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あした世界が終わらなくても

 もしあした世界が終わるんなら、『最後だから』って何でもできそうな気がする。例えば、照れ臭すぎてしたことないけど母親に花束を渡すだとか。友人たち一人ひとりに『お前は最高だ!!!』ってシラフで熱く語るだとか。


 君に、も一度連絡するだとか。


 今までだって何回も、何百回も考えた。でもそのたび『酔った勢いで連絡するのは卑怯じゃないのか』『今日はもう遅いからあしたにしたほうがよくない?』って一日づつ延ばして延ばして、気が付いたら今日だった。タイミングもクソもありゃしない。

 きっと君は俺なしだって、変わらずきらきらした人生を送ってるだろう。そうあってほしい。不幸でなんかいてほしくない。でも俺はだめよ。まったくもってだめ。

 何してても、楽しんでいても途中でその気持ちは空中分解してばらばらになる。でもこれって自業自得なんだよなきっと。君をちゃんと大事にしてれば、今でも俺もきらきらな君のそばにいたはずだから。

 きらきらのかけらは今でも俺のどっかに引っかかってて、ときおり責め立てるみたいにちくちくと痛むから、忘れることも飲み込むこともできやしない。


 まあでもこんなのはただの感傷でノスタルジーで幻想で都合のいい独りよがりなロマンだ。わかってる。

 でも声が聞きたいんだよな。


 意味もなくしょっちゅう電話をした。あっちは電話が苦手で、だから『メッセージでよくない?』って電話越しによく言われてた。

 俺は、その時の少し照れたかんじだとか、夜だからかひそひそな話し方だとか、ちょっと掠れた笑い声だとか、ぜんぶ丸ごと好きだった。だから『今、声聞きたいんだもん』なんてねだっては困らせてた。話すことが思いつかない時の息や沈黙も、好きだった。


 なのになんで。


 別に、恋が永遠に続くものだなんて思ってないよ。だから終わるんだとしても、お互い好き好きらぶらぶ超々々々愛してる♡♡♡期が、ふんわり落ちる羽みたくゆっくり熱を冷ましたそのあとじゃないかって、一人で未来予想してた。そのせいかな、まだ行きたいところも二人でかなえたいこともたくさんある。――少なくとも、俺の側には。

 君に何枚手持ちのカードが残ってるかは、わかんない。もしかしたら一枚もないかも。


 お別れは向こうからの申し出で、俺は青天の霹靂ってかんじのその言葉にケーキ入刀くらいさっくり胸を切られてポッキリと心が折れて、小さい声で『はい』と了承することしかできなかった。前々から覚悟してたら『ありがとうね』とか『どうして?』とか『やだ』とか言えたのにね。


 何も言えなかった言葉たちが自分の中でずっとぐるぐるしてる。どこへも行けずに。


 電話、してみようかな。待ち伏せよりはいいよな。

 そんな風に思ってみては秒で『いやいまさらだし』って簡単につぶした。君を思って、というより、これ以上傷付きたくなかっただけ。侮蔑の目を向けられるのも、思い出を汚すような言葉で拒否られんのも勘弁だった。


 でもさ、世界が終わるんなら。


 俺や君だけじゃなく、鳥もスーパースターもビルも遺跡も全部なくなっちゃう。それはとんでもなく恐ろしいけど、それならようやく言えそうな気がする。――何を?

 感謝の気持ちも疑問も確かにある。でも一番伝えたいのはやっぱり好きってことだ。


 あした世界が終わる、終わるって言い聞かせて、携帯を持ちながら深呼吸した。この際時間とかはもう考えない。だって、こんな非常識な事態の前では、ささやかな常識なんて押しつぶされてしまうんだからね。

 そんな思い込みが上手くいって、受話器のアイコンをタップすれば電話がかかる、その瞬間にふと『あした世界が終わらなくても、伝えてもいいじゃん』と冷静になってしまった。

 なんて自分勝手なやつ。お別れされて当然だわね。そうだよもう嫌われてるかもしれないんだからいまさら嫌いの加点が増えたところで屁でもねーわ。わははは。

 やけくそにそんな風に思って、少し笑った。

 よし、ぶちかまそうぜ。


 五コールめで電話がつながる。心臓がやばいくらい踊ってて、シャツの上からでもわかるその鼓動にそそのかされて、用意していた挨拶も名乗りも全部すっとばして「好き」と口走ってしまった。


 沈黙。


 一〇秒。


 二〇秒。


 ふたたび心が折れそうになるそのギリ手前で、涙声の『遅いよ、ばか!』が返ってきた。


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― 新着の感想 ―
「好き」って言葉を聞いた瞬間の彼女、ほっとしたでしょうね。二十秒かけてやっと言葉に出来たんでしょう。 待っていて良かったですね。
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