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肩越しの青空  作者: 蒲公英
ピンクのエプロン
57/73

その6

前方でガシャンと音がしたのは、自転車を漕ぎ出して1分もしていなかったと思う。

前に車を停めた児童公園の前だ。

倒れた自転車と、後ろのドアを開けた車に、一瞬交通事故だと思った。

違うと気がついたのは、女の子が車に押し込まれそうになるのを見たときだった。

後から考えると、あたしの行動はひどく無鉄砲だったし、相手がひとりだったことはラッキー以外の何ものでもない。

「何してんのよっ!」

自転車のスタンドを下ろし、駆け寄った。


押し込もうとしていた男の注意がこちらを向き、少々緩んだ手から高校生らしき女の子が抜け出すと、男は運転席にまわり、後ろのドアを開けたまま車を急発進させた。

道路にへたり込んでいる女の子の自転車を起こし、道の端に移動させる。

短いスカートを穿いているわけでも、過剰に足を見せびらかしているわけでもない、おとなしそうな女の子。

泣き出したその子の肩を抱き、一緒に道端に座りながら、昭文に電話をした。


塾の帰りなんです。普通に走っていただけなのに、自転車の荷台を急に引っ張られて。立ち上がったら後ろから羽交い絞めで。

しゃくりあげながら震えている女の子を放っておくわけにはいかない。

家に電話させたところで、昭文が走って来る。

「ナンバー見たか?」

「そんなもの、覚える暇なかった!」

自分の口から出た声は、震えていた。


女の子のご両親が車で迎えに来て、自転車を積み込んだ後に丁寧にお礼を言っていった。

頭を下げて見送った後、足から力が抜ける。

大丈夫か、と肩を支えられたら、あたしの喉は勝手に呻き声を上げた。

「相手がひとりで良かった。怖かったろう」

そう言われてから、刃物を持っていたり複数の相手だったりすることを想像する。

「怖かった」

言葉を口に出したら、涙まで一緒にこぼれた。

「怖かったよ。すごく怖かった」

よしよし、と頭を撫でられたら、感情の抑えが利かなくなった。

子供みたいに拳で涙を拭いながら、あたしはただ頭を撫でられていた。


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