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Monologue-08 This Is a Story For Confess a Girl's Guilt

 サラリスとレーシアはヤルセク王国を目指したが、その道程は順調とは言い難かった。

 そもそもが子どもの二人旅である。順調に進む訳も無い。



 そして、サラリスが最も気を張って臨んだことが、定期的に行わなければならない、旅の進捗具合の報告だった。


 宝士が数人、常に二人を見守っているはずで、特に報告の必要もないはずではあったが、どうやらあの人は、サラリスの言葉で報告を聞きたいらしかった。

 宝士からそのように伝えられてしまえば、レーシアが寝入った後の夜遅くに、数日に一度の割合で宝士たちに起こされることも苦ではない。


 野宿していようが宿に泊まっていようが、親切な誰かの家に泊めてもらっていようがお構いなしで、その報告は淡々と進む。

 報告を聞くために、宝士たちがいつの間にか誰にも気付かれずにサラリスの枕元に立っている、そのことを不思議に思うこともない。

 サラリスにとって、宝士というものはそういう存在だった。


 掴みどころのない、あの人の手足。


 宝士たちは徹底してレーシアを避けており、時々悪夢を見るらしきレーシアが魘される度、サラリスがレーシアを起こしてやる前に素早く退出した。

 あの人のことや宝国のこと、サラリスが今まで何をして暮らしていたのかを、決してレーシアに言ってはならないと、毎回のように口止めもされる。



 そして、サラリスとレーシアがヤルセク王国に到着することはなかった。


 眠い目を擦りながら行う、十数回目の報告において、サラリスにあの人の言葉が届けられたのだ。






「レーシア、ちょっと頼まれ事があるの。今まで進んでた方と別の方に進むけれど、いい?」


 朝一番に掛けられたサラリスの言葉に、寝台の上で眠たげに目を擦っていたレーシアはぽかんと顔を上げ、しばらく何事か考えると、首を傾げてへらっと笑った。


「サラリスといっしょ?」


 自信を持ってサラリスは頷いた。この小さな女の子の傍から離れる気は毛頭なかったのである。


「もちろんよ」

「じゃあいい」


 レーシアは、たとえこれからサラリスが火の中に突っ込んで行こうが、躊躇いなく付いて来そうな程の迷いの無さで頷いた。


 サラリスはまだ幼い顔を顰め、レーシアの隣に座るとぽそりと言った。


「ごめんねぇ。行かない方が、いいと思うんだけど」


 レーシアはよく分かっていない顔で首を捻り、サラリスの腕にぎゅっとしがみ付いた。


「サラリスといっしょ、怖いことない。サラリスといっしょ、だいじょうぶ」


 サラリスは空いている方の手でレーシアの頭を撫でてやりながら、隠し通せない不安の滲んだ声で呟いた。


「そうだといいんだけど……」


「サラリス?」


 レーシアの大きな薄青い目がサラリスを覗き込み、不安そうに揺れた。


「サラリス、こわい顔。怒ってる? ごめんなさい」


「違う。怒ってない」


 サラリスは慌ててそう言って、レーシアの腕の中から自分の腕を奪還すると、そのままレーシアの頬を両側に引っ張った。


「ふぇ? ひゃらりひゅ?」


 目を瞬かせて、呂律の回らない言葉を発するレーシアを笑って、ぎゅっとその小さな身体を抱き締める。レーシアも嬉しそうに抱き付き返してきて、そのぬくもりがただ愛おしい。


「だいじょうぶ、大丈夫よ。わたしがレーシアを守るんだから」


 そう言いながらも、しかし今回は、サラリスの守護が及ばない可能性の大きさを彼女は弁えていた。


(あれ、すっごく辛いから……)


