押しピン
本当に入学式の準備をしてて思いつきました。(笑)
まだまだ未熟ですが読んでいただけると嬉しいです。
「そこもうちょっと下かな。」
彼女が僕に言う。
入学式の準備をしていた僕等。
生徒会役員は舞台装飾を任されていた。
僕と彼女は皆が体育館の中を走り回っているのを見ながら手を動かしていた。
「ごめん。やっぱそこ、もっと上げたほうがいいかも。」
彼女が僕に言う。
僕が少し布をあげると彼女は首をかしげて
「もうちょいかな。」
と言った。
「これでいい?」
僕がもう一度あげてから聞くと彼女は苦笑して僕の隣に立った。
彼女の髪の匂いがする。
僕よりも15cmは小さい身長で一生懸命高いところに手を伸ばす。
つま先で立って「入学式」と大きく書かれた横断幕の布を押しピンで止めていく。
顔をしかめてからちょっと恥ずかしそうに笑って
「ごめん。ここ、止めてくれないかな?」
そう言って僕に押しピンを差し出す。
僕は彼女の後ろからそれを受け取ってそのままの体制で押しピンを刺してあげた。
彼女が下から僕の顔を見上げていた。
「いいなぁ。背が高くて。」
そう言ってふふふと笑った。
こんなに密着しているのに彼女はそ知らぬ顔。
「高いところは俺がするよ。」
そういうとまたもや少しはにかんで
「ありがとう。」
と言った。
なんんでそんなにも可愛い反応をするのだろう。
僕は顔では平静をよそおいながらも心臓は破裂寸前だった。
彼女が手に平に押しピンを沢山持って僕に差し出す。
僕はそこから押しピンを取り、高いところを止めていく。
押しピンを取るたび彼女の温かい手に触れる。
彼女は1人お喋りをしながら僕に押しピンを差し出し続ける。
僕は相槌をうちながら、時には冗談も言いながらひたすら押しピンを止めていく。
周りでは皆が先生の指示の元、会場の椅子を並べていた。
百合の匂いがする。
舞台に置いてあるケバケバしい色とりどりの花の束からだ。
僕はこの匂いが嫌いだった。
どこか甘ったるくて・・・
彼女の髪の匂いより強いところが余計に気に食わなかった。
彼女は細かい所までしっかりと見ていく。
少しのしわやたるみを見つけては僕を呼び、「ここも!」と言う。
僕はそのたびにやれやれと思いつつもそこに走っていき止めてあげる。
この作業時間がずっと続けばいいと思った。
彼女と一緒に押しピンを止めていくこの作業が。
彼女の持っている押しピンの数が減っていく。
一つ止めるたびに一つずつ。
彼女の手に僕の指が当たる面積がしだいに広くなっていく。
不意に彼女は手を引いた。
僕が驚くと彼女は押しピンを置いて、僕の手をしっかりと握った。
「うわっ。やっぱり冷たい・・・。」
僕はどうしていいか分からず、スッと手を引いて
「別に。」
と言うと彼女は少し悲しそうな顔をして押しピンを手に戻した。
そして少し微笑んで押しピンを差し出した。
僕はなんだか悪いことをしたような気になりながらも微笑み返して押しピンを受け取った。
その後もひたすら押しピンを止めていったが、さっきから少しぎこちない空気が流れていた。
会話がなくなり、お互い目が合うと変な笑顔を浮かべてしまう。
僕はだんだん焦ってきた。
何を言う?
さっきはごめん。?
いやいや、それはおかしいだろ。
ていうかこの雰囲気はまずいよな・・・。
嫌われたかな・・・?
ああ、もうっ!どうすればいいんだよ!!
と、彼女が口を開いた。
「最後の一個だよ。」
僕が彼女の手を見ると両手一杯にあった押しピンが片手に一個、本当に一個ちょこんとのっている。
僕は果てしない寂しさを感じながらも黙って受け取り、止めた。
お互い動こうとはせず、ただ黙って最後の押しピンが刺されたところを見つめていた。
僕はやっとの思いでこう言った。
「俺の手、まだ冷たいんだよね。」
彼女は僕を驚いて見つめ、ふっと微笑んで
「顔、真っ赤だけど?」
と言った。
僕は自分でもやっとそのことに気付いてもっと赤くなってしまった。
今度はクスクス笑って彼女は僕の手を握り
「こんな告白されたの初めて。」
と言った。僕は思わず
「前にもされたのかよ!」
と言うと彼女は
「やっぱり今の告白だったんだ?」
と笑った。
はにかんだあの笑顔はどこだ!
と思ったけど、でも・・・
この笑顔のほうが好きかな。
どうでしたか?
なんだか学校の中で起こりそうかなぁ。と、思い書きました。
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