11−3: 転移窓 1−3 ν隊 2−3
翌日、ンオガから連絡があった。イエンオーグからの返信が回されてきた。
ケナムが「1」と書いた石は、つまりレーザーで励起した場合には、あちらに現われていた。予想はしていたが、これはこれで疑問が現われる。こちらの降下船にも転移窓は開いていた。おそらく他にも転移窓は開いていただろう。にもかかわず、イエンオーグが見ている方の転移窓に石はなぜ現われたのか。
そしてケナムが「2」と書いた石は、つまり量子ゆらぎで励起した場合には、イエンオーグの方に現われていなかった。これも予想はしていた。転移窓の監視とルータの監視では、どこにも現われていない。もちろん、誰も、あるいは何も見ていない転移窓に現われた可能性はある。あるいは転移窓の監視をくぐり抜けた可能性も。だが、おそらくそうではないだろう。
可能性は二つある。
一つの可能性は、教えをもたらした者の母星がナブロス、イエンオーグがいる星の他にもあるというものだ。現在の種族が知っている星系の他に母星がある可能性はもちろん否定できない。今の大探査においても発見できていないどこかに。
もう一つの可能性は、励起モードがあるとして、それが現われた場所は、おそらく教えをもたらした者がいる宇宙だろう。だが、その宇宙のどこに現われたのか。
この宇宙とあちらの宇宙を繋ぐ窓としてモニュメントと結晶を残していたのだろうか。だとしたらなぜ。行き来するためだろうか。それなら、接触の痕跡がないのはなぜだろう。
あるいはモニュメント、結晶、ナノマシンに計算資源を与えるためか。その必要があるのだろうか。計算資源が必要なら、この宇宙に用意しておけばいい。他の母星がないのだとしたら、この励起モードではこの宇宙には繋がっていないと考えよう。
「ンオガ、教えをもたらした者は、なぜ知性化を行なおうとしたのだろう?」
「どういうことだ?」
共有感覚空間から応えがあった。ケナムにも繋がっている感覚がある。
「エランとテランを見てくれ」
「君たちのことはもちろん知っているが?」
「そうだ。知性体は自力で宇宙に乗り出せる」
「それはありえない」
「ンオガ、なぜそう言える。私たちがいるのに」
ケナムが割り込んできた。
「君たちは、知性化処理を受けた記録がないだけだ」
「いや、違う。昔、私たちが渡した星図から地球を探査しているな?」
ケナムが続けた。
「だが、該当しそうな星系のどこにもモニュメントはなかった」
ケナムの言葉を私が引き継いだ。
「だとしたら、自力で宇宙に乗り出せる可能性を検討する必要があるだろう」
またケナムが続けた。
「少なくとも、私たちは教えをもたらした者の影響下で宇宙に乗り出したわけではない」
私が続けた。
「そして、教えをもたらした者はどうやって宇宙に乗り出したのか」
ケナムがさらに続けた。
「それは…… 教えをもたらした者も知性化処理を受け……」
「その始点はどうなる?」
私とケナムが、アズル=ケナム、あるいはケナム=アズルとして訊ねた。ラバル=エズラ、あるいはエズラ=ラバルという接続をもたらしてしまった機能の強さを制御するための調整の後も、今、私たちはアズル=ケナムとなっていた。まだ調整が必要なのだろう。だがテランのwebとエランの脳の量子的状態との相互翻訳はまだ機能し、そしてその機能そのものは相互理解のために停止させることはできない。私とケナムが同じことを考えている。調整の問題ではなく、それだけのことかもしれない。
ンオガは黙っていた。
「どの知性体も、自力で知性化し、自力で宇宙に乗り出せただろう。もちろん、失敗する種族もあっただろう。それでも可能だったはずだ」
私とケナムの意識が翻訳の過程でチリチリと火花をあげる。
「教えをもたらしたものの目的と考えられるのは二つ」
アズル=ケナムはンオガの返答を待った。だが応えはない。
「ただ純粋に知性化を目指した」
やはりンオガは応えない。
「もう一つは、形はどうあれ競争相手を求めた」
それでもンオガは応えない。
「そして、今、銀河のここで起きていることはどっちだ?」
「いや、α-1では科学技術を手放し、τ-1では自らを隔離していた」
「だが、α-1は核を手に入れていた。τ-1もナノマシンを見つけられるほどに科学技術を発達させていた。なぜだ?」
「それは…… 従属栄養生物としての本能として」
「そうだな。β-1では多様性ゆえに必要だっただろう。私たちもβ-1とは違うが多様性ゆえにその過程を経験した。だが、β-1と私たち以外でその本能は必要か? α-1は世界を焼き尽くす可能性を見たことで科学技術を手放しているのに。君たちはどうなんだ? β-1と私たちのようにその本能を必要とする前史や歴史があったのか?」
しばらく沈黙が続いた。
「それなら、この本能はなぜ存在するんだ」
「そこだよンオガ、そこだ」
宇宙を作り出せる存在、それも物理定数を制御して作り出せる存在など、どういう存在なのだろうか。
そして、私たちは転移窓を操作できるほどに発展したことを知らせてしまったのかもしれない。
そのような存在に私たちはなにをできるだろう。