 あの人の伝言。逆らう訳にはいかない言葉。


 それは、レーシアに封具の〈糸〉を繋ぐ決定を伝えるものだったのだ。





○○○○○○○○○○○○





 結果を言えば、サラリスの心配は杞憂に終わった。



 あの人がレーシアに繋がせたい封具はセゼレラの首都レンヴェルトにあった。レンヴェルト郊外の洞窟の中である。


 こんな近くに封具があるのなら、どうして自分は遥々アルナー山脈にまで行かされたのだ、と思わないこともなかったが、あの人のやることに間違いがあるはずもないので、サラリスは特にその思いを口に出すこともなかった。


 レンヴェルトにある封具を指定したというのに、あの人は、レーシアにセゼレラのことを教えたくはないと言う。

 そこで、セゼレラに到着する時間を夜になるように調整し、まだ辺りの光景も分からない闇の中で、レーシアを連れたサラリスは人目を忍ぶようにしてあの人の国に戻って来た。



 国境を越えてすぐ、用意されていた馬車に乗り込み、垂れ流しの魔力のせいですぐにどこかに転がって行くレーシアを抱えながらレンヴェルトを目指す。言うまでもなく、御者は宝士が務めていたが、フードを目深に被って人相は分からない。もっと言えば、レーシアはすやすやと眠っていて、自分が現在どこにいるか、欠片も気にした風は無かった。


 幼い彼女が眠っている間に、宝士から、レーシアが〈糸〉を繋ぐ封具は他の封具とは訳が違う程に強い封具だと念押しされ、いざ洞窟に入ると、念のためにサラリスが宝具を呼び出しながらレーシアの傍で待機するように指示される。

 実際に洞窟に入るのは、サラリスとレーシアの二人だけだ。


(真っ直ぐ進んで一番奥、真っ直ぐ進んで一番奥……)


 灯りと、砕いた宝樹玉を包んだ薬包紙、そして水の入った皮袋を手に、レーシアを連れて「真っ直ぐ進んで一番奥」と聞かされていた場所まで進んだサラリスは、従順にその指示に従って、〈動〉の宝具のための歌を詠い始めた。

 確かにそこにある封具は強いらしく、呼び出す傍から宝具の力が相殺されていくのが分かる。



「――大刀(たち)手上(たがみ)丹画(にか)()

 緒に赤幡戴(あかはたかざ)

 赤幡立てて見ゆればい隠る山の峰

 けざやかに(はし)る風の色

 今し悔やむは帰らむを

 留みかねける()のことか

 (あか)れてとどろに(とどろ)めく

 懸想(けさう)ず心地の憂かれかりけれ――」



 どきどきする。レーシアが、かつての自分のように苦しむことになるのかと思うと、きりきりと胸が痛んだ。

 そんなことも知らぬげに、レーシアはサラリスが歌うのに合わせて身体を揺らしている。


 洞窟の奥、水の滴る音のする闇の中に、サラリスの持つ灯器の明かりを頼りに、身体を揺らしながら立つレーシアは、初めて見るごつごつとした岩壁や、岩壁を流れる水に興味を持った様子できょろきょろとしていた。

 足下は固い土で、言うまでもなく非常に不安定であり、レーシアが転びはしないかと、サラリスはそちらについても心配せねばならなかった。


「レーシア、ゆっくり歩いて。その辺をぐるっと回ってくれる?」


 一旦歌を打ち切ってそう言ったサラリスの指示に従い、とてとてと歩いたレーシアが、奥の岩壁の傍にまで進む。まさにそのとき、唐突にその足下が白く光った。


(――封具!)


 レーシアはぎょっとしたらしくそこから飛び退き、怯えた様子でぱたぱたとサラリスの傍にまで戻って来た。


「サラリスぅ、サラリス、なんか変なの」


「大丈夫よ」


 サラリスは宥める声音で言った。


「あの傍に行ってちょうだい」


 レーシアはサラリスを、助けを求めるようにじっと見た。


「……あれの?」


 心は痛んだが、あの人の言葉に背く訳にもいかない。サラリスはきゅっと唇を結んで頷いた。


「ええ。あの傍に」


「サラリスも?」


「いいえ。わたしはここにいる」


 レーシアが泣き出す寸前の顔になったため、サラリスは慌てて言葉を継いだ。


「何かあったらすぐに行くわ。ずっと見てるから、レーシアは一人じゃないわ」


 ことり、と首を傾げたレーシアは、幼い顔に心細そうな表情を浮かべた。しかしそうしながらも、サラリスを見上げて恐る恐る訊く。


「だいじょうぶ?」


「大丈夫よ」


 サラリスの二度に亘るその言葉を信じたのか、それとも言うことを聞かなければならないと思ったのか。レーシアは頷いて、固い土を踏みしめながら白光の傍へとそろそろと近付いた。


