その4
「猫だ。鮭の皮、食べるかなあ」
植え込みの隙間から顔を出した猫を見て、慌てて話題を変えた。
口を結んだビニール袋を開けて、中から食べ残した鮭の皮を出す。
「ノラ子に餌やるのはいいけどさ、触るなよ。引掻かれたりすると、感染症もらうから」
「え?」
思わず手を引く。
「ま、飼い猫でも持ってるけどね。日和見感染っぽいから、健康体ならそうでもない。ただ、子供だと発症・・・」
「あたしが子供だって言うの!」
思わず立ち上がって、ベンチを見下ろす。そんなに大層な差がないのが、悔しい。
ニヤニヤするな、余計悔しいから!
「子供と結婚しようとは思ってない。ロリコンでもない。でも、身体のサイズはそうでしょ?」
「無駄に大きいより、絶対マシ!」
「別に悪いとか言ってない。少なくとも俺にはマイナス点じゃない」
そう言ってから何を思ったか、先輩は私の腰をひょいっと掬って立ち上がった。
うわ、視界が変わる・・・ってか、何この体勢。
腕の輪っかの上に座る、いわゆる「子供抱っこ」の形。
「何すんの、下ろしてっ!」
じたばたして落っこちるのが怖くて、肩にしがみついた形で抗議する。
「俺の高さで周り見てみ?俺は腰を屈めれば篠田の高さになれるけど、篠田が俺の高さに合わせられたりしないだろ」
周りにいる人の視線が気になって、それどころじゃない。
でも、そうか。36センチって、こんなに視界が違うのか。
見える木の枝が違う。建物の高さが違う。
すとんと下ろされて、笑われてやしないかと他人の視線を窺ってしまった。
そして、ひとつ気がついたことがある。
「先輩、もしかしたら、歩いてる時ってあたしの頭の天辺しか見えないんじゃ」
「うん。気にしてないと踏み潰しそうになるけど、そんなのは園児達で慣れてるから」
「園児ほど小さくないっ!」
この熊っ!