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肩越しの青空  作者: 蒲公英
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その3

5月の終わりという時期が、幸いだったのかどうか、よくわからない。

先輩は実家を離れ、市内で暮らしているらしい。

「なんで?通えるんでしょう?」

「自分で稼げるようになったんだから、自分で生きろって追い出された」

そう言えば我が家の親も、あたしには帰って来いと言ったのに、弟には言わなかったな。


川越の街をぶらぶらと歩きながら、自分が一緒に歩いている人は誰だろうと考えていたりする。

話すときにいちいち上を向くと、首が疲れる。

歩幅はまるっきり違うのに、歩くペースが同じことに気がついて、彼があたしに合わせて歩いていることを知る。

途中でお弁当を買って、お寺で広げた時のことだ。

「あ、ペットボトルとお弁当箱、同じ袋に入れて捨てちゃダメ。あとで分別する人が大変」

何気なく言った言葉で、先輩はくしゃっと笑った。

「ふうん?エコ云々じゃなくて、分別する人の手間を考えるわけだ」


実は、エコ云々っていうのは自分の目にうつりにくいから、あんまり自覚はないのだ。

だけど、ゴミを広げて分別する人の大変さは、一度見ればわかる。

あたしもお祭りの後始末を何度か手伝ったけれど、日常的にその作業をする人のために、少し気を使ってもいいと思う。

「篠田って、俺が思ってた通りの考え方する」

満足げに頷く先輩は、あたしをどんな女だと想像しているんだろう。


「なんで、あたしに声かけたの?」

「隣のマシンにいた人が拭き取らないで立ち上がった時、普通の顔して隣の消毒してたから」

「はあ?」

「なんでもない顔して隣拭いた後にさ、スタッフじゃなくて、その人に直接文句言ったの」

あ、それは覚えてる。

隣の人が立った後に、汚れたままだと次に使う人は気持ち悪いだろうなあって汗を拭きとって、アルコール消毒までしてやって、それから腹が立った。

だって、使う人間の常識じゃない。

いくらお金を払ったジムだって、自分が使ったものの後始末くらい、自分でしようよ、大人なんだから。


――あの、すみません。マシン使い終わったら、汗を拭き取るようにと注意事項があるんですが。

――え?汗なんか、乾いちゃうから関係ないだろ?

あたしより何歳か上の男の人。

――直後に使いたい人は、困ると思います。

――いいじゃないか、そのためにスタッフがいるんだから。

男の人はあたしの顔をバカにしたように見下ろして、(あたしが小さいからだ)後ろを向いて去って行った。

スタッフさんが気が付いて、あたしに謝りに来たけど、謝られる筋合いはない。

あたしが彼に注意したくて、注意したんだから。


「スタッフに言いつけるとか、他人の不道徳を軽蔑しつつ黙ってるって選択肢は、ないんだ?」

実は、それで何度も痛い目は見ているのに、あたしは懲りてない。

「性分なんだもん」

「あの日に、篠田と結婚することにした」

することにした、とか言われても、困るんですけど!

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