 そういえば今回は、空人も雷兵も騒いで付いて来たりしないんだな、とサラリスはぼんやりと考え、すぐに思考をレーシアに戻した。

 今、重要なのはレーシアのことだ。


 レーシアは白光の上に立ち、真下から照らされて天使のような雰囲気を纏いつつ、めいっぱいの混乱を籠めてサラリスを見ていた。サラリスはなんとか笑みを浮かべると、身振りを交えながら言った。


「〈糸〉を繋ぎたい、と言って」


「いと……?」


 レーシアはきょとんと首を傾げたが、極めて従順にサラリスの言葉を繰り返した。


「〈いと〉つなぎたい」


 その瞬間、レーシアの足下から白光が爆発的な勢いで噴き上がった。

 レーシアは身が竦んだらしく硬直して動かず、サラリスもまた、身動きもままならない程の迫力をその光の束に感じ取った。


 虹色を宿しながら煌めく真白い光の奔流。レーシアを呑み込み、その姿を隠して頭上の岩にぶつかり、四散してはまた煌めいて渦を巻く。

 洞窟内が明るく照らし出され、乱舞する光に影が目まぐるしく踊る。


 その光に、その流れに、強い感情すらも感じ取られた。


 歓喜。感謝。安堵。満足。親しみ。愛しみ。どれも涙の気配がする程に深い。

 言葉が出ない。圧倒的な感情の渦でありながら、どこまでも冷たい、どこまでも乾いた、どこまでも硬く凝り固まったような――


「サラリス! サラリス!」


 レーシアの悲鳴が耳を劈き、サラリスはようやっと我に返った。


「――歌を……」


 呟き、小さく息を吸い込むと声を張り上げる。


「思い浮かぶ通りに歌を詠って!」


 一瞬の沈黙。

 続いて、レーシアが息を吸い込む微かな気配。


 そして、サラリスの耳がこの世の奇跡を捉えた。





 それこそ涙が出るほど美しい声でレーシアが歌っているというのに、サラリスは別のことで頭がいっぱいだった。


(あれはとっても辛いから……)


 この歌を詠い終えたレーシアがどれだけ苦しむかということを想像して、サラリスは鋭い痛みを胸に覚えた。

 その苦しみを肩代わりしてやれないことが、その苦しみを味わわせなければならないということが、息すら憚る程の痛みをもたらすのだ。



 そんな悲壮なまでの気持ちでいたというのに、レーシアの反応は予想を遥かに置き去りにした。

 幼いながらも滅多にない綺麗な声で歌を詠ったレーシアは、周囲の白光が収まると同時に、先程までの怯えようはどこへやら、全くもって上機嫌な様子でサラリスを振り返ったのである。


「サラリス! できた? おやくだち?」


 闇に沈み行く洞窟の中に幼子の高い声が反響し、しかし声の質がいいのか耳障りではない。

 サラリスは思わず、唖然と目を見開いてレーシアを見た。


(ど――どういうこと……?)


