11−2: 転移窓 1−2 ν隊 2−2
鍵はモニュメントに埋めこまれた結晶だ。だが扱いをどうしたものか。
モニュメントの結晶をレーザーによって励起する限り、どの結晶に対しても転移窓が開いてしまう。少なくとも近くにある――どういう意味で近くなのかはともかく――結晶への転移窓が。これまでに使っていた、配置された結晶に限らないのかもしれない。分子サイズの結晶へも開いてしまうのかもしれない。
船にある結晶をレーザーで励起した場合には、モニュメントの結晶への転移窓が開きもする。だが、それでは二つの転移窓が通じたのみであり、解決にはならないように思う。
結晶とブロックを使う方法もあるのかもしれないが、ハザードが発生するようでは困る。ナブロスから離れた真空中にブロックと結晶を配置することも可能だろう。だが結晶とブロック、あるいはモニュメントの接触にも理由があるのだとしたら、それは次の候補になる。
結局モニュメントの結晶だ。
最初に転移窓が開いた状況を船と評議会の記憶を確認しようと共有感覚空間を意識する。そこで新しい報告が入っていることに気付いた。イエンオーグ人が、ナブロスのモニュメントと同じものを発見していた。
「そこなんだ。何かがしっくりこない。結局ナブロスのモニュメントの転
移窓はどこに通じているのだろう?」
最初に転移窓が開いた時の記憶とイエンオーグ人の報告につられて、ラバルの記憶も湧き出してきた。もしかしたら、ラバルのミメクトームはまだ生きているのかもしれない。あるいはその残滓は。
ナブロスの結晶の最初の共振の時、それはどこに通じていたのだろう。それを確認する手段が得られたのかもしれない。転移窓が通じているにせよ、いないにせよ。
「ンオガ、モニュメントの結晶を共振させてみてくれないか?」
私は、最初の記憶とイエンオーグ人の報告をンオガとケナムに回した。ラバルの記憶もつられて流れただろうか。
「イエンオーグに連絡が必要だな。少し時間がかかる」
ンオガは穏やかに答えた。
それは翌日になった。エラン、テラン、ヴェールコール人が各々数名、それぞれのハードスーツを着て降下船から降り、モニュメントの前に立った。
ケナムは転がっている石をいくつか拾うと、ハードスーツからペンを取り出し、それぞれの石に数字を書いた。ンオガはブロックを手にしていた。
「ンオガ、それを放り込むつもりじゃないだろうな?」
私は複眼に覆われた顔をンオガに向けた。
「まぁ、必要なら最後に試してみようと思っている」
掌に乗せ、私とブロックに顔を向けた。生物的な複眼に囲まれるように機械的な単眼が配置されている。全身、金属と重合したキチン質と、金属が入り組むように構成された外骨格となっている。ヴェールコール人が使うハードスーツの一つだ。エランのハードスーツは外骨格の内部に節足動物に由来する筋肉がついており、それが着装者の動きを補助する。ンオガが着ているタイプは、同じく筋肉と、機械的な機構により補助する。このような融合は、エランとテランにとってもまだ奇妙なものに思える。ヴェールコール人はエランとテランを、両方の文明を持つ第二の種族にしたいと考えているようだ。だが、エランとテランは、両方の文明を持っているにしても、それはただ持っているだけだ。そのような融合に至るにはまだ時間がかかるだろう。
「降下船、まずレーザーで励起してくれ」
ンオガはそう言い、私たちにモニュメントの前を空けるように指示した。
結晶が光り、転移窓が開いた。
「船内の結晶はどうなっている?」
私は降下船の研究室に訊ねた。
「ブロック有り、ブロックなし、両方とも転移窓が開いている」
降下船から応えがあった。
「まったく、なぜ開くんだ」
私はそう呟いた。
「降下船の中では、ああなったが。やはりモニュメントと関係しているんだろうな」
ケナムが石をもてあそびながら答えた。
「実際、どうなのかはわからないが、ブロックの表面の浮き彫りが影響しているのかもしれない」
ンオガはそう言うと、ケナムにうなずいた。ケナムは石を一つ転移窓に放り込んだ。少なくとも表面で弾かれることはなかった。
「一旦、転移窓を閉めてくれ。それから次は量子ゆらぎで転移窓を開いてくれ」
ンオガは降下船に言った。
黒い転移窓が閉じ、モニュメントの表面の色が現われる。
ンオガはモニュメントに近づき、その表面に手を置いた。
「モニュメントの表面には見たとおり浮き彫りはない。それとももっと微細なレベルで何かあるのか?」
ンオガは降下船から転移窓が最初に開いたときの記録・記憶を呼び出した。それは私とケナムにも回された。だが、微細なレベルにおいても表面に何かがあるという記録・記憶はない。
しばらくの後、また転移窓が開いた。
「今度はどうだ?」
私はまた降下船に訊ねた。
「モニュメントにはもう開いているのか?」
降下船からの応えは意外なものだった。
「レーザーの発振モードのように、共振にも何かモードのようなものがあるのか?」
ハードスーツの中で私はまた呟いた。ハードスーツの複眼からの情報では、転移窓のありかたに違いがあるようには見えない。
「そうかもしれないな。こっちの共振の方が、いわばQが鋭いのかもしれない」
ンオガが応えた。
それを聞きながら、ケナムはまた石を放り込んだ。今度も、また弾かれることはなかった。
「とりあえず、現状ではブロックは必要なかったな」
私はンオガに言った。
「そのようだ。あとはイエンオーグの方に石が現われたかどうかを確認してからだ」




