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ForeRunner  作者: 宮沢弘
出会い
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1−1: 出会い

 宇宙船の細胞内のマイクロチューブルが作り出す量子もつれが抉じ開け(こじあけ)た余剰次元窓から船が通常空間に現われた。私が代表として座っている艦橋のスクリーンに船の目からの映像が移し出される。宇宙船の目が右へ左へと動きヴェールコール人からもらった星図との照会を行なう。目の前にあるのはナブロス星系だとスクリーンに表示された。船は間違いなく目的地に到着した。ナブロス星系についての詳細の記録はない。私たちの世代の知性体にとっては未踏の地だ。

 私たちエランはいわば乗り遅れ組だ。銀河先史文明の遺跡がありそうな場所には、既に他の種族が乗り出している。ナブロスを選んだのも、どうにかして遅れを取り返すという気持がないと言えば嘘になる。星図に載っているにもかかわらず未踏なのだ。

 数百年前、エランはある惑星から脱出した。その惑星の記録は既にない。航宙の間にヴェールコール人と出会い、今の私たちの技術の種をもらった。ゼイヴァン星系に到着した後、私たちはその技術を発達させ、この宇宙船を作り出すまでになった。それ以前にはエランも他の多くの知性体たちと同じ技術体系を持っていたという。いわば鉄とケイ素の文明だ。だが私たちはそれを手放した。今、私たちが持っているのはタンパク質による文明、生体文明だ。

 この数百年のやり直しがなければ、他の知性体たちに遅れることもなかったのだろうかとも思う。だが、そうではない。他の知性体は千年単位で既に探索をしているのだから。

 彼らをもっても、探索の成果は芳しいものではなかった。あまりに遺跡が少ない。それは先史文明の崩壊から、あまりに時間が経っているためかもしれない。それでも先史文明が存在し、一つの文明圏であったと考えられるのには理由がある。同じ特徴を持った遺物が多くの星系から見付かっているからだ。

 私はテーブルの上に置いてあるブロックを手に取った。握り拳大の素焼きのように見える。だが、素焼きではない。極めて固く、その表面には全ての面に精巧な浮き彫りがされている。幾何学的とも、フラクタル的とも、あるいは生物的とも言える奇妙な浮き彫りだ。これが何なのかは未だにわかっていない。

 ブロックを眺めていると、共有感覚空間からのアクセスが私の脳に、正確には脳に寄生させているアクセス用の調整生物にアクセスがあった。私はそちらに意識を向けた。搭乗員全員の意識がそこにあった。軌道の確保、降下隊の編成、降下船の状態、探索計画、それらについて意識が共有感覚空間に溢れていた。しばらく眺めていると、それらは次第に整理されていった。搭乗員全員が共有感覚空間にアクセスし、そこにある情報を読み、改訂し、案をまとめあげていっていた。案がまとまった様子を見て、私はそれらを承認した。もっとも共有感覚空間でまとめあげられたものを、代表といえど明らさまに拒否することはできない。様々な案の背景や経過が頭に流れ込んでくる。それらを知ることができる。共有感覚空間にアクセスしている限り、それらを知らないでいることはできない。そのような状態で拒否するには、相当な鈍感さが必要だろう。その鈍感さを持ち合わせないゆえ、それを拒否できる者はいない。

 ただ私は一つだけ項目を追加した。系内におけるニュートンズ・ウェイク、つまり宇宙船の航跡の確認だ。

 船も共有感覚空間に繋がり、状況を知らせて来た。船の三半規管がアクティブ、パッシブの両方で探査を始めた。と同時に、既に準備していた降下船は人員を乗せて船の排出口へと進み始めていた。降下船は気圧確保のための粘液に包まれ始めていた。

 降下船の排出が始まろうかとしていた時、船からアラートが響いた。他の探査隊が星系内に来ている。いや、今私たちが来ているこの惑星の反対側に来ている。ヴェールコール人や私たちの文明圏のものではない。こちらの共有感覚での呼び出しに応答がない。

 降下準備の中断を搭乗員に伝え、船には光通信を行なうように指示をした。両方の文明圏で共通のプロトコルで。共有感覚空間を通して、船が通信用反射境を射出するのが、そして船の目の一つが反射鏡の方へと動くのが感じられた。

 しばらくの後に、回線が通じ、返答があった。

「私たちはテランである。この惑星の系内極座標0.01rad前にこの惑星に到着している。探査優先権は私たちにある」

 宇宙船にテランについて問い合わせる。私たちとほぼ同時期に先史文明探査に乗り出している種族だ。だが、ヴェールコール人からもらっている情報には奇妙な点があった。

「オリジン不明」

 つまり、現在の彼らの母星は、彼らが生まれた星ではないということだ。それとともに、彼らが知性化処理を受けた種族ではない、少なくとも彼らを知性化した種族が不明ということだ。このような種族は極めて少ない。そう極めて。探査に乗り出している種族では、もう一つだけだ。そしてその一つというのは、私たちエランだ。

 オリジン不明である私たちは、他の種族からは幾分なりとも蔑まれている。独自に知性化することはありえないと考えられているからだ。知性化処理を行なった種族に、何らかの理由で捨てられたのであり、処理を行なった記録さえ残されなかったと考えられている。つまり知性化処理において廃棄された種族と考えられているからだ。

 共有感覚空間にも意見が溢れる。ここで負けるわけにはいかない。この星系に何があろうと、いや何もなくとも、ここで負けてエランの立場を更に下げるわけにはいかない。

 私は船に伝えた。

「戦闘を開始する」

 船はそれをテランに伝えた。

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