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Self Introduction -自己紹介-

      警告

この作品には一部残酷描写が含まれています。

苦手な方はご注意ください。

今話は登場人物も多く、今後の主要キャラクター達ですので、お楽しみ下さい。



駐車場に車を停めるため、ギアをバックに入れ後ろを振り返る。

実は僕はまだ無免許でやっと仮免許を取得したばかりだったので運転には慣れていなかった。

ふと、また世界が日常を取り戻したら無免許運転の交通違反で捕まるのかな?

そんな思いが頭の片隅をよぎる。

けど日常が戻るなら喜んで捕まってもいいかなと思いながら車を停め、僕はサイドブレーキを引いた。

今乗っている、マークⅡワゴンという車種は年式が古くX70ベースのものでフォルムの角ばった無骨なデザインが、最近の流線型の車のデザインと比べると違い特徴的で、僕はこの車を気に入って乗っていた。

途中ガソリンを抜くために調べた放棄車両の中には、この車のようにキーが挿したままの車もあった。

もちろんその中には最近テレビで宣伝されている。

高級車や若者が好むデザインもあり乗り換えようと思えば出来たが、僕はこの愛車を気に入って乗り続けていた。


「鳳さんを、みんなに紹介しますね」

ゆるくウェーブした栗色の髪の美少女。

立花は、そう言うと助手席のドアを開け。

ちらっと<死人>の群れから逃げる時に頭を打って失神している。

松永を見てから、車の外に出た。

4月の少し冷たい夜の空気が車内に入り、僕は少し首を縮めた。


-


見知らぬ車から、立花が手を振り走ってくるのが見える。

松永の姿は見えないが、どうやら立花の様子から二人とも無事なのが窺えた。

こちらも手を振り返し答える。


「立花、無事でよかった」

「松永は大丈夫か?帰って来たのは俺の車じゃないみたいだが」

あえて、おそらくは一緒に来たであろう他の生存者の存在に気づかない体で松永の安否を確かめる。


「ご心配かけて、すいませんでした松永君は無事です。

あと先輩の車をショッピングセンターに置いて逃げて来ちゃいました。

本当にごめんなさい」

深々と頭を下げ謝る立花の両肩に手を置き、笑顔で答える


「俺の車なんか気にしなくていい

二人がこうして無事に帰って来た事が一番なんだから」

すると見知らぬ一人の男が車から歩いて来た。

近くまで来ると、男は挨拶をしてきた。


「はじめまして、鳳と言います」

男は近くに来て分かったが、年齢はおそらく20歳前くらいだろう。

俺よりも二つ三つは下に見えた。

容姿は、幼さが残る柔らかい目元にやや長めの前髪がかかっている。

輪郭は細く鼻筋も通った眉目秀麗な少年で体格は細く見える。

肩幅がやや広く、何かしらスポーツを嗜んでる様にも見えた。

良く見ると男の右腕が肘から先を後ろにたたみ曲げている。


「鳳さんが、私たちをショッピングセンターから助けてくれたんです!」

俺にも立花が鳳に抱く感謝の気持ち伝えたいのだろう、まあ当たり前だろうなと思う。


新見にいみです。

二人を助けてくれてありがとう、借りが出来たね」

握手を求めるため右手を差し出す。

鳳もこちらの意図を察したのか背中に隠していた何かを左手に握り移し変える。

ワンテンポ遅れて右手で握手に応えた。

すると鳳はもう隠す意味がないなと思ったのか、少し気まずそうにに左手に移し変えたバットを前にして見せる。

心中で、若いのに用心深いやつだなと思わせた。


「借りだなんてよして下さい。

たいした事をしたわけじゃないんです」

鳳は本気で照れているのか、屈託のない笑顔で答える。

その仕草には、一瞬先ほどの隠し持っていた。

バットのやり取りを忘れさせる明るさがあった。


「ううん、鳳さんがいなかったら

私も松永くんも<奴ら>に喰われてました」


「新見君!」

みんなを呼びに行った江川典子えがわのりこが、肩までかかる黒髪をなびかせながら息を切らせて走って来る。

その後ろから二人の男が遅れて一緒に来る姿も見える。

一人は中年太りで脂汗を垂らしながら走ってくる。

名前は田中五郎(たなかごろう)

