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肩越しの青空  作者: 蒲公英
ピンクのエプロン
53/73

その2

お昼の休憩時間に一度退場しようと思ったら、比較的大きめな女の子に声を掛けられた。

「おどりのおねえさん!」

ああ、冷たいタオルで首を冷やしてくれた子だ。

「こんにちは。運動会、見に来たよ」

「びょうき、なおった?」

病気?ああ、熱中症のことか。

「治ったよ。看病してくれたから、すぐに治っちゃった。ありがとうね」

「なつは、お水いっぱいのまないと、びょうきになっちゃうんだよ!」

・・・はい、身にしみました。ご忠告ありがとう。


小首を傾げて話す彼女の後ろから、若いお母さんがあらわれる。

「ゆまちゃん、お弁当食べないと・・・あらっ!踊りの先生!」

「・・・先生じゃありません。その節は、ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ。原口先生が慌てた顔してるから、おかしくて。普段怒ったり慌てたりしないのに、あーんな顔」

お母さんが愉快そうに笑う分、いたたまれない。

「この子がね、踊りのお姉さんみたいになるんだって、家でも鳴子鳴らしてて」

ゆまちゃんは、お母さんの後ろに隠れた。

「じゃあ、ゆまちゃんが踊るとこ、見せてね」


一番近いコンビニエンスストアでサンドウィッチを買って、保育園に戻る。

お昼寝の必要な小さい子は帰宅してしまい、園庭は混雑が緩和されている。

残りは5歳児と6歳児のかけっこと、最後に「正調よさこい鳴子踊り」だ。

そこまで見ていこうかなーなんて思っていて、すっかり忘れていた人から声を掛かった。

「あれ?篠田さん?」

会社のパートさんだ。

この人はお祭りに参加していなかったので、もちろんあたしが踊ったことを知らない。

「どうしたの?あ、やっぱり原口先生とつきあってるの?」

うう。そうですけど、ここで明るく言わないで。


パートさんと一緒にいた人は、お祭り参加者だったらしい。

「え?踊りのお姉さんって原口先生の彼女だったの?」

考えてみれば、保育園児のお母さんってのは、あたしと年齢がそう変わらないのだ。

あっという間に広がる話。

いたたまれません。帰っていいでしょうか。

「さくら組さんのかけっこが始まりますよ?ビデオ用意しなくていいんですか?」

開放されて逃げ帰ろうかと思ったんだけれど、園長先生は運動会が終わらないと忙しそうだし、ゆまちゃんが踊るのを見るって言っちゃったし。

身体を縮めること30分で、最後の締めの鳴子踊りになった。


小さい鳴子が子供たちに配られるのを見ていたら、一人の保育士さんが私にも差し出す。

「あのっ!あたし、関係者じゃないんですけど!」

「原口先生のお身内の方なら、関係者です。どうぞ」

みっ身内?熊のヤツ、保育園であたしをどう説明したんだ。

高校の後輩で、ちょっと踊れる子、程度の説明だと思ってたのに。

ますますいたたまれなくなって、頭を下げながら鳴子を受け取った。

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