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肩越しの青空  作者: 蒲公英
捕まっといてやるか
68/73

その3

深い秋になりつつある。

時折吹く風は冷たいけれども、まだすべては落ちていない木の葉の色を楽しみながら、歩く。

森林公園の、雑木林を散策するコースだ。

お弁当持参はすっかりキマリゴトめいていて、本日は朝から一緒に作った。

つまり、前の晩から昭文のアパートに居たってことだ。

やっぱり夜中に目を覚ましちゃうのだけれど、隣に眠っているのが昭文だと確認すると、眠りの続きが訪れた。

今に連続して眠れるようになると思う。

ただ、昭文が使っているセミダブルのマットは狭い。


空が高い。やっぱり昭文には、空が似合う。

仕事の悩みはちっとも解決していないみたいで、時々とても寂しい顔をする。

あたしにはどうしてやることもできなくて、だけど、ひとりでそんな顔をさせたくない。

あたしを膝の中に抱えて大きな溜息を吐く姿は、頼りなくて愛しい。

あたしにできるのは、その厚い胸に寄りかかっていることだけだけれど。


「あの子、転園するんだ」

昭文の悩みの原因の子供の話だと思う。

「離婚することになって、母方の実家に行くみたいだ」

昨晩は言わなかったことを、急に話し出したのは、外の開放感だろうか。

「夫婦喧嘩を見せつけ続けるのも、虐待のうちなんだよ。しかも両方からお互いの悪口を、子供に吹き込んでたらしい。とっとと別居しちゃった方が良かったのに、子供のためとか言って同居続けやがって」

吐き捨てるように言う。

「子供が壊れかけてるのに、俺は何もできない。無力が身に沁みたよ」


「あたしね、その子が昭文の受け持ちで良かったと思う」

空を見上げながら、言った。

「昭文が心を痛めてたの、その子にちゃんと伝わってると思うよ。昭文は味方だって、ちゃんとわかってると思う。子供って、敏感だもん」

お弁当の入ったバッグを下に下ろした昭文が、あたしの腰を掬う。

ああ、また子供抱っこされちゃった。いい加減にして欲しいな、これ。


「捕まえたぞ」

「何?」

「捕まえた。逃げられると思うなよ」

えーと。落ち込んでたんじゃないんですか。

「ひとつくらい、思い通りになったっていいだろ」

ひとつくらいって、もうすでに、いくつものことを思い通りにしてる気がするんですが。

でもいいや。あたしの言葉で、ちょっと気分が変わったんだとしたら、あたしも嬉しい。

・・・捕まっといてやるか。

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