世界が変わってしまったあの日以来、剃っていない無精ひげが顔を覆い

顎の辺りが特に濃いので汚らしい顔が余計に汚らしく見える。

右手には包丁らしき刃物を握りしめ敵意を明らさまにし、この場に近づいてくる。

バットを見えないように工夫して来た、鳳とはえらい違いだ。

もうひとりは老人で2年前にめでたく市役所を定年退職し

今は市の嘱託職員として、このキャンプ場で働いている管理人の臼田次郎(うすたじろう)だった。

老人はひょろりとして痩せ、皺だらけだが態度は堂々としている。

よく日焼けした顔をし、白髪を角刈りにしている。

両手には薪割り用の斧を持ち、前方に握り締め近づいて来る。

俺は二人が来ると手短に鳳が立花と松永の二人を助けてくれた事を話し。

鳳から松永がまだ鳳の車の中で気を失ったままなのを聞くと二人にも手伝ってもらい松永を運んだ。

その際テントよりも管理事務所のベッドの方がいいだろうという、臼田の勧めもあり松永を管理事務所のベッドまで運び寝かせ、とりあえず付き添いには典子と立花が交代で付く事にした。


-


新見さんから夕食の後に僕を今居る《ふれあいの森キャンプ場》のメンバーに紹介するからという申し出があり。

夕食の後、僕の自己紹介を行う事になった。


「みなさん改めて紹介します。

今日うちの立花と松永の二人を助けてくれた鳳君です」

この新見という人は、こういう場を仕切るのが慣れているのか、非常にスムーズに話を進め言葉のチョイスも良く、中々の人物の様に思えた。

また先ほどは僕が用心のために、隠していたバットを自然にあばくためにおそらく故意にだろう。

右手で握手を求めて来たのを考えると、賢く機転の利く人物にも思える。

容姿は身長が高く、端正な顔立ちで雰囲気も爽やかな人だ。

でもどこか他人を寄せ付けない雰囲気もあり迂闊に懐に入るのは危険かなと思わせる。

まあ女性にはさぞかしモテるだろうなとも思った。


僕は席を立ち上がり。


鳳武流おおとりたけるです。

お二人を助けたというか、その…運が良かったんです、きっと」

こんなに感謝のシャワーを受けると、実は心の中では、二人がショッピングセンターから<死人>の群れを引き連れ追われて逃げて来たのを見て。

最初は助ける事にそんなに積極的にではなく、むしろ消極的な思考であり

あまつさえガソリン補給を邪魔された事に心の中で舌打ちしたなどとは冗談でも、とても言えなかった…。


「みなさん、よろしくお願いします」

頭を下げ一礼してから、僕は着席した。


「あちらの方が、キャンプ場の管理人の臼田さんです」

新見が臼田を紹介する。


「初めまして鳳くん。

キャンプ場の事で何か困ったことがあれば言ってくれ」

臼田は立ち上がり挨拶をしてくれた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

僕も慌てて立ち上がり挨拶をする。


「あちらの、ご家族が田中五郎たなかごろうさ」新見の紹介は途中で五郎にさえぎられた。


「田中だ」

五郎はぶっきらぼうに言うと、そっぽを向き無精ひげをなでていた。

僕は一応立ち上がり会釈をし、チラっと新見の方を見る。

新見さんは紹介がさえぎられた事に対して不快な顔色は一切見せず

軽く奥さんの光江みつえを見て次の紹介を促した。


「妻の光江です、よろしく」

光江は中年太りの旦那さんとは正反対に細いスタイルで

まだ歳は30代の半ば位だろうか、全国展開してる有名なファストファッションの店で買ったのであろう、色褪せた蛍光色のフリースを着ている。

色白で整った顔立ちだが、生活の疲れからかどこかやつれた雰囲気がある女性だ。


「この子はありすです。ほらお兄ちゃんにご挨拶は」

隣にチョコンと座る。子猫の様な可愛らしい愛娘に声をかける。


「田中ありす8才です!

