12−2: 侵攻 1−2
私は船に、送られてきたものの探査を頼んだ。エズラとローガにも。
「これは何なんだろうな…… ご丁寧に中身を推測できるように保護されている」
エズラが探査の結果を見ながら言った。テランの探査結果とヴェールコール人の探査結果が頭の中に流れ込んでくる。こちらの船の探査結果も両方に回している。
「対処できるかどうかのテストなんだろう」
ローガは言ったが、探査結果を見る限りそう気軽なものでもない。ローガ自身もそれは感じている。
「かなり高エネルギーの何かだが」
エズラはサイバー・スペースにいくつものウィンドウを配置し、組み合わせ、計算をしていた。
「γ線バーストでも起こすのか?」
エズラに訊ねた。
「いや、これは…… そんな生易しいものじゃなさそうだ」
確かにこちらの船の探査結果も非常事態への懸念を示していた。
「この保護が外れたら、ヒッグス場の相転移が起こりかねないな」
エズラは数式とモデル図を引出し、続けた。
「ここでヒッグス場のより低い安定状態への相転移が起これば、その際に放出されるエネルギーが近隣のヒッグス場に影響を与える。連鎖的にこの宇宙全体のヒッグス場の相転移が起こるな。物理法則が書き変わるぞ」
この星系を中心とした相転移のモデルがエズラから回された。
「私たちは、エランもヴェールコール人も、他の種族もFTLを実用化しているから、銀河の反対側まで逃げることもできないわけじゃないが。数万年はそれで生き延びることができるだろう」
「γ-1の住人は?」
ローガが心なしか震える声で訊ねた。
「…… それだけの設備はないな」
私はそう答えるしかなかった。私たちにできることと言えば……
「転移窓は? 転移窓で封じ込められないか?」
「そうだな」
エズラは数種類の多面体を表示した。そのうちの一つを指差した。
「使えそうなのはケルビン14面体か。六角形の転移窓できれいに包むのは無理だからな」
「それでいこう。多重に配置すればできるだろう」
ローガはケルビン14面体をいくつも重ねあわせ、空間を密封できる配置を示した。
「それだと転移窓が重なる部分がでるが。それでも転移窓は機能するのか?」
これまで平面の配置しか行なったことはない。それに転移窓が重なる配置も試したことはない。
「他の方法はないな。モニュメントがある場合以外、あちらへの窓が開いた例はない。これをあちらの宇宙に押し返す方法がないのだから、転移窓で密封し、その中で転移させ続けるしかないだろう」
ローガの声には、まだ震えがあった。あるいは驚きか、それともやっと芽生えた教えをもたらした者への不信だろうか。
α隊のテラン、エラン、ヴェールコール人は、必要な結晶を生成し、仮に転移スフィアと呼ぶものを構築する準備に入った。ただ、テランの一部を残して。
「他の種族も何か方法を思い着いてくれればいいが。ともかくこちらが取る方法を送っておこう」
ローガは静かに言った。教えをもたらした者に対して実際にどう感じているのかはわからない。強い自制か、それとも接続からその部分を外したのか。
「エラン-テランの評議会にも連絡しておこう。α、β、ρ、σ、τ、そしてナブロスの各星系の転移窓でも現われているかもしれない。他の種族にも、探査済み星系への対処を」
大探査が処理を大規模なものにしてしまっている。
「それもこちらから一緒に送ろう」
ローガが応えた。
「一つでもやりそこねると、150億年もあればこの宇宙は終るぞ。この銀河だけでなく」
もし、見つけていないモニュメントと結晶があったら、あるいは教えをもたらした者が残していった転移窓があったら、この宇宙は寿命を待たずに終る。
「それは、皮肉に聞こえるかもしれないが、他の種族を信用しよう。もし見付けていない転移窓があったとしたら…… それは誰の責任でもない。少なくとも、今、こっちの宇宙にいる者の誰の責任でも」
エズラもまた落ち着いて言った。
しばらくの後、エズラが言った。
「γ-1の住人がやってくるぞ。こちらの残している班が対応にあたる」
しまった。δ星系にしとけばよかった。γがかぶっちゃったよ。すみません。
あとがきの加筆(本文はいじってません):
ヒッグス場の相転移について。
書いてあるとおり(だと思う)の事を、2014年の10月だったと思いますが、ホーキングがその可能性を指摘しています。実際にどうなるのかはわかりません。言葉として書くと、水から氷になるような「相転移」という言葉を使うのがわかりやすいと考えて、そう書いています。




