ツイノベ色チ買い彼女
ツイッターにあげていたもの+追加です。
「んー。選べない! 両方いい色!」
さっきから店先でずっと悩んでいる彼女だけど、俺は知っている。
さんざん悩んだ後、「服は一期一会だから」って言って結局いつも通りに両方お買い上げするということを。
「それ『色チ買い』って言うんだってね」
何の気なしの言葉は、彼女には売り言葉だったらしい。
「なかなか見ない色と欲しかった定番の色、悩まない方がおかしいでしょ。あなただって間違い探しレベルで似てる時計を集めるじゃない」
それ以上ヒートアップする前に、口封じのキス。
あんなに悩んでたくせ、彼女が着るのは片方ばっかり。それを家飲みの時にツッコんだら、「……あなたのタイピンとないしょでおそろいにしてたから」と、缶ビール半分で出来上がった彼女が素直に明かす。
給料出たら新しいタイピンとお揃いのイヤリング絶対買う。
「それこの間も」
「この間買ったのはえりが丸いから!」
「同じ奴がクローゼットに」
「袖丈が違うから!」
君の方が間違い探しのレベル上ですから……と心の中で何十回目か分からない台詞を唱える。
でもまあ、『間違い探し』を増やした彼女はにこにこと幸せそうなのでオッケー。
彼女の家に行くと、部屋の中にいくつも積まれた同じ靴箱。
「色チ買い?」
「……うん」
「『めったにないお買い得価格で』」
「うっ」
「『私好みの色で』」
「ううっ」
いつものご購入フレーズを言うたびにキョドってしまう彼女。ごめん、調子に乗っていじめすぎた。
靴箱に貼られてた色見本のシールは、黒・イエロー・パープル・ミント・ピンク。うん、どれもすごくよく似合いそうだ。
「全色デートに履いて来てくれる?」
「うん!」
おねだりしたら、とたんに元気になった。
君のそういうとこ、俺は好きだなすごく。
「今すれ違った人の着てたワンピかわいかった―!」
「君好みだよね」
「うん! でもあんな風に大きいチェックって実は持ってないんだよ」
そう言ってからハッとして、「今のは別に言い訳じゃないから! 『持ってないから買っていいよね』じゃないから!」
いやいいんだけど、その慌てぶりがもう語るに落ちるって奴だよ。
『色チ買い』大好きなくせに、彼女のパジャマは男女共用サイズの同じやつだけ。ゆるっとしてて着心地がいいんだそうだ。
目移りしがちで選べない彼女に、俺以外のオンリーワンは、ちょっとだけ妬ける。ちょっとだけ。
自分の住んでるアパートの部屋を見渡す。決して狭くはないけど、彼女のあのコレクションを全て収納できるほどには広くない。
「……引っ越すかな」
その前に、『住居と一生を共にする気はあるか』と聞くのが先か。考えるより早く、指が辿り着いた13桁。
「もしもし?」