 これまでに四回、サラリスは〈糸〉を繋いだ。

 そして四回、侵略する他人の記憶に苦しんだ。


 それが一体どうしたことだ。レーシアのこの、清々しいまでの混乱のなさは一体。


 口を半開きにして目を見開くサラリスに、レーシアはたちまち表情を曇らせた。


「だめだった……?」


 その言葉にはっと我に返って、サラリスはぎくしゃくと首を振った。


「だ、だめじゃないわ。だめじゃない。

 ――すごく綺麗な声だったから、それでびっくりしただけよ」


 サラリスのその言葉に、レーシアの顔が明るく輝いた。


「ほんとー!?」


「本当本当」


 頷いて繰り返しながら、サラリスはレーシアの傍に駆け寄って、砕いた宝樹玉の包みと水を入れた皮袋を彼女に向かって差し出した。


「飲んで」

「うんっ」


 笑顔で頷いたレーシアは、しかしすぐに余りの不味さに泣き出すこととなった。それを、宥めすかして宝樹玉を飲み下させる。


「まずい……まずいよ」


「飲まなきゃ大変よ。すごく大変よ」


 ぼろぼろと泣きながら宝樹玉の粉を飲み下したレーシアが、今度は洞窟に飽きてぐずり始めた。

 レーシアに薬包紙と水の皮袋を持たせたサラリスは、左手に灯りを持って、右手でレーシアと手を繋ぐ。


「外に出ましょ」

「おそと!」


 レーシアがぎゅっとサラリスに身を寄せて、頬に残る涙も他所ににこにこと笑った。





○○○○○○○○○○○○





 レーシアは〈糸〉を繋いでも苦しまずに済むのではないか、と思ったサラリスは、レンヴェルトの封具と対を成す〈動〉の宝具の〈糸〉をレーシアに繋がせるときは、かなり気楽な気持ちでいた。



