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肩越しの青空  作者: 蒲公英
ピンクのエプロン
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その7

自転車は置いていけと言われて、素直に昭文のアパートに戻った。

ひとりで暗い道を走る勇気は、出そうもない。

昭文が車のエンジンをかけるのを、黙って見ていた。

「住宅街だし自転車だしって、俺も軽く考えてた。もう、自転車で来るな」

怒ったような顔で言われて、頷く。

「自転車は、明日家まで届けてやる」

「でも、あたしは被害者になってないよ」

「それはラッキーだったからだ!おまえがあの子でも、何の不思議もない!」

ご尤もだけど。


家の前で車を停めた昭文は、あたしが玄関に入ろうとしたら横から滑り込んできた。

まだ親に紹介する気なんて、全然ないのに。

「なんのつもり?」

「早まりゃしないよ、ご挨拶するだけだ」

ご挨拶って、もう夜の9時過ぎだってば。タダゴトじゃないと思われちゃうじゃない。

「静音?玄関先で何やってんのよ」

母が、顔を出した。


「いつも遅くまで申し訳ありません。原口と申します」

「あら、送ってくださったんですか?まあ、ずいぶん大きな・・・」

玄関の靴脱ぎの上に立った母が、昭文を見上げる。

「家の近くで事件があったので、自転車を置いてきました。明日、持って参りますから」

「事件って・・・それより・・・ねえ、お父さん!」

居間に向かって父まで呼び、なんだかきまりの悪い展開になった。


我が家は全員が小柄だ。

居間にこんな大きな物体があったことは、いまだかつて見たことない。

早まっちゃいない筈の熊は、公務員らしい手堅い態度で、母の信頼をあっさりと掴んで帰って行った。

「ああいう誠実そうな人なら、静音も安心ねえ」

「いや、大男総身にナントカかも知れんぞ」

父は面白くなさそうな顔だけど、それはまあ、いつものこと。

あたしは「事件」の後の自分を考えていた。

あのまま女の子をご両親に引き渡して、ひとりで帰ることもできた筈だ。

なのに昭文に泣きついたのは、心細かったから。

それだけ、あたしは昭文に頼っているのか。


園児だけじゃない、あたしの前にいる時も、多分昭文はピンクのエプロンなんだ。

ニヤニヤ笑ってるけど、その下には懐かしい優しい顔を持ってる。

その顔を受け取れる準備はもう、整ってた。

あたしはあたし自身を昭文に渡す覚悟は、できてる?

今日見せてしまった泣き顔を、悔やむ気持ちはない。

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