弁当。
駅のホーム。
立ち並ぶ人ごみ。
最前列で鉄を待つ。
ふと視界に迷い込んだ
ぽつんと佇む弁当屋。
ここまで並んだ時間を足蹴に
ネクタイを締めツカツカ歩く。
売り切れの札に隠れて一つ
どこか懐かしい弁当箱。
野口を置いて弁当を貰い
横のベンチでいざ開封。
哀愁。
頭に過ぎったこの言葉は
口に出さずとも目から出た。
輪ごむを外してはしを割り
手と手を合わせて 。
梅干しとシャケと玉子焼き。
たくあん色の白米。
端には隠れたポテトサラダ。
何もかもが懐かしい。
止まらない口と手と涙。
半分過ぎたそのころに
頬に冷たい感触が。
『はい、お茶』
思い出から出た言葉。
幼少のころの愛言葉。
はっ、と後ろを振り返ったが
弁当屋はそこにはない。
視界にあるのはただの夢。
と、弁当とお茶。
忘れない思い出から
忘れられない思い出となった。
あの頃から変わったのは
スーツを着るようになったくらい。
この味と彼女は変わらない。
ほんの一寸で
手に入れた時間は
辛い毎日を
幸せへ変えた。
鉄が目の前を過ぎ去った。
人生は、楽しい。