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ForeRunner  作者: 宮沢弘
疑念
16/26

8−2: 大探査 3−2 ρ隊 1−2

「汚染の内容はわからないのか?」

 急造の調査船で、テランのテイグがハードスーツの中から言った。

「量子力学的汚染とのことだが。詳細はわからない」

 私も、こちらのハードスーツの中から答えた。節足動物をベースとしたキチン質と金属の重合による外骨格を持つスーツだ。

 スーツの複眼から共有感覚空間を通して見える台には、黒い球と、もう一つなにやら組織が付着した棒が透明な筒が何本か収まっている。

「ツアイ、黒いのと棒があるが?」

「黒い方に微小人工物がいくらか詰めてあるそうだ。棒はτ-1の住人と他の生物のサンプル。遺伝情報への影響の調査のためにらしい」

 降下船からそう答えがあった。

「なるほど、まずそれをシーケンサにかけておこう」

 私はそれぞれの組織をシーケンサの口に放り込んだ。

「電磁気的な異常は見られないな」

 ヴェールコール人のマイヌが、テランが持ち込んだ機器を球の近くへと動かしながら言った。マイヌのハードスーツも私たちのものに似ている。ただ、ヴェールコール人は個人の好みで着るものを選ぶ場合が多いらしいが。

「重力は、ここにいたんじゃ何とも言えない。核力は加速器が必要だな。コエナ、あるか?」

 マイヌはそう続けた。

「あるというか、作ればある」

「なら、後で必要ならやろう。まずな球の中を透視してみよう」

 マイヌは機器の操作を続けながら言った。

「X線レーザーで構造を見るぞ」

 私とエイグが一歩下がると、一瞬ハードスーツから警戒の情報が届いた。すぐに撮影された映像が接続された。いくつもの映像の中から、個体と思える原子群が選び出された。

「次、磁気共鳴原子間力顕微鏡で結合を見る」

 映像に原子間の結合が現われた。

「次、中性子ビームで組成を見る」

 また、一瞬ハードスーツから警戒の情報が届いた。先程の構造の映像に、原子による色分けがなされた。

「結構大きな分子だな」テイグが言った。「だが、これそのものでの汚染ではなく、量子力学的汚染というのがわからないな」

「巨大有機分子のように見えるが」

 視覚に投影されている映像の、ベンゼン環のようにも見える部分を私は指で叩いた。ただし、その骨格は炭素ではない。炭素が占める部分を化合物が占めていた。そのようなものが長く連なる巨大分子のようだ。

「いや、待て。ここの組成は何だ?」

 ベンゼン環の炭素にあたる部分を占めている化合物をズームする。テイグとマイヌもそこを覗き込んでいるのが感じられる。

「これは、高共振性結晶の分子じゃないのか?」

 マイヌが指摘した。

「それを部分として、長く連なった高分子になっている。結晶の分子にいろいろと修飾が付いているな」

 テイグが映像をズームアウトし、全体が見えるようにした。次いで、別の部分をズームする。

「ここは、その高分子に別の高分子が付着しているように見えるな」

 マイヌはそこをさらにズームする。

「似た構造のものがへばり着いている」

「これで、高共振性結晶として機能するのか?」

 私はマイヌに訊ねた。

「わからない」

 マイヌは量子ゆらぎを見ようとでもするように映像を睨んでいた。

 その時、シーケンサから分析が終った旨の表示が割り込んできた。私は、更にτ-1の住人の遺伝情報に、知性化処理の痕跡が見られるかどうかの処理を指示した。その結果はすぐに得られた。τ-1の住人の遺伝情報と、他の動物の遺伝情報、そして他の種族の遺伝情報が視覚に投影された。その情報をテイグとマイヌにも回した。

「τ-1の住人が知性化処理を受けているのは間違いないな」

 テイグが言った。

 マイヌは、私が回した情報を視覚のすみに置き、まだ高分子を睨んでいる。

「どうした」

 私はマイヌに声をかけた。

「いや、これは問題が大きいかもしれない」

「大きいって?」

 テイグもその情報を払い、マイヌを見た。

「もしこれが機能するなら、どこと通じていて、何を送ったり受け取ったりしているんだ?」

 マイヌはやはり睨みながら答えた。

 そこで私はマイヌが何を気にしているのかに気付いた。

「これまでにこういうものが見付かった例は?」

「ないんだ。一定の段階で自壊するのかもしれないが」

「どういうことだ? つまり……」

 テイグはそこでマイヌが考えていることに気付いたようだった。

「教えをもたらした者について考えを改める必要があるかもしれない」

 マイヌが呟き、そして続けた。

「ナブロスに戻ろう。ここではまだわからないことがある」


  * * * *


 調査班は各降下船へと戻った。

 τ-1の母種族について議論があったらしいが、ヴェールコール人がそれを担当することに落ち着いたようだった。

 調査船は、降下船に癒着し、仮の脳は降下船の脳へと情報を伝え、消えようとしていた。

「コエナ、疑問はあるだろうが、君たちの提案どおり一旦ナブロスに戻ることにする」

 ツアイとマナウからそういう連絡が入った。


  * * * *


「おっと、ナブロスからの通信だ」

 ザサウが探査船が聞いた信号を私に転送した。

「開いてくれ」

「マナウ、τ-1の大気やらのサンプルが欲しいそうだ」

「ちょうどいいな。もらったところだ」

「マナウ、今のは?」

 テランのベヒトと、それにヴェールコールのナクマも接続してきた。

「つまり、τ-1の住人が気付いたことにあっちも気付いたんだろうな。よし帰還しよう」

 私はそう答えた。

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