八年後の答え合わせ(☆)
「七年後もここであなたと」より続いています。
待ち望んでいた大きなイベントは諸事情によって一年延期した後、今日いよいよ開幕を迎える。元々、現地まで足を運ぶようなタイプではないし(夫も私も)、今年はステイホームが推奨されているので、おうちでのんびりと観戦させていただくことになった。
七年後なんて遠すぎて実感湧かない、と思ってたけど、あれから私たちは順調に年を重ね、今なお生活を共にしている。
八年前に描いた未来予想図は、微妙に虫食いだ。
彼と結婚した。
子どもは出来なかった。
保護犬を家族に迎え入れた。私が望んでいた賢い雑種ではなく、おばかでキュートなゴールデンレトリバー。お水の入ったボウルに気付かぬまま足を踏み入れて派手にひっくり返しては『おみずないのなんで?』って不思議そうな顔をするような子で、夫も含めてこれで家族三人のうち二人が天然さんに占められてしまって頭が痛いような、なごむような……。ちなみに、しましまのTシャツを着てしましまの靴下をうっかり履いちゃう彼の癖はまだたまに披露されるけど、お出かけの前の私のチェックで是正されるようになったから、しましま&しましまで外出するような事態にはもう陥らない。
子育てと仕事で忙しい友達たちとはたまーに遊んでる。子連れの時もそうじゃない時も両方楽しい。いつか子育てが終わったら旅行に付き合って! と言われてて、それもまた楽しみだ。
料理は、結婚を機に作るようになったものの、未だにやっぱり苦手。おんなじキッチンを使っているのに彼が作った方が断然おいしいのはなんで、って悔しく思ったりもするけど、キッチンは俺のテリトリー! と言って憚らない夫が週の大半の炊事を担ってくれているので正直助かる。代わりに私は、部屋に入ってきちゃった虫の駆除やお掃除をメインに頑張ってます。
姉夫婦は、なんやかんやあったらしいけど未だにラブラブだ。
甥っ子は、高校に入ったころからめきめきと体格が良くなって、でも彼女はいないみたい。まあ、隠してるだけかもね。
両親は病気をしつつも、年相応に元気。
そんなところかな。
感情を絶えず火にくべるようにして二四時間ずっと好きだった季節は過ぎて、私たちはもはや姉夫婦のようなラブラブモードではない。
でも、彼は生活を共にするパートナーとしてはなかなかだ。
なかなかだ、と上から目線で私が尊大に言ったところでムッとすることも怒ることもなく、『それはありがたいねえ』ってのほほんと笑って受け取るような人だから、ここまで伴走してもらえてるのかもしれないね。
子どもが出来ないことが苦しくて、子作りを手放したくなくてそれしか見えていなかった私に、彼は『子どももほしいけど、でも一番大事なのは君とこれからもずっと一緒にいることだから』と言ってくれた。
今は、我が家のわんこに二人で夢中……というより、振り回されてるかも。この子に手がかかりすぎてて、金魚を飼う方まで回らないくらいには。
毎晩、お散歩はできるだけ二人で行くようにしてる。このお散歩タイムでいちばんおしゃべりしてるかも。艶めいた会話はめっきりなくて、話題はやっぱりわんこのことが多い。
「ご飯以外でこの子に色々あげすぎないで。せっかく体重元に戻したのに、この間病院で測ってもらったら増えてたんだから」
「……分かった」
「しばらくご飯はまたダイエットフードだよ。がんばろうね」
「ごめんなあ、パパのせいで」
「ほんとだよ。ねー?」
わんこに二人して話しかけると、明日からダイエットフードとは分かっていないらしいこの子は、嬉しそうな顔で尻尾をちぎれんばかりに振っていた。
「そんな無垢な顔で笑わないで……。パパは罪悪感で胸が一杯だよ……」
「その罪悪感でおやつ余計にあげないでね」
「なんで分かったの俺が考えてたこと」
「お見通しだよ、何年一緒にいると思ってんの」
まいりました、と言う夫に、コンビニでお高いカップアイスを買わせた。
あれから八年が経った。この人を見てときめくことはないし、多分向こうもそうだろう。
でも、愛と尊敬はこれからも続くよ。
もう多くは望まないから、今年の願いはたったひとつ。
――まだまだ大事なこのひととわんこと、これからも同じ風景を見られますように。