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肩越しの青空  作者: 蒲公英
ピンクのエプロン
55/73

その4

夜、酔っ払った昭文から電話が来る。

「静音ちゃーん、あいしてるよーっ!」

「アホかっ!」

「明日は早い時間においでー。昼間っから楽しいことしようねー」

楽しいこととは、何ぞや?

電話が切れそうもないので、とりあえず「わかったわかった」と言っておく。

そんな姿を見たら子供たちが泣きます、あきふみせんせい。


薄緑のポロシャツとピンクのエプロンは、あたしの頭に焼き付いてしまったらしい。

そしてその姿を思い出すと、背景は秋晴れの空になる。

懐かしいような慕わしいような気分になるのは、子供たちに向ける表情に見覚えがあるからだ。

美術館で原爆の図に怯んだあたしの顔を、覗き込んだ時。

昭文が弱者に向ける視線は、常に「手を貸す準備はできている」の合図みたいだ。

ベッドの中で雑誌を広げながら、「結婚」について考えたりする。


たとえば今、昭文が目の前からいなくなったら。

多分、悲しいとは思う。しばらくは泣くかも知れない。

そしてしばらく泣いた後、あたしは次の恋の相手を見つけるだろう。

どうしても昭文じゃなくてはいけないという、強い思い込みをあたしは持っていない。

昭文はあたしを「手元に置きたい」と言ったけれど、あたしは昭文の懐にいる気が、ぜんぜんしないのだ。

これは、あたしの方の問題なんだろうか。


で、結局寝坊して、洗濯したり掃除したり、母の庭仕事に呼ばれたりで、焦れた昭文からメールが来る。

「夕ご飯に帰ってくるの?」

「わかんないから、用意しなくていい」

返事して、車庫から引っ張り出すのは自転車だ。

「遅くなるなら、自転車はやめなさい。最近物騒だから」

「えー?歩きじゃないんだから。こんな住宅街だしー」

生返事で走り出す。

中高生みたいに無防備に足を出して歩いてるわけじゃなし、深夜になるわけじゃなし。


昭文のアパートの自転車置き場に自転車を入れ、スニーカー(でかい)をドアストッパー代わりに挟んだ玄関を開ける。

「おお。待ってたぞ。よく来たよく来た」

だーかーらーっ!抱え込んで頭撫でないで!園児じゃないんだからっ!

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