10−1: 大探査 4−1 ν隊 1−1
テラン、エラン、ヴェールコールの合同探査隊には、新たにν隊が設けられた。ナブロス星系、特にナブロスのモニュメントについての探査を行なう隊だ。
モニュメントの六個の結晶、同じ配置の複製による六個の結晶、そしてτ-1で得られたナノマシンも複製を用意しての探査となった。
降下船の結晶からの結晶探査用の共振、複製へのレーザーによる共振により、モニュメントの結晶の共振の条件も明らかになってきた。モニュメントに現われる転移窓から、複製に現われる転移窓への転移、またその逆も可能となった。
だが、新しい問題が発生していた。モニュメントの結晶をどの波長で励起しても、複製との間に転移窓が開いてしまう。しかし、複製を励起してもそのようなことは起こらない。記憶を見るかぎり、転移窓の研究の際にも似た現象がなかったわけではない。ただ、それはレーザーの波長に幅があったというものだ。今のように、どの波長でも転移窓が開くわけではなかった。
「アズル、モニュメントをもう一度、別の波長で励起するぞ」
モニュメントの前にいるテラン隊のケナムから連絡が入った。
降下船の中から見ていると、やはり転移窓が開いていた。
「やはり開いている」
「どうなっているんだ……」
ヴェールコール人のンオガが呟いた。
「近くにあれば、多少のずれがあっても影響を受けるだろう。共振そのものは弱いが、転移窓を何とか開くことはできる。だが、これは、励起さえしていれば転移窓が開いている」
「ンオガ、昔との違いはなにがある。オリジナルの結晶であること。モニュメントに結晶が埋め込まれていること。他には?」
私に思いついたのはそれくらいだった。
「τ-1とβ-1のサンプルもあるな」
ケナムが付け加えた。
そう。β-1の大気にも同じ、あるいはほぼ同じナノマシンが含まれていた。
それを聞いて、こちらの降下船にあるτ-1のサンプルの反応を確認する。
「反応はないようだが」
「ナノレベルの反応だろう? 実際に検出可能なものなのか?」
「自信はないが。意味のある反応があるようには見えないな」
「すると、結晶そのものがオリジナルであるかどうかは?」
「ンオガ、結晶の複製はオリジナルと同じなんだな?」
ンオガがあちらの降下船で資料を脳の窓に並べているのがわかる。
「ここに持って降りているものは、まったく同じ複製だ」
「そうすると、まずモニュメントか」
ケナムがモニュメントを見上げるのが感じられた。
「でかいのがむしろ面倒になっているかもな」
ケナムは溜息をついた。
「モニュメントの組成はどうなんだ、ンオガ?」
「いくつも発掘されている、あのブロックと同じだ」
私はマーグが持っていた、そしてラバルが受け取っていた、今は私の目の前にあるブロックを見た。
「ンオガ、モニュメントを破壊して、内部を見たことはあるのか?」
私はブロックの浮き彫りに指を沿わせながら訊ねた。
「そんなことができるものか!」
すぐに返答があった。驚きと畏れがその声にはあった。
「できない理由は?」
私は重ねて訊ねた。
「知っているだろう。壊せないんだ。どうやっても」
「本当にそれだけか?」
ケナムが言った。私が感じたものと同じものをケナムを感じたのだろう。
「そうだな。言うなら、モニュメントや教えをもたらした者への信仰のようなものを君たちからは感じる」
「だめだ。そんなことを認めるわけにはいかない」
私たちの声と言葉から何かを感じたのだろう、ンオガはそう答えた。そして、私とケナムは確かにそれを考えていた。
「なぜだ。モニュメントが重要だとしても、それがあったことがわかれば充分だろう?」
「だとしてもだ、少なくともここのモニュメントはだめだ」
「まぁ、それはわかる」
ブロックを手に取り答えた。
「この共振が起こらなくなったらまずいだろうな。なら、このブロックならどうだ?」
しばらく沈黙が続いた。
「ラバルが何か言わないか?」
ケナムがやっと言った。
「探査に役立つようにと渡してくれたんだから、何の問題があるのかわからないな」
「それはそうだな」
ケナムは軽く答えた。
しかし、依然、ンオガは押し黙っていた。
「何も最初からこのブロックを割ろうというわけじゃない」
ンオガからの答えを待ったが、やはり答えはなかった。
「ここに小さなモニュメントがあると考えてみてくれないか? そして結晶とτ-1のナノマシンがある」
「モニュメントと結晶が何か関係しているなら、それでも何かわかるかもしれないな」
ケナムはモニュメントの前から離れようとしていた。
「浮き彫りの有無が影響なければだが」
そう言って、ンオガからの答えを待った。だが、やはり答えはない。
「見たければこっちに来てくれないか?」
「わかった。これからそちらに行こう」
ンオガがやっとそう答えた。