お兄ちゃんは助けに来てくれたの?」

ありすは子供特有のほっぺがムチっとし色白で

母親に似て整った顔立ちに大きな黒い瞳のとても可愛らしい女の子だった。


「田中さん、よろしくお願いします。」

光江に挨拶する。


「ううん、ありすちゃん。

ごめんね、お兄ちゃんも助けを待ってるんだよ」

ありすの可愛らしい大きく黒い瞳を見つめると

自分が助けに来たんじゃないことを本当に申し訳なく思い。

早くこの子に救いの手が来る事を祈らずにいられなかった。


「この子ったら、気を悪くしたらごめんなさいね。鳳さん」

光江は、僕の顔を見て申し訳なさそうにそう言うと。


「こんな若造に気を使わなくていいぞ!」

額には脂汗を滲ませながら声を荒げ

他人を不快にさせる言い方で、席を立つとどこかに五郎が移動しようとしていた。


「あなた、どこへ行くんです?」

慌てて夫の無礼を謝罪するように、頭を下げる光江。


「うるせぇっ、タバコだよ!」

軽く光江の頬を平手で叩き、

そのまま食堂を出て小川のほうにタバコを吸いに行く五郎を新見が見つめていた。


食堂を張り詰めた空気が流れる。


それとなく新見を見ると端正な顔立ちに怒気を含ませ五郎の背中を凍るような視線で見つめていた。

確かに夫婦の問題とはいえ、何の理由もなく女性に手を上げているのを見るのは不快な気持ちになり

軽くとはいえ引っぱ叩いた五郎に怒りを感じた。


少しの沈黙があり


「大丈夫ですか?」

心配そうに立花が光江に声をかける。


「ごめんなさいね。大丈夫、ありがとう」

右手を軽く上げ。まるで気にしないでと言いたげに答える。


すると場の空気を変えるように新見が切り出す。


「ところで、鳳君。聞いていいかな?外の様子を」

僕は先ほど出されていたコーヒに、丁度口をつけたところだった。


「わしも、その話を聞きたくてのう」

同意の意思を示し、僕の話を促すように臼田が言う。


「はい、もちろんです。

僕の知っていることは、出来るだけお話したいので

どこから、お話しましょうか?」

喉が渇いていたので、ぬるくなったコーヒを半分ほど飲み干す。


「鳳君、まず今回のこの事態に政府や国防軍・警察等の国家機関は

どう対応し処理しているのか、また今現在政府は機能し活動出来ているのかを

見たり知っている範囲で教えてもらえるだろうか?」

新見は、みんなが聞きたい内容を的確に答えやすいに様に教えてくれた。


僕は最後に見たテレビ放送を思い出しながら話し始めた…

テレビに映った、憔悴した表情のニュースキャスターが話し出す。


【当局が集められた情報を可能な限り放送いたします。

政府からの発表は、現在戒厳令が発令されており政府としては

全力でこの事態に対応し対処いたしております。

国民の皆さんには、家から出ないようにし戸締りをし決して屋外に出ないでください。

繰り返します。

戸締りをし絶対に屋外に出ないようにして下さい。

政府からは以上の短い発表のみで、以前と同じ内容が繰り返されているばかりです。

今この国を襲っている出来事を、見直していきましょう。

私どもの取材や証言によると死者が蘇り

生きている人間を襲い食料としているのは間違いなく本当の様です。

全世界・国内から寄せられた目撃や証言は全て真実だと確認されました。

繰り返します。

聞き間違いではなく、死者が人間を襲い食料としていることが全て真実だと確認されました。

また当局ではこの蘇った死者を<死人>と呼称し放送してまいりました。

もしみなさんが<死人>に噛まれたり

引っかかれたりすると危険な状態に陥る事が判明しております。

みなさんの隣人や身近な人が、万が一噛まれたりした場合

隔離するか十分注意し近づかないない様に、心がけて下さい。

凄惨でグロテスクな映像やこの放送を見られた視聴者の方々の中には

実際にその目で信じられない光景を目にされた方々もおられると思います。

しかし、これらの情報を肯定する情報はあっても否定する情報はありません。

いちニュースキャスターの私の意見ですが

今我々は<世界の終末>を見ているのだと…安全な場所はもうどこにもありません。

一人でも多くの方が、この事態から助かり生き残る事を祈ります。

では新たな情報が入り次第、またお届けします。】


<<緊急速報が入り次第、お知らせいたします。>>

というテロップのみの画面に切り替わった時だった。

音声は切られてなかったのか切る事が出来なかったのか…

テレビから音声だけが聞こえてきた。


【おい、どこから入って来たんだ】ルルァルァ

【ギャーやめてくれ!やめてくれ!】グチャグチャ

【逃げろ!みんな逃げるんだ】ウォォヴォァァァ

【くたばれ、くたばりやがれ】ガァガッ


悲鳴と怒号と逃げる際に椅子や机に人がぶつかる音

<死人>の唸り声と何かを食べる咀嚼音がテレビから聞こえていた……

その放送が僕が見て知っている。

最後に見たメディアからの情報であり

ここまで逃げる時に見た光景や体験も

その放送の内容、全てが真実だという事を裏付ける事ばかりだったと話した。


食堂を長い沈黙が支配していた。


お読みいただきありがとうございます。

今後も引き続きお読みいただけると幸いです。

今話はブンブンサテライツの[Broken Mirror]を最後のほうは聞きながら書き上げました。

では、また次話で!

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