 しかしそれを覆すが如く、〈糸〉を繋いだレーシアに、宝具に残る記憶は牙を剥いた。






「どうして! こんなの聞いてない!」


 サラリスはその生涯で初めて宝士に向かって怒鳴り散らしていた。感情が昂って声が裏返り、真っ赤になった頬を涙の粒が滑っていく。


「わたしが繋いだ宝具も封具も、一人分の思い出しか持って来なかったもの! おかしい――おかしいッ!」


 場所はレンヴェルトより少し西に位置する、小さな村だった。この村の地下に宝具はあり、そしてそれと〈糸〉を繋いだレーシアは、一声も発することなく昏倒したのだ。


 時折漏らすうわ言から、彼女が複数の記憶を見ていることは、まだ幼いサラリスにとっても容易に分かることだった。


 村人たちは皆、予めどこかに移動させられていて、サラリスとレーシアは二人でこの村までやって来た。

 そしてレーシアが昏倒すると同時に現われた宝士たちに、今サラリスが声を荒らげているのである。


 宝士たちによってレーシアは民家へ運び込まれ、寝台に寝かされている。汗を滲ませてうわ言を漏らすその様子に、サラリスはぼろぼろと涙を落とした。


「騙したッ! レーシアが、レーシアがかわいそう! なんでこんなことさせたのッ!」


「…………」


「なんで言ってくれなかったの!? ばかぁ……ばかぁっ!」


 激しくしゃくり上げ始めたサラリスにも一切表情を動かさず、彼女の前に並ぶ宝士たちが、全く同時に背後――家の入り口を振り返り、同じ動きで膝を折った。


「――主上」


 サラリスはしゃくり上げながらも、はっとして顔を上げ、戸口を見た。

 そこに立つ姿に、サラリスの緑色の目が新たな涙に覆われる。


「ぜ――っゼティスさまぁ!」


 束ねるにはやや短い長さまで、無造作に伸ばされた黒い髪。豪奢ではないが清潔で上品な、裾を引き摺る長いローブ。

 彼の褐色の目がレーシアを見て、それからサラリスに向けられた。


「やあ、サラリス」


 いつも通りの声音の挨拶に、サラリスは堪らず彼に向かって駆け出した。


「ゼティスさま!」


 叫んで飛び付くと、彼は軽々とサラリスを抱き留め、抱き上げた。そのまま腕に抱えて微笑む。


「女の子がそんな大きな声を出すものじゃないよ」


 窘める響きの声に、サラリスは掌で涙を拭いながら声を詰まらせた。


「だって……っ、だってぇ……っ」


「サラリス、落ち着きなさい」


 抱えたサラリスを軽く揺らして、彼は苦笑した。


「レーシアは大丈夫だよ。しばらく混乱するかも知れないが、きみのときと同じだ。全く問題はない」


「…………」


 俯いたサラリスを見て、彼は傷付いたような顔をする。

 お道化た雰囲気を纏っていながらも、やはりどこか遠くを見るような目をしていて、そして儚げでさえある様子で。


「私のことが信じられない?」


 のろのろとサラリスは首を振った。


「安心していいよ。レーシアは私にとってもとても大切な子だ。傷付けるはずがあるものか」


 そう言いながら、彼はサラリスを抱えたままで、レーシアの眠る寝台に歩み寄った。

 魘され続けるレーシアに、目を覚ます様子はない。


 寝台に軽く腰掛けた彼は、サラリスを自分の隣に下ろして座らせた。レーシアの足側に置かれたサラリスは、彼の影から魘されるレーシアを俯き加減に見遣る。


 すい、と手を伸ばした彼が、手の甲で軽くレーシアの額に触れ、前髪を払った。


 彼がレーシアに注ぐ眼差しは、サラリスに向ける眼差しとは明らかに違う。遠くを見るような、儚げなものではなく――もっとずっとはっきりとしたもので、貴重な宝石を誇るようなそんな眼差しで――。


「……これは」


 あの人がふと、驚き切った声を落とした。サラリスが身を乗り出して彼の横顔を見上げると、彼は珍しく、困惑して打つ手に迷うような、そんな顔をしていた。


「……どうしたの……?」


 恐る恐る尋ねると、はっと表情を改めた彼が、いつもの――遠くを見る眼差しに笑顔を載せてサラリスを振り返った。


「――なんでもないよ、サラリス」


「でも」


 言い募る気配を見せたサラリスに向き直って、彼はやや難しげな顔をした。


「そうだね――なんでもない、ということはなかったね」


 言いながら、彼はサラリスの両手を取って、それを自身の両手で一つに纏めて包み込んだ。


「どう言えばいいかな。――ある人が、私のために、とある仕掛けを作ってくれたことがあってね。私が困った目に遭わないようにと」


 サラリスはこくんと頷いた。そのサラリスの手を包んだ自らの両手を、彼がゆっくりと解く。


「その仕掛けを、こんな風に――レーシアが解いてしまうかも知れないと、ふと思ってね」


「どうしてですか?」


 首を傾げるサラリス。彼は唇に苦笑を刻んだ。


「レーシアが私の期待以上に育ちそうだから、だろうか。私と――その人が作ってくれた仕掛けは、非常に近しいものなんだ。だから、今どんな状態なのかが分かる」


 説明しているつもりの彼には悪いが、サラリスにとってはちんぷんかんぷんの話だった。それでも、彼に馬鹿だと思われるのは嫌だったので、分かったような顔をして頷いておく。



「さて、それでは行こうかな」


 彼が立ち上がりながら伸びをしてそう言い、サラリスは慌てて寝台から飛び降りた。


「もう行っちゃうんですか?」


 うん、と頷いて、彼はサラリスの頭を撫でた。


「きみが泣いていると聞いて、きみのために来ただけだから」


「――――!」


「もう泣き止んだサラリスは、強い、いい子だ。

 ――これからも、きみに、とても期待しているよ」


 胸がいっぱいになったサラリスは、新たに込み上げてきた涙を必死に飲み下しながら、大きく頷いた。


「はい!」





○○○○○○○○○○○○





 目が覚めたレーシアの混乱が収まるまで、一月の間その村に滞在した。


 その間、その村に本来の住民が戻って来ることはなかった。



 一月後にその村を出て、しばらく歩いたところで振り返ったとき、ちょうど戻って行く人たちの行列が見えたから、誰もいない村ではなかったのだと分かった。





 こうして、レーシアが封具と、それと対を成す〈動〉の宝具と〈糸〉を繋いだ。


 それが、後の大災厄の引き金となる。


















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