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ForeRunner  作者: 宮沢弘
ν隊
21/26

11−1: 転移窓 1−1 ν隊 2−1

「面白そうだが……」

 研究室と船の検疫も終り、私たち自身の検査も終った。テランとヴェールコール人も自身の降下船に戻った。共有感覚空間とサイバースペースを通し、そう私は呟いた。

「どこから手をつけたものか」

「まず整理しよう」

 ンオガが言った。

「結晶は一分子、あるいは結晶になっておらず巨大分子に組み込まれていても機能する」

 先程までの実験の過程と結果を見ると、そうなのだろう。β-1とτ-1のサンプルに反応したということなら。そしてβ-1とτ-1のサンプルに似たものが合成されたということは、他の可能性は考えにくい。β-1とτ-1のサンプルはずいぶん異なる。自動的に合成されるのだとしても、まさにそれらに似たものが合成されるというのは考え難いように思う。

「そして、凖励起状態で物理の4つの力は転移窓を通る」

 ンオガは配置した結晶を提示した。

 その後、ンオガは、見えているのかいないのか、あるいは何が見えているのかはわからないが、ミーティングに参加している人々を見渡すように頭を動かした。

「ということはどういうことだ?」

 ケナムが話を急かした。

「まぁ待て。それだけから単純に考えられるのはボーズ粒子は凖励起状態で転移するということだろう」

「それはつまり?」

 やはりケナムが急かしていた。

「スピンの値か」

 私は船の記憶からフェルミ粒子とボーズ粒子の表を提示した。

「あるいは単純に窓の広さかもしれないな。ボーズ粒子なら複数の粒子が同時に一つの場所を占められる」

 ケナムはそう言うと、ンオガが提示した配置した結晶の間に六角形のメッシュを重ね、各々の六角形の中心に赤い点を示した。

「それもあるかもしれないが。それは下手をすると、その状態で物質が突っ込もうとした場合、力だけが伝わってしまい、物質は崩壊することにならないか?」

 ンオガはケナムをゆっくり見た。

 ケナムは、何やら眉をひそめている。

「それに加えて、別の宇宙を経由していないということだな」

 ンオガはそう続けた。

 一息間があいてから、ケナムがM’理論のモデルを提示した。加えて、M’理論における32次元のオムニバースに浮かぶいくつもの宇宙のモデルも。

「他の宇宙を経由していたとしたら、物理定数、物理法則が異なるのだからボーズ粒子だろうとフェルミ粒子だろうと崩壊するだろう」

 ケナムは一つの宇宙を手前に引き寄せ、そのあり方を拡大した。その宇宙には、宇宙の大規模構造すらなかった。

「そうすると、こう考えるのはどうだろう」

 ンオガが、ケナムが示した宇宙のモデルを横によせ、32次元の空間を引き寄せた。

「共振はこのブレーンから32次元以上のブレーンの海に潜り、改めてこのブレーンへと窓を開く。一旦転移窓が開けばこのブレーンのある点から別の点へ、ブレーンの海を潜らずに、転移窓として機能する」

「すると、ブレーンの表面に針を当てると、ブレーンの海を通って、ブレーンというソリトンの向こう側の表面に針が自然に到達するのか」

 ケナムが言葉に沿ってソリトンが媒体上を移動するモデルを引っ張り出した。

「実際にブレーンの海に針を通すと、崩壊するだろうが。そんなところだろう」

 ンオガは何やら満足気にうなずいている。

「では凖励起状態のボーズ粒子と励起状態のフェルミ粒子の扱いの違いは?」

 私はボーズ粒子とフェルミ粒子の表を再度引き寄せた。

「君が言ったようにスピンだろう」

 ンオガが、私が引き寄せた表のスピンの項目を強調させた。

「結晶をまったく励起させていない場合、窓が開いていない」

 配置された結晶を斜め上から見たモデルがンオガから送られてきた。左から転移窓を通して右がわへと、光の線が通過していく。

「凖励起だとこうだ」

 やはり左から光がやってくるが、転移窓でその光は消えた。どこかへ転移したということだ。

「整数値のスピンに関して、凖励起状態で転移窓の通過そのものに必要なエネルギーやいわば自由度が供給できるということだろう」

 続いて宇宙船の絵が左からやって来ると、転移窓で消えた。

「励起状態だとこうなる。半整数値のスピンに対しても、窓そのもののエネルギーやいわば自由度が励起状態で充分になるということか」

 ンオガはそう言って一息ついた。

「いや、待てよ。これだとこのブレーンの二箇所の出入口が通じるだけだ。だとすると、教えをもたらした者はこの近所にいることになる」

「そこなんだ」

 ンオガは別の記録・記憶を引き出した。


  「つまり私たちには見えないがこの宇宙の『ここに』いるのか?」

 ラバルが四本めの指を立てるのが見えた。

  「その可能性が高いと考えている。ただ『ここ』という言葉の定義が問題

  になるが」


「それだと、ローガがこう言ったのとあわないように思う」

 ンオガはその記録・記憶の後でそう付け足した。

「とは言っても、他の宇宙にいるわけでもないだろう?」

 私はマルチバースの映像を引き寄せて言った。

「この宇宙と物理定数が同じ宇宙をつくれれば話は別だが…… ブレーンにそんな介入が可能なのか?」

 ケナムは疑わし気に言った。

「だが、転移窓が通じているなら、そこということになるだろう」

 ンオガも自身なさそうに答えた。

「そうすると、どうやってそこに繋げるかだな」

 私がそう言うと、皆、降下船の前にあるナブロスのモニュメントを見た。

補足:M’理論はありません。超ひも理論、M理論、ボゾン弦理論を更に統合したものとして想定しています。32はちょっと足し算をして、それに余裕を見て適当に32としています。


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