その6
立ち寄った公園は、駐車場から土器の飾られた地下通路をくぐった先だった。
短いけれど、ひんやりした空気。
遺跡の復元住居を見に行こうと歩き出し、ふと昭文の腕に自分の腕を絡めた。
肘が上がっちゃう高さなんだけど、考えてみたら手を繋いで歩いたこともないなーなんて。
だって地元で会うことが殆どだし、そうすると知り合いと会う確率が高いんだもん。
「お」
昭文があたしを見下ろして、目尻一杯に皺を寄せる。
「いいでしょ、腕くらい組んだって」
「いいも悪いも。ああ、昨日からいい日が続くなあ」
仕組んだくせに。
広大な公園の真ん中で、昭文が大きく伸びをする。
「気持ち良いな、ここ。今度は弁当持って、朝早くから来よう」
お天気が良くて、良かったね。昭文の上には、雲がいくつか浮かんだ空が見える。
・・・デジャ・ヴ?
なんだか、同じような光景を前にも見た気がする。
川越のお寺で、ザリガニ釣りで、運動会で、昭文の肩越しに見ているのは、いつも綺麗な青い空だ。
ひとつの光景が、脳裏に広がった。
昭文がその広い肩に小さな男の子を乗せて、芝生の上を歩く後姿。
空は晴れて、白い雲がふたつ浮かんでいる。
後ろからピクニックバスケットを持って歩いているのは―――あたし?
すべて後姿の風景の中で、声は聞こえるけれども、話の内容は聞き取れない。
子供を肩に乗せたまま振り向いた昭文が、目尻に皺を寄せて、何か話しかける。
答える声は楽しげだけれど、やっぱり聞き取れない。
「どうした?ぼーっとして」
話しかけられて、我に返った。
あたし、今、何を見てたんだろう。
目の前に広がるのは、芝を敷き詰めた広場だけだというのに。
あたしに話しかけるために屈みこんだ昭文の肩越しには、やっぱり青空。
ねえ。あたし今、とっても幸せみたい。
私用とか公用とか、感情のバランスとか、どうでもいいや。
青空を背負って立つ人に、そんなこと考えるのは、おかしいよね。
「昭文と旅行できて、良かったなって思って」
返事は、言葉じゃなくて「たかいたかい」だった。