る。

 俺は懐からピルケースを取り出した。立て続けに飲んでも、五日はもつだろう。一錠を取り、炭酸飲料で飲み込んだ。続けて食事も流し込む。

 またシャワーを浴びている頃には、機器との接続が強くなるのを感じてきた。ビルからの周囲の映像も、通常の視覚と入れ替えが可能になり、またその映像の表示位置も頭に近付けたり遠ざけたりが自由になった。銃器を選べば、それは俺の目になり、また腕になった。頭の周りに映し出せる映像、あるいはイメージの数も桁が上がった。

 そうして、またリクライライニング・チェアで様子を見ていると、やっと表向きの客がやって来た。ディスプレイを見るが、このビルへの脇道の前につっ立ている何人かだけに一まとめにアラートが出ているのと、部屋の中、入口近くのガタイの良いのにアラートが出ているだけだった。

 客が誰なのか。ビルに入った時の映像から手繰る。ダイブに使う薬を仕切っている製薬会社の部長クラスの女だった。スーツを着込み、隙のない印象を作っている。

「だが、まぁ使いっぱだろうな」

 話を聞いていると、テーブルを挟んで、医者の待遇、報酬、そういうことを話していた。つまりはビジネスだ。

「あんたがたは、手抜き手術の方が薬も売れていいのかもしれんがね。7年で潰れる奴と3年で潰れる奴、結局どっちが儲けさせてくれるってんだ?」

「儲けなら、7年でしょうね。だけど、そういう話じゃないのよ。どういう形にしても、また戦争や紛争が起こる。そうなれば量産が必要という話。あるいは、備えとして量産が必要という話」

「俺のやり方は量産には向かないと思うがね」

「でしょうね。だけど、本当に3年で潰れるようじゃ困るわ。あなたの対象で最長は何年? 5年? いえ、もうすこし長いんでしょう? 7年で潰れる奴って言ったわね。そのあたりなのかしら」

「まぁ近いか」

 観察しながらそう思った。

「そこまではいかなくても、そうね、5年はもたせたいのよ。そのためにはあなたの施術全体の記録と分析をしたいの」

「だったら、俺は必要ないね。俺は教科書どおりにやっているだけだからな。あんたんとこの医者に、もう一回教科書を読めって言っといてくれよ」

「教科書どおりにやって、教科書どおりの結果が出るなら、ここには来ないわ」

「本当かねぇ? 一人の施術に結局どれだけの時間をかけてる? あんたんとこの医者は、まぁ藪じゃなかろうから…… そうだな、おおかた三ヶ月ってとこじゃないか?」

「えぇ、そうよ。教科書どおりに三ヶ月」

「全部で三ヶ月?」

「そうよ、教科書どおりにね」

 医者は声をあげて笑った。

「あぁ、そうだな。わざわざ来ていただいたお礼に、俺の腕が良いって言われてる理由を教えるよ。あんたらは、その三ヶ月にリハビリと訓練まで含めているんだろう? それじゃぁ駄目だ。埋込み後の三ヶ月は、回路誘導に使わないとな」

 そこで医者は椅子から立ち、ホワイトボードに向かった。

「あんたんとこの残存率はどんくらいだ? 年に0.8としようか。まぁ、言っちゃぁなんだが、あんたがたに対しての見積りにしてはいい方だろう?」

 そこで医者は計算を始めた。

「10人に施術したとしよう。ふん。三年後残存5.1人。じゃぁ、残存率を0.9としようか」

 医者は計算を続けた。

「残存7.3人」

 医者は客に振り向いた。

「ま、うちじゃぁ残存率はもうちっと高いがね。0.95ってとこだ。三年後残存、8.6人ってとこかな」

 テーブルに戻りながら医者は続けた。

「そうでしょうね。だからあなたの技術が欲しいのよ」

「わからない人だな。そんなものはないんだ。教科書どおり。それだけだ」

「つまり技術を私たちと共有するつもりはないのね?」

「共有? してるさ。言ってるだろ? 俺はただ教科書どおりだって」

 客はテーブルから立った。

「残念ね。良い話だと思ったのだけれど」

「悪かったね。教えられることは何もないんだ」

 客はそのまま医者のところから出て行った。

「差分映像。客が来る前、帰った後。入口内部、外部、階段、外部ドア内側、外側」

 客が帰った後には、階段の上近くに何かが投げ捨てられていた。

 俺はその映像を手前に引き寄せた。

「電波、音響探査」

 しばらく返答はなかった。

「不明」

 やっと返って来た答えはそういうものだった。

「未確認発信源β、マーク」

「記録」

 エコーのようにそのメッセージが現われた。

「まぁ振動か音だろうけどな」

 それからまたしばらく、頼まれごととは関係のなさそうな来客が続いた。


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