その5
園児と違うのは、お喋りしてるうちに隣の部屋に雪崩れ込んじゃうことだけど。
「昼間っから楽しいことしようって言っただろ?」
「それについての返事はしてません!」
「え?生理?」
「・・・じゃないけど」
☆
ウトウトしているうちに、暗くなる。
「メシ、食ってくだろ?買い物行くけど、何食う?」
「あたしも一緒に行く」
服を着けて、一緒にスーパーに向かう。
男と一緒に夕食の買い物したことなんて、あったっけ。
大学時代につきあった男の部屋で、料理を作った記憶はあるけど、あれは材料を持ち込んだ気がする。
一緒にカートを押していると、顔見知りに会う。
「あれ?静音ちゃん、結婚したの?」
「してないんですー。友達と集まってるだけで、買出し係なんです」
地元だから、いらない詮索除けは必須だ。
「生姜焼き、何枚食う?」
「いや、普通にっ!」
熊に人間の普通は、通じない。
一緒に買い物して一緒に料理するっていうのが、なんだか慣れない。
昭文のアパートは古いので、キッチンはそんなに狭くないけど、全体的に背が低い。
あたしには助かる高さだけれど、全部に腰を屈める昭文は、ずいぶん大変そうだ。
「じゃ、あたしが包丁使うから、昭文がお鍋の方」
なーんて役割分担は、結構スムーズ。
キャベツを千切りする間に、昭文がフライパンの中に生姜をすりおろす。
「食器、偏ってない?」
「ああ、結婚式の引き出物で小鉢が重なったからな。後はカレー皿」
そう言えば、前回は小鉢でご飯を食べた気がする。
今回も、買ってないや。
昭文が上機嫌な顔で、食卓の前に胡坐をかく。
「いいなあ。普段はひとりで作って食うだけだから、皿ひとつで済むものだもん」
「カレーとか?」
「カレーにすると、3日間カレー食べ続け。丼モノが多いかな」
満足そうな昭文の顔が嬉しいなんて、あたしもヤキがまわったな。
一緒に洗い物もして、帰るような時間になる。
「送るぞ?」
「自転車だもん、大丈夫」
「明るい道で帰れよ。携帯も、すぐ出せるようにしとけ」
やっぱり、お母さんか、あんたは。
「何かされそうになったら、迷わず股間蹴り上げろよ」
「はいはい」
まだ何か言いたそうな昭文を残して、自転車を漕ぎ出す。
スポーツクラブのお風呂は行けないけど、今日は家で長風呂しようかなーとか思いながら。
☆は、月と仲良しですから・・・